ツナガリ
ピンポーン
朝早くからインターホンを鳴らす音が聞こえた。
普段ならあり得ない時間の来客だ。というよりも竜也の家にお客さんが来ること自体が珍しいからだ。お隣さんならID番号の入力でディスプレイ越しに通話も出来るからわざわざ家に直接来ることもない。
それに、先程からしつこいくらいに鳴らされているチャイムは絶賛お休み中の人間を起こすくらいわけなかった。
うーん、うるさい・・・今何た。
勿時だ?
学校が休みということもあり、いつもより1時間当たり多く睡眠をとった竜也は寝起きの脳で考えた。
流石に何年もぐーたらしているわけではないので1日2日の休み程度で昼夜逆転などはするはずなく、わりと規則正しい生活をしていた竜也の体内時計は午前8時30分を指してい論体内時計だから多少の誤差は生じるのは仕方ないそれよりもチャイムがうるさすぎて目が覚めたので文句の1つでも言ってやろうとベッドから起き上がろうとした竜也の手のひらに柔らかい何かが触れたことに気づいた
「ふにっ?」
竜也は恐る恐る布団を捲ってみるとそこには薄着姿をした香澄が寝ていた。
発展途上とはいえ控えめには自己主張している胸、普段と違って下ろした髪、そして鼻孔をくすぐる甘い香りはまるで異性を意識させるかのように竜也の視線を独占した。
それと同時にある疑問がわいてきた。
Q 何で香澄と一緒のベッドで寝ているんだ・・・?
A 過ちを犯したから・・・
【速報】波沙羅戯高校一年琥珀竜也氏再開を果たした妹に欲情して手を出すしたもよう!
・・・いや、それはない!。むしろあったらまずいだろ。
A 香澄が寝ぼけて俺のベッドに入ってきた
一番考えうる可能性が高いな。案外しっかり者に見えてもおっちょこちょいなところもあるしな。
まぁ、そこが可愛いんだが。
そんなことを考えていると再びチャイムを鳴らす音が聞こえた。
そしてその中から聞き覚えのある声が複数聞こえ竜也はその場でフリーズした。
「おーい、いい加減に起きろ!。いくら合法休暇だからといってだらけすぎだ。早く出てこないと竜也の性癖を10秒につき1つ暴露するからな」
おい、琢磨!流石に人前でそれはいかんだろ!
「竜也君の性癖?。すっごい気になるんだけど!。えっ、引いちゃうような趣味だったりとか・・・」
期待と困惑が混ざったような声が聞こえた。
その正体は安易に想像がついた。そう、我らがクラスの委員長乙葉千歳だ。さしづめ心配だから見に来たといったところだろう。
するとその後ろから品のある透き通った声が聞こえた。
「竜也さんの・・・性癖」
もう1人の女の子の正体は新藤燐だ。
纏うオーラだけで育ちの良さが感じ取れる。
家に来たのは3人だけのようだった、新藤さんが来るのは珍しいと思ったがそれよりも琢磨の始まって4を経過しようとしていたカウントダウンの処理を最優先として洗顔を素早く済まし勢いよく扉を横にスライドした。
すると、面白半分にカウントダウンをとっていた琢磨と、小動物のような瞳で興味津々と言わんばかりに俺の性癖を聞き出そうとしていた千歳。それに、あたふたしながらも2人の間に知りたいオーラを溢れさせていた燐の姿が見えた。
「いつまで寝てるんだ。もう朝だぞ」
そういって琢磨は自分の腕時計型デバイスを起動し、何もない空間に時刻を映し出した。
2085年の今は科学進歩が20年前から急激に伸び、今はアナログという概念は無く全てデジタル化している。デジタル化は以前から進んでいたが[空間模写]の技術はここ10年で普及されたものだ。それというのが電波や電池の消費が激しいということで新しく電気や、電波の受信を一切しないで人の体温とリンクする機能アイ・リンクの採用が決定するに伴い身に着けていつデジタル製品がパソコンのように使えることと、射影機の役割を果たしたことによって新しいデジタル社会の基盤を作ったと言えよう。
「そんなこと知っているって…それに俺は休学処理になっていると聞いたが?」
「なってはいるよ。でも俺はお前に会って話が聞きたかっただけなんだ。俺だけじゃなくて新藤さんもお前のこと結構心配していたんだからな!」
「にゃ!」
自分の名前を出されて驚いてしまった燐は咄嗟に大げさに反応してしまった。
「しまった!」と言わんばかりに目を丸くして恥ずかしさが原因なのか頬を赤く染めて竜也から目線を離した。
