「英雄の軌跡」より抜粋その3
これはセラム・ジオーネの肖像画である。近年の研究により、後年セラム・ジオーネの若い頃を描いた物だと判明している。
実は同じように彼女が十二、三歳の頃を描いた絵は複数存在する。
当時から英雄譚としてセラム・ジオーネの物語は人気であり、特に需要が高かった時期を当時の画家が好んで描いていたと思われる。
凛々しい表情が多い事が特徴で、青みがかった銀髪に蒼い瞳、白い肌、歳相応に華奢であり見た目は軍人らしくない。兵士と一緒に描かれている絵を見るに、一般的な男性よりも頭二つ分ほど背が小さく、そんな彼女が指先一つで屈強な兵士達を従えていたと想像すると、いっそ微笑ましくなる光景である。
ところでこれらの絵にはある共通点が見られる。
構図や服装、背景は様々だが、セラム・ジオーネの首には必ずスカーフやマフラー等の長い布が巻かれているのである。一説では彼女は臆病だったため、表情を隠すこのような物を好んで巻いていたと言われている。指揮官が怯えた表情をしていては士気に関わるというわけだ。
因みに実は醜い顔を隠すため、顔の傷を隠すため等の説もあるが、研究家により可能性の低い俗説であると断じられている。この件に関しては私も一人の研究家として、彼女の名誉のために否定的な立場をとるものである。
それらの真偽は兎も角、彼女が首巻きを好んで使用したのは確かなようで、戦史叢書にも「赤い首巻きが敵の総大将だ、赤布を狙え。号令のもと一斉に矢が空を覆い」という一節があるように、戦場でのシンボルとして敵味方に知られていた。
首に巻かれた赤布が風にたなびく彼女の立ち姿は、きっと多くの将兵を勇気づけたことであろう。
ルドヴィコ・サリ著「英雄の軌跡」より
以前載せていた挿絵のURLを下部に書いておきます。下手な絵でも見てやんよという奇特な方がおられましたら、こちらからみてみんへ飛ぶ事ができます。
http://14730.mitemin.net/i155959/




