第二十五話 資金繰り
その晩、セラムは悩んでいた。
「金が足りない……」
国で有数の名家が資金難で悩むとは誰が思っただろう。
敢えて言おう。ジオーネ家は金持ちである。何もしなくても三代は豪遊して暮らせる財産を持っている。だが資金難である。
複数の事業を立ち上げ、新しい物を一から作るその開発費は余りにも莫大なものだった。研究開発を舐めていた、と言ってもいい。
「こうなれば借金するか? だがそう簡単に貸してくれるか?」
何せ額が額である。見込みは有るが実績が無い事業。金貸しというのはリスクに敏感なものだ。そう簡単に首を縦には振らないだろう。
「回収できる確信はあるんだ。けどどうやって納得させる? 売上の一部を渡すか。いや、利益を損なわず金を借りる。なるべく共同事業にはしたくない。更なる研究のために。更なる開発のために。金を儲ける理由を忘れるな。全ては生活環境の向上のため……」
机にかじりついてブツブツ言うセラムを見てベルが心配そうに声をかける。
「セラム様、最近ずっとお悩みの様子。私に出来る事があれば何でもご協力致しますのに」
「ああ、ありがとう。何かあれば呼ぶ……」
協力、と聞いてセラムの脳裏にある文字が浮かんだ。テレビでよく映る、顔のアップで目の所を丁度隠すように出てくるあの二文字だ。
「提供……。そうだ! スポンサーを募ろう!」
セラムが顔を上げる。
「すぽんさー?」
「ああ、開発した商品の名前を好きに付けられる権利の代わりに金を貸してもらうんだ。これによってその人がこの商品に協力してますよ、というアピールになる。その人が広めたい名前でもいい。医薬品みたいな人を助ける商品とは相性が良いはずだ。お互いが得してこちらの腹も痛まない。勿論悪用されないよう命名権に条件は付けるけどね」
「それは良いアイデアかもしれません。早速スポンサーの候補を絞りましょうか。金持ちでかつ自分の名前を売りたい、もしくは売りたい名前がある人ですね」
その晩セラムとベルは遅くまで話し合った。後にセラムは「借金の達人」と言われるようになる。




