第十話 決意
軍議が終わってすぐセラムは廊下を歩くアドルフォを呼び止めた。ある意思を伝えるためだ。軍議中に言わなかったのは徒に軍議をかき回したくなかったからである。
「セラム殿、何か?」
セラムはアドルフォを見上げ一呼吸置く。軍議中ずっと考えていたこ事だとはいえ、口にするのは覚悟がいった。
「僕も従軍させてください」
アドルフォが目を見開く。
「それはつまり最前線に行くということですぞ」
「わかっています」
「危険です。それに籠城となれば何ヶ月も帰れない場合もあります」
「承知の上です」
「私は反対です。あなたはまだ幼い。経験を積まれるのならばもっと良い場があるでしょう」
「それも考えはしました」
このまま成り行きに任せてもゲーム通りに進むのかもしれない。当然戦場に行くのは怖い。筋書き通りにいくまでは家に閉じこもっていたい。だが動かないのはもっと怖かったのだ。
「ですが僕はもう箱入りのままではいられないのです。雑用でも何でもします。どうか同行をお許しください」
「……頭を上げてください。大恩ある将軍のお子さんにそこまで言われては断れないではありませんか」
「では……!」
「私の指示には必ず従って頂きます。戦況如何によっては傷病兵と共に引き返して頂く場合もあります。それでもよろしいですね?」
「ありがとうございます!」
将軍の娘だから。頼み事を聞いてくれる人は皆一様にそう思っている。生前の父とはさぞかし立派な人だったのだろう。
元の世界では長い一人暮らしでいつしか自分一人の力で生活しているような気になっていた。このまま安穏と生きるのだろうとも。
皮肉な事にゲームの世界だというのに今の方が余程死を身近に感じる。そして人に生かされていると、嫌が応にも考えさせられるのだ。それだけに感謝は真に心からの言葉だった。