「ありがとな、燐。心配してくれたんだってな」
余計な心配をさせまいと出来るだけ柔らかい表情で燐に微笑みかけた。
そして何よりもこの間の一件を悟られまいと。
「いえ、そんな!。友達として当然のことをしたまでです!」
「そっ…そっか、そう言ってもらえると助かるよ」
そう答える燐の瞳には強い意志が込められていて竜也もひよってしまった。
女の子にひよるとか何事だよ。と内心思ったが相手は新藤家の人間ということもあり仕方ないと割り切るには時間はかからなかった。
すると不満そうに唇を尖らしながら千歳が割り込んできた。
「ぶー!。燐ちゃんばっかりずるい!。私も竜也君のこと心配していたんだよ?」
「ああ。千歳もありがとう」
「いいっていいって!。これも委員長の務めですから!」
「いえっさー!。委員長お務めご苦労様です!」
千歳が敬礼をしてきたのでこちらも敬礼で返す。
千歳はもともと天真爛漫な性格をしているのでしょっちゅうこんなことをしているので気にならなかった。
すると千歳は満足げにスキップをしながら琢磨の方に駆け寄ると最初から打ち合わせていたかのように俺にだけの迷惑極まりないコントを始めた。
「琢磨君お話があるんだけどいいかな?」
「良いよ、長くなりそうかい?」
「結構込み入った話だからねー。立ち話もなんだしお茶でも飲みながら聞いてくれる?」
まだ触り程度なのに嫌な予感がした。
竜也はこの手の感に関しては外れたことの無い。
逃げなきゃいけない。「出来れば避けて通りたい事が起こりそうな予感。もしくは面倒くさいことになりそうな予感を感じていた。
だが一度始まったコントは止まるはずもなく竜也の不安はどんどん増していった。
「オイオイ、お茶でも飲みながら話せる場所なんてこの辺にあるのかい?」
「いいところを知っているよ!。教えてあげようか?」
「それは気になるな!。是非頼むよ!」
「しょうがないなぁ」
そう言うと千歳は俺の方を見てニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
(最初からそうだと思っていたが……明らかに俺の家に上がり込む気満々だな。
香澄がいるし、色々と会わせたら面倒くさいことになりそうだしこの場は死守しないとな)
「おや、こんなところに喫茶琥珀なんて店が在ったとはね、盲点だったよ」
「じゃあそこで話をしようよ」
信じられないようだが二人は何の躊躇もなく琥珀家の敷地を跨ごうとしていた。
さすがにそれはよろしくないと竜也は扉の前で通せん坊をした。
「なんか凄いナチュラルな感じで俺の家に上がろうとしなかったか?」
「いいじゃねえか、それとも何だ?見られたくないものでもあるのか?」
意味ありげにニヤニヤしながら琢磨は俺の顔を覗いてきた。
この場で見られたくないもの、といえば素直に言えば香澄の姿と答えられるけどあえてそれは選択肢から外す。
事情を知らない皆にとっては見られたくないもの、というと思春期の男子なら殆どの確率で所有しているあの物。
そう…エロ本を連想させられてしまう。
先程性癖云々の話をしていたばかりだ、少なからず女の子サイドも気づくに違いない。
琢磨と二人だけなら笑い話に出来ることも女の子という抑止力の前では何の意味も持たない、幻滅されてしまうかもしれない。という現実に竜也の背中からは冷や汗が止まらなかった。
すると、何かを察したかのように千歳は少し顔を赤くしながらいつもの元気スマイルで勝手に自己解釈を始めた。
「そ、そうだよね!。竜也君も男の子なんだしそういうのがあるのも解るよ。大丈夫、私は何を見ても幻滅なんてしないから」
「あのー、千歳?。何か盛大に勘違いしているように見受けられるんだが…。そもそも、俺はそんなもの持っていない」
実際データとして入っているのでその類の本は持ち合わせていないのでここは正直に答えた。
答えてしまった時点でどうやら俺の負けが確定していた。
何故なら一番穏便なはずの燐が玄関前にスタンバイしていたからだ。
流石に日差しもあることだし、女の子の素肌を太陽の真下に晒し続けるのも気が引けたので仕方なく家に入れることにした。
琥珀家の間取は玄関を入った右手前の部屋が香澄が使用していて俺の部屋はその奥の6畳頬の和室の作りになっている。元々自分の部屋は整理整頓がしっかりされているので別に見られたからと言って恥ずかしいわけではないが事情が事情なので奥の居間に案内しようとしてた。
