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少女と戦争  作者: 長月あきの
第三章
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第十七話 くっころ

 目的の村に辿り着き御者の男に礼を言い別れると、セラムとカゴメは馬車の中でずっと同じ姿勢だった体を大空の下でうんと伸ばし深呼吸をする。


「う~~っはあ~。やっと解放されたで。馬車とか乗り慣れとらんから、もう地面が恋しゅうてなあ。さ、はよ宿に行こうや」


「何を言っている。我々はすぐに村長に挨拶をして魔物退治に向かうぞ」


「はあぁあ!?」


 ひたすら揺られた馬車旅の疲れを微塵も見せずに無感情に言うバルナバに、カゴメの驚愕と不満が唾の飛沫と共に飛び散る。

 セラムとしてもその気持ちは分かるが、一刻も無駄に出来ないこの情勢の中での旅であるので、ここはバルナバに賛同しておく事にする。


「そうですよ。気持ちは分かりますがまだ日も高いですし、出来るだけ急ぎたいのも確かです。取り敢えず村長に挨拶に行きましょう」


「う……、まあ依頼人がそう言うんなら、しゃーないか」


 やっと休めるという期待を裏切られたカゴメは意気消沈しながらもしぶしぶ納得する。


「意見が一致したようだな。この村は現在出没する魔物に悩まされている。我々はすぐに近辺の魔物を滅ぼさねばならん。それに我々だけで野宿をすれば囮にもなる」


 そのバルナバの言葉を聞いてセラムは、この男は確かにセラムの見張り役という任務はあれど人の為に魔物退治をする気持ちは本物なのだなと確信した。立場の違いで疑い合う仲とはいえ、決して悪い人ではないんだと思った。


「……? 何だ」


 セラムの視線に気付いたらしい。バルナバがセラムに問う。


「いえ、良い人なんだなって安心しただけです」


 誤魔化す様子も無く感情を素直にぶつけてくるセラムにバルナバの鉄面皮が微妙に動く。しかし結局それ以上の反応は見せず、無言のままバルナバの先導で村長の家に向かった。

 教会からの派遣という身分はとても信用があるらしい。一言二言、挨拶と用向きを伝えただけで村長からは感謝感激され宴が開かれかけた程だ。それをバルナバが「報酬を貰うのは禁止されている」と辞退して早々に村を出ようとした為にカゴメからは「飯くらいええやんか」と散々な愚痴を聞かされたが。

 結局一泊もせずにすぐ出立となり、村の出口で旅支度の確認をする。


「んでセラムはん、必要なもん買い忘れたとか無いか?」


「出発前に揃えてもらいましたからね。水と食料を買い足したくらいです」


「ふーん、その鞄には何が入っとるん?」


「水、食料、替えの服や下着、携帯用の生活用具、布、綿、医薬品、ナイフ、油、調味料……」


「流石貴族やなあ。薬とかもあるし物が高級そうやわ。……うぇ、縄とか無いんかい」


 セラムの鞄の中身を一緒に見ていたカゴメは感心と呆れを同時に表す。


「そういえば持ってきてないですね」


「ま、長旅やあらへんし必要ないかもしれへんけどな。あると便利やで? 縄は登る、降りる、結ぶ、繋ぐ、とにかく色んなもんに使う。罠にも使えるし、ほぐせば火を(おこ)す時の火種にだってなるで。有ると無いでは命を左右する事だってあるし」


 そういえば昔テーブルトークRPGをやっていた時はロープと油は必需品として必ずストックするアイテムだった。思わぬところでセピア色の想い出が蘇るものだとセラムは少し嬉しくなる。


「買ってきます」


「まーええやろ。ウチが持っとるからセラムはんの分くらい大丈夫や。そんな長旅やあらへんし。まっ、おっさんは知らんけど」


「心配無用だ」


 カゴメの意地悪な視線も意に介せずバルナバが短く答える。


「村長さんから聞いた話では魔物の巣と思われる辺りはここから三日くらいの地点でしたっけ。バルナバさんが内容を把握しているようなので口を挟みませんでしたが、どんな魔物で何匹いるんですか?」


「オークが三匹だ」


「オークですか。薄い本では大変お世話になりました……」


 まさか現実に討伐しに行く事になるとは過去の自分は夢にも思うまい。そして「くっころ」を言う側になるかもしれないと思うとぞっとしない。


「ウス=異本? なんやそれ。禁書の類いか?」


「いや、違います。気にしないでください」


 禁書とは様々な理由で禁じられた本、この世界では主に魔法に関する本が多い。なにせ魔を忌避し、魔物を天敵とし、魔族を恐れ、魔法使いを迫害してきた歴史がある。当然魔法そのものを忌み嫌った時代もあったし、魔法を修練する事が禁忌とされてきた時代もある。今では大分緩和されてきたとはいえ、魔は魔を呼ぶと言われるこの世界で魔に係わる本は禁書となる事が多かった。

 だがセラムが言っている本はそれらとは全く関係の無い代物である。


「しっかしオークかあ~、まじか~。結構強敵やん。何とか一匹ずつ(おび)き出せんかなあ」


「カゴメさんでもきついですか」


「当たり前や。オーガ程やないにしろ奴ら力も強いし頑丈やからな。一匹ずつならともかく一気に来られると辛いわ。奴ら武装しとる場合もあるしな」


 そう言った後カゴメがセラムの肩を抱き顔を近づけ耳打ちする。


「ウチにも苦手な状況がある。避ける()も見えん程の広範囲攻撃か、動きが付いてかん程の素早い攻撃とか連続攻撃や。もしそうなりかねんと思ったら言うさかい、セラムはんは逃げえ」


 耳元にかかる息にセラムが身震いしていると、バルナバは無表情に、そして無慈悲に言った。


「何を話しているか知らんがもし逃げれば貴様は魔族と断じられ滅せられる事を忘れるな」


 そんなバルナバにカゴメはしかめっ面で大きく舌打ちする。カゴメの気遣いは嬉しいがセラムに退路は無い。例えカゴメが投げ出そうが一人でもやるしか道は無い。


「そう言うあんたはどうなんや。危なくなったら手ぇ出したりはせえへんのかい。流石にオークを野放しにはでけへんやろ」


「俺は自分の身を守る以上の事はせん」


「っかあ~、これだわ。ええかげん薄情すぎるやろ」


「任務だ」


「ちゅうてもウチらやられてもうたらどうすんねん。あんた一人で逃げるとでも言うんかい」


「その時は俺一人で魔物を滅し帰還する」


 その返答にカゴメは聞こえるように「ケッ」と腹に溜まった不満を吐き捨てた。セラムは顔に飛んできていた唾を拭きながら(セラムの顔の横でエキサイトしていたカゴメの口からずっと飛沫が飛んでいたのだ)場を取り成すように建設的な意見を述べた。


「ここで口喧嘩をしていても始まりませんし、とにかく進みましょうか。僕としても出来るだけ急ぎたい」


 その意見に双方とも異は無かったようで、気まずい雰囲気ながらも三人はオークが出るという山に向かった。


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