第十三話 ヴィグエント
ヴィグエントの街はグラーフ王国側の防御が厚い反面ヴァイス王国側は薄くなっている。それをカバーするため、斜め後方の左右に砦が築かれている。どこかが攻撃されれば横から援軍を出し挟撃する仕組みの要害であった。その地まであと少しというところで早馬が王都の方向へ向かっている最中に鉢合わせた。
アドルフォが伝令兵を呼び止める。
「ダリオ副将軍の伝令か。我々はヴィグエントの援軍に来た部隊である。内容を確認したい」
「はっ、これはアドルフォ副将軍。ダリオ副将軍からの報告であります。『ヴィグエントは陥落した。我々はこれより第三防衛線まで後退する』以上です」
「何だと!? 馬鹿な、早過ぎる!」
その場に動揺が走る。援軍を送る旨の早馬は出しているが、このタイミングでは入れ違いになった可能性が高い。援軍の一報が間に合って思い留まっていれば良いが、既に撤収作業に入っていれば再び立て直すのは困難だろう。
「お前が出発した時の状況はどうなっていた?」
「大分押されていました。私が出る時にはダリオ副将軍は撤退の準備をしていました」
「ダリオめ。こういう時だけ判断が早い」
隣にいたセラムにはアドルフォの舌打ちが聞こえた。その場にいた百人長の一人がアドルフォに尋ねる。
「我らはどうしますか?」
「今更ただで引き返すわけにもいかん。ダリオ副将軍に合流しよう。伝令、ダリオ副将軍はどちらにおられる?」
「西の砦におられた事を確認しています」
「ご苦労、任務に戻れ」
「はっ」
伝令兵が再び王都に向けて駆けてゆく。
「我々は西の砦へ向かう!」
そろそろ日が没する。東の空は闇が下り始めていた。