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少女と戦争  作者: 長月あきの
第二章 第一部
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第四十四話 病院視察5

 自由に動けるようになったセラムがまず行った所は、水道場だった。迂闊にも下水が染み込んでいるかもしれない壁を触ってしまったからだ。まずは手を洗わないと患者にも危険が及ぶ。

 そう考え案内人にその旨を伝えると、彼はあっけらかんと言った。


「構いませんが、手を洗うことで何か危険が遠ざけられるのですか?」


 この言葉にセラムは目眩がした。衛生観念が現代とまったく違う。恐ろしいことに医療の現場ですら衛生と病気の因果関係を理解していないのだ。

 水道場と言ったが、セラムの期待していた施設とは似ても似つかない、そこは幾つかの水瓶が並んでいるだけの場所だった。

 横においてある桶で掬ってみるとやはりというか、何か浮いている。塵や芥程度であればまだ良いが、目に見えない毒、つまり細菌が混じっていると怖い。


「ここの水はどこから持ってきているのですか?」


「ここから歩いて一時間程の所に貯水場があって、そこから運んできています」


 微妙に遠い。馬車等で運んだとしても、毎日では重労働だろう。

 何故未だに水道設備を整えていないのだ、と苛立つ。だがセラムが悪いのだ。考えてみれば公共性の高い、特に医療に関わる場所は上水道とポンプの敷設は最優先で行うべきだと判断出来る筈。だがセラムは確かに公共性の高さを優先順位に上げたものの、中央から順にやっていったため、このような郊外の病院は後回しにされる事になったのである。

 当時から人手の少なさは問題視されていた。ヴィルフレドは権限のなかでよくやっているのである。

 常に最善を尽くしてきたと思ってはいる。だがそれでも思う。


「僕は莫迦か……っ」


「何か?」


「いえ、そちらも見たいのですが少し遠いですね。馬車を停めてありますのでそれで行きましょう」


しばし揺られた先で辿り着いた貯水場はセラムが想像した貯水池よりもずっと野性的で、何というか、大きい水溜りと言ったほうが正しいように思えた。


「底が見えませんね……」


 透明度も高くなく、ゴミも浮いている。底に何か沈んでいても分からない。

 セラムは昔見たタンクの中に白骨化した死体があったというニュースを思い出した。現代でも発見が遅れる事はある。ましてやこんな野ざらしの状態だ。

 このまま放置すれば最悪、ここがパンデミックの中心となるかもしれない。


「水の汚染はコレラ……疫病の元になります。後でこちらにも調査団を向けましょう」


 実地調査するのはセラムの役目ではない。なるべく幅広く見回り出来るだけセラムしか分からない問題点を見つけるのだ。


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