「音楽~それはこの世で最も自由なもの」より抜粋
音楽はずっと虐げられてきた。音楽家は職に就けない、卑しい者がなるものだと教えられてきた。人々を熱狂させ、人々に求められてきたのにもかかわらず、不当に貶められてきた。
昔の音楽は政治や宗教で重要な意味を持ち、それ故に音楽家は貴族の子がなる栄誉ある役割だった。爵位を継げない次子は教養として楽器を習い、才能ある者が音楽家として召し抱えられたのである。
その常識を打ち破ったのはセラム・ジオーネという貴族である。軍人でもあった彼女は戦傷で障害を持った者達を集めて楽隊を結成した。また、自らも曲を作り音楽を平民に広めた。彼女が作る音楽は当時としては有り得ないような斬新なものであり、今現在聴いてもまったく風化しない創造性に溢れた旋律だった。そして傷病者の音楽は瞬く間に全土に広まったのである。
だが、それが皮肉にも音楽の地位を貶める結果に繋がった。所詮失業者がなるもの、それが世間一般の認識だったのである。傷病者の受け皿にと作った彼女の楽隊は、平民と音楽の垣根を除くと共に音楽そのものの価値を失墜させてしまった。
彼女は偉大な音楽家であるが、音楽家にとって良き先導者には成れなかった。以来音楽家は収入が低く生活が不安定な、永く苦しい暗黒期に陥ることになる。
しかしそれももう過去のもの。今や我がノワール共和国には音楽都市レイヴンレオナルドがあり、年に一回開催される大音楽祭は大陸中から人々が押し寄せる世界有数の祭りである。
音楽は何にも縛られない自由の象徴である。
さあ歌おう友よ。我々は過去の軛から完全に解き放たれたのだ。
ウィルバー・レトリー著「音楽~それはこの世で最も自由なもの」