香澄は一度寝たら中々起きない、少なくとも鉢合わせは無いはずだと計算していた俺は静かに玄関の扉を開いた。
すると、先程目覚めたせいか服を着崩した姿の香澄がタイミング悪く着替えをするために自分の部屋に移動をしていた所に鉢合わせをしてしまった。
そんな事も知らずにお邪魔しますと礼儀良く挨拶をした燐が玄関に足を踏み入れた。
すると後から続くようにお邪魔しまーすと元気よく琢磨と千歳が入り込んできた。
各々リアクションは違えど一人暮らしの竜也が女の子と住んで居れば同棲疑惑も浮上してしまう。
香澄と竜也を交互に見てワナワナと震える琢磨、呆気にとられる千歳。
「こんの、裏切者ー!」と叫ぶ琢磨の声は琥珀家に吸い込まれていった。
それとは正反対に香澄は燐の姿に目を奪われた。
まるでモデルがやってきたのかと本気で錯覚してしまったからだ。
それは無理もない、彼女は元々新藤家の娘であってそんじょそこらの同年代の女の子よりも遥かに身なりに気を使って、顔もスタイルも完ぺきだからだ。
「竜也君の彼女さん…ですか?」
唐突に燐が質問を問いかけた。
「貴女こそどなた様ですか?」
質問に質問を返す香澄。
その目は値踏みをしているかのように燐の全体をくまなく捉えていた。
勿論それは燐も例外ではなく香澄に対してライバル意識に似たような感情を抱いていた。
燐と香澄の間に流れる空気は、おふざけモードの琢磨を一瞬のうちに冷静にさせるものだった。
「竜也くん……これはどういうことですか?」
優しく笑いかけるつもりなんだろうが目が笑っていない。
「まあ、皆には言っていなかったけど妹の香澄だ。
最近わけ合って一緒に暮らすことになったんだ。ほら、香澄。挨拶するんだ」
「初めまして、私は妹の琥珀香澄です。
両親の都合でお兄さんの家に住むことになりました。よろしくお願いします」
皆の前で挨拶を済ませた香澄は一仕事終えたかのように俺を見てきた。
「ということだ。香澄は妹であって皆が考えているようなことは無いよ。
隠そうとしていたのは謝るけどこれで分かってもらえたかな」
「成程、その子がお前がいつも言っていた香澄ちゃんか。
兄妹でも竜也に全然似ていないな」
少し驚いたように声音を上げて琢磨が納得したかのように相槌を始めた.
「もしかして実は血が繋がっていなかったりしてー」
追い打ちをかけるかのように千歳が爆弾発言を投下してきた。
一気に琥珀家の玄関は氷河期と化した。
頭ごなしに否定するのも可哀想なのでオブラートになるべく包んで
「まてまて、そんなわけないだろ。
そもそも俺は香澄が生まれた時から兄貴をやっているんだ、義妹なわけないだろ」
なるべくポーカーフェイスを崩さないように意識して弁解をする。
特に感情的になって否定する必要もないと俺は考えていたからだ。
「とりあえず、玄関先で話すようなことじゃないだろうしリビングに入ってくれ。
玄関を真っ直ぐ進んで右にあるからさ。とりあえず適当に菓子でも用意するから」
「それなら私がやるから兄さんは向こうに行ってていいよ!。」
駆け足でキッチンに向かう香澄をただ眺めながら俺は皆の待つリビングに向かう。
家の中といえど、今日は天気も良く気温も高いので壁に引っかけてあるエアコンのリモコンを手に取り電源を入れた。
すると数秒もみたないうちに心地よい冷風がリビング全体を包みこんだ。
「ありがとうございます。竜也さん……。
汗をかいて少し体がべたついていましたので助かりました」
「いや、俺も暑いと思っていたからね。それに俺の為に来てもらったっぽいのに汗だくのまま座らせるなんて出来ないしさ」
「そうそう、気にしなくていいですよ。竜也の家なんで」
俺は無駄な抵抗?と知りながら「お前は少しは遠慮というものを覚えろ!」と心の中で琢磨に対してツッコミを入れた。
「ふぇー。いきかえるーー」
各々冷房に関しての一言をいただいたところでリビングに冷たい麦茶と和菓子を用意した香澄がやってきた。
「これぐらいしか用意できなくて申し訳ないんですけど」
そう言ってテーブルの真ん中に大きな入れ物に入った和菓子を置いてきた。
麦茶を注ぐと「どうぞ」と全員の目の前にグラスを置いて俺の隣に腰を掛けた。
琥珀家のテーブルは