第三十五話 魔物討伐2
「魔物と獣の違いは、悪神ニムンザルグの加護を受けているかで分類されます。これはどのように見極めるかというと、魔族となった者の命令を受け付けるかどうかで判ります」
「それはまた限定的な決め方だな。それでは今迄獣だと思っていたのが魔物だった、ということが起こるのか」
「ええ、そうして新しく魔物認定されたものもいますし、その逆もあり得るでしょう。事実多くの人が魔物だと思っているものが正式に魔物認定されていない場合があります」
「加護を受けていると何かあるのか?」
「それは先程言った魔族の命令を聞くかどうかの違いだけですね。魔物は悪神ニムンザルグが創ったものだと言われています。ニムンザルグの眷属となった魔族は魔物の上位存在と言えますので、魔物は彼らの命令を聞くようになると云われています。とはいえ魔物の生態は謎に包まれている事が多く未だ知られていない何かがあるかもしれません」
「ふむ、魔物がらみは大事になる可能性があると言ったな。魔族に関係があるのか? ただの群れだったのが魔族によって軍隊になる、と」
「勿論それもあります。魔族化はいつでも、どこにでも危険性がある事案ですから。ただ、それだけではありません。魔物が集まると魔を呼ぶ、という言葉があります。魔物はどこからか不意に現れる事があります。目撃例は少ないですが、暗い所に裂け目ができてその穴から魔物が這い出てきた、という証言があります。何らかの条件下で魔界に繋がり魔物がこの世界にやってくる場合があるようです。魔物が大量発生している地域で散見されることからそのように言われるのでしょう。魔界に繋がったから大量発生したのか、大量発生しているから魔界に繋がるのか、或いはその両方なのかは分かりませんが」
「成る程、放ってはおけないことは分かった。ところでその話で気になったんだが、今いる魔物は全て魔界からやってきたものなのか? つまり、その、繁殖するのか、ということだが」
「なにぶん生態がまだまだ分からないものが多いのであれですが、雄、雌の個体が確認されている種もあります。ただ、中には、その、言いにくいのですが……」
ここにきて非常に歯切れが悪くなるカルロ。言おうか言うまいか迷っているようだ。
「何だ? 余計気になるから言ってくれ。遠慮は要らん」
「はい……。人間や亜人の女性を攫って子供を産ませる事例もあります……。痛ましいことですが、その場合母体はまず生き残れず、生まれてきた仔は魔物そのままの姿で生まれてきます」
カルロがどもった理由が解った。確かに女性、しかも子供のセラムには言いにくいことだろう。
「そうか。いや、君は気にしなくていい。僕が言わせたことだ」
益々放ってはおけなくなった。今は人的被害がないようだが、近隣の住民の不安は相当なものだろう。
「知能が高い魔物がいると言ったな。言葉が解る魔物もいるのか?」
「どうでしょう。今のところは確認されておりません。彼ら同士で声による意思の疎通はあるかもしれませんが、人語を解する個体は神話の時代にいたとされる魔物くらいですね。それも今の分類方法からすれば魔物になるかどうか。その昔は亜人種ですら魔物と同一視されていたくらいですから。人型とかけ離れた姿でも人語を解する種族はいますしね」
「それは、竜種か」
ゲーム上では設定のみで出てきたことは無かったが、竜の中でも下位種の飛竜を飼い慣らした竜騎士という職があった。今聞く限りでは竜は魔物扱いではないのだろう。
「そうですね。古竜には人語を話せる竜がいると聞きます。一度会ってみたいものですね。彼らがどのような考えを持っているのか。あまり友好的ではないので少々怖くもありますが」
「大体前提知識は揃った。で、本題の今回の案件だが、標的、規模、場所について教えてくれるか」
「はい。確認されているのはゴブリンの群れ約五十体。彼らはある程度の知能を持ち原始的な武器を扱います。棍棒や農家から奪ったフォークなどの農具で武装している可能性が高いです。場所は山の中腹辺りに巣があるようです」
「山、か。木々に邪魔されて弓は使えんな。直接叩くしかないか。なるべく兵の損耗は避けたい。どのくらいの兵力がいる?」
「圧勝するだけなら百五十、ですが先程も言ったように魔物相手は予測がつかない事態があり得ます。二百程あれば大概の事には対処出来るでしょう」
「分かった。人選は任す。出立は明日、それまでに準備しておけ」
「はっ」
「それと砲兵科だが」
「はい。彼らも連れて行くのですか?」
「いや、そうではない。ただああいう物はきちんと手入れをしないといざという時にまともに動かない。新設された部隊だから扱いの技術情報が蓄積されていないだろう? 彼らの仕事ぶりが気になってな」
「分かりました。いい感じにさせましょう」
軍隊用語で「人間には不可能な精度で」という意味である。ちなみに「適当に」は「死ぬくらい全力で」だ。
こういう時のカルロは本当に頼りになる。的確で過不足のない仕事ぶりには頭が下がる思いだ。




