第三十八話 魔物討伐5
どうやら先程のが最後の抵抗だったらしく順調に包囲を狭めわざと逃した一匹を追いかけて巣へと案内させる。ゴブリンの巣に辿り着いたセラムが見たものは一匹の傷ついて動けないゴブリンと一処に固まる小さなゴブリン達であった。
「どうやらこいつらが最後のようです」
バッカスの一人が言う。カルロは頷き無表情に片手を挙げる。
「ま、待て待て待て」
セラムの口から出たのは制止の言葉だった。この光景に動悸が激しくなる。
「こいつらは子供じゃないのか? こいつらも殺すのか?」
「だから何です? 魔物は殺さねばならない。お教えしたでしょう、魔は魔を呼ぶ。大事になる前に根絶するしかないのです」
カルロの口調は冷たい。まるで人間的な感情を凍りつかせてしまったように。
「他にやりようはないのか? 人里離れた野に放すとか」
「駄目です。そんな手間はかけられないし、いつか人里に降りてくるでしょう。こいつらが増えないとも限りません」
「しかし……そうだ、いっそ敵領地に放り出すというのは」
「少将……」
カルロが更に言おうとしたその時であった。バッカスがおもむろに進み出て槍を地面に突き刺して、代わりに剣を抜く。
傷ついたゴブリンが顔を上げたその刹那、ゴブリンの胴から首が無くなっていた。
間を置かずに子供のゴブリンも同じ姿になった。
セラムは止める間もなくその光景を見ていた。
バッカスは振り返り悪びれもせずセラムに言い放つ。
「タイショー、こういうのは苦しませる事なくさっとやっちまったほうがいいんでさ」
「……しかし」
「少将、バッカスの言う通りです。我々は人間であり、魔物と人間は相容れない存在なのです」
なおも何かを言わんとするセラムをカルロが遮った。セラムは俯き額に手を当てた後、首を振って顔を上げた。
「すまなかった、僕がどうかしていた。バッカス、見事な腕前だった。ありがとう、気を遣ってくれたのだろう?」
バッカスはそっぽを向いて頭を掻いている。
カルロが腰から九十度に折り曲げセラムに深々と礼をする。
「セラム少将、申し訳ありませんでした。実はガイウス宰相に申し付けられ、少将には敢えてこの世界の暗い側面を見ていただきました。上官に対する命令不服従の処罰は慎んで受ける所存です」
「カルロ中佐、僕の詫びをなかった事にするつもりか? 君は正しい事をした。罰も何もあるものか」
カルロがセラムの微笑みに滂沱たる涙を流した。カルロは「申し訳ありません。申し訳ありません」と繰り返す。
(僕は上手く笑えていただろうか。引きつっていたのだろうか。それとも逆に笑えていてしまったからこそ彼はこんな顔をしているのだろうか)
セラムには分からない。自分の表情も、感情も、魔物と言われる異形の者達にどう相対すべきかも。




