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少女と戦争  作者: 長月あきの
第二章 第一部
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第二十七話 城での執務4

「ええっと、これ、最初に徴兵した後再編成するわけには?」


「無理だな。戦争毎に徴兵するわけだから人員も毎回同じなわけじゃない。連携も取れないし何より実際に金を出すのは貴族なのだ。兵士を送り出す為に支度金、装備、食事代、宿代、輸送代、訓練代がいる。その調達方法も代金もバラバラ。しかもその間働き盛りの二十代、三十代の男が減るわけだ。領地の生産性も減るし治安も悪くなる。そこまでして出した兵を自分の管轄外に送られる貴族の身になってみろ。到底容認できんだろ」


 言いたいことはわかる。が、持ち寄った軍隊は無駄がありすぎる。装備や金の流れを一括で管理できればかなり安く済む筈だし部隊編成も槍隊、弓隊など役割をしっかり分ける事が出来る。これでは正に烏合の衆だ。


(ん? ちょっと待てよ)


 さっきのリカルドの話で引っかかるところがあった。領地の治安が悪くなると彼は言った。

 血気盛んな二、三十代の男が出て行くならむしろ治安は良くなるんじゃないか?


「まさか、徴兵に警備関係の人間を使っているんですか?」


「ん? ああ、まず自警団や警備兵が駆り出されるな」


 そのまさかだ。この国では軍隊と警察の役割が分かれていない。

 グラーフ王国は軍事大国だ。捕虜の情報では徴兵制度があり、全員が規律ある軍隊行動を叩きこまれている。広大な土地を武器に基本が叩きこまれた兵士が畑から採れるわけだ。また、捕虜を奴隷戦士として最前列に送り込む慣習があると聞くと先頭は脆い印象を受けるが、戦ってみると意外とそうでもない。これは元々他国の兵士だった者達なので準戦力である事と、脅しでなく後ろから射られかねないので死に物狂いである事が士気を生んでいるのだろう。そしてその者達は三回生き延びれば正規兵として扱われるが、そもそも最前線で三回も戦えばそこらの農民でも歴戦の勇士になる。

 ヴァイス王国軍は戦う前から質量共に大差をつけられている。


「確かに武器の扱いについては少しマシかも知れませんが軍隊に組み込むのは間違いです。結局農民と大差ないのだから領地にいて治安維持に努めてもらったほうがまだいい」


 セラムの物言いにリカルドも不快な顔になる。


「農民と大差ないとはどういうことだ?」


「正規の訓練を受けていない自警団が隊列を組んで長距離を行軍し、戦場で号令とともに突撃したり合図一つで隊列を組み直したりは出来ません。そもそも彼らは軍隊ですらないのですから槍を構えて整列出来ればいいとこ、軍隊は全体が命令通りに即座に動いて始めて機能します」


「そんなことはわかっている」


「我が国は半志願制です。それをこの間の軍制改革で給料体系を明らかにし、年齢制限を引き下げ枠を広げた。国民の危機意識の広がりに賭け、志願制に移行しようとしているのです。勿論、全てを志願兵で賄う事は難しいでしょうが領民兵を後方部隊に配備する等は出来るはずです」


「それが出来れば苦労はせん」


 苛立ち混じりの返答が返ってくる。


「いいか、現状兵を供出するのは貴族なんだ。つまり金を出すのも貴族。さっきどれだけ金がかかるか言っただろう。勿論現状を変える案だって政務部は出してきた。曰く一定額の税金を治める代わりに戦費と兵を国が賄うとな。だがそれはそれで問題なんだ。全ての貴族が金持ちじゃあない、名ばかりの貧乏貴族だって多い。しかもそれは貴族の権力を奪いかねない案だ。いざという時の軍権や仕事を奪われ金だけ要求される、そんな案にそうそう賛同なぞ得られん。更に言えば国王主体ではなく政務部が言っているのが問題だ。またぞろガイウス派が貴族を締め付け始めたと貴族達は警戒しているんだ」


 リカルドがまくし立てる。流石にセラムも口をつぐむ。

 どうやら藪をつついて蛇を出してしまったようだ。軍事問題だとばかり思っていたら貴族とガイウス派の確執にまで根が張っていた。これは戦略的にどうにかしなければならない。


「悪い、つい熱くなってしまった」


 いつもの冷静さを取り戻したリカルドが謝ってくる。


「いえ、こちらこそ。この問題は僕も考えましょう。当座は各部隊の常備兵の数を僕の権限が届く限り出来るだけ融通します」


 此方も利権、利権か。嫌になるな、とセラムは胸中で毒づいた。


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