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第二十九話 リカルドの独白
リカルドはセラムが去った後独 り言ちる。
「天才、か……。そう一言で表せば簡単なものだが」
彼女からはあの小さな身体に見合わぬ凄みを感じる。
「戦略を描かせれば神算鬼謀、兵器の開発に携われば鬼才、戦闘の指揮を執れば一流、軍事に携われば奇策縦横、内政をさせれば無類」
難を言えば経験の少なさからか少々無謀なところが見られるくらいか。
「彼女の父親は八面玲瓏な人物だったが、それとはまた違う才だ。あの歳であの博学多才ぶり」
そう、あの歳でだ。いったいいつあれ程の知識を身に付けたというのか。
その上歳に見合わぬ無欲さは不気味とすら言える。
だが彼女の出自は確かなものだ。ヴァイス王国将軍の忘れ形見でアルテア王女の友人、その境遇を考えればこの国への……いや、王女への忠誠心は疑うべくもないだろう。
「何にしても今この国の政務部と軍部と貴族、そして王女を繋ぎ止めているのはセラム、貴殿なのだ。頼むぞ……」




