第二十二話 胡蝶の夢2
沙耶がクラスから孤立したのは中学生の頃。思春期によくあるいじめという奴だ。最初の頃はいじめられっこを助ける側だった沙耶も、その行動が原因で逆にいじめっこに目を付けられていた。俺は先生に手を回してもらったり、休み時間や登下校の時間になる度に沙耶に会いに行ったりと、影に日向に彼女を守った。
「何? あんた達付き合ってんの?」
当のいじめっこからそんな冷やかしが飛んできたが、構うものではない。
「ああ。それがどうした。からかうつもりなら俺を敵に回すって事でいいんだな?」
そんな事を言った気がする。当時の俺は若気の至りというか、少しやさぐれていた。誤解してほしくないのだが、別に不良だった訳ではない。何も悪い事をしちゃいないが、ただ交友関係はその手の奴が多かった気がする。
思春期にありがちな、というかこれもまた中二病という奴なのだろうが、兎角この世の生きる意味が見いだせず日々を虚しく感じていた頃だった。だからだろうか、同じ様に別段理由は無いが日々に不満を持つ荒っぽい人間と気が合った。当の俺自身はあまり彼らを好きではなかった気がするが、それでもそんな交友関係も役に立ったのか、この時初めて沙耶を助ける事が出来た。
それからずっと気には掛けていたが、どうやらその日以来いじめは無くなったらしい。沙耶からはその事について何も言われなかったし、俺も何も聞かなかったが、沙耶の態度が今迄の幼馴染のソレから少し変わった気がする。
変わったといえば俺の周りの方が変わった。俺と沙耶の関係を囃し立てる輩が多くなった。その度に「うっせ」と黙らせてきたが、悪い気はしなかった。
俺と沙耶が付き合っているというのは周りの共通認識となった。
別に付き合おうと言った訳でもないし、昔から幼馴染なのだから取り立てて変わった事をする訳でもない。ただ、その辺りからお互い何とはなしに意識するようになったように思う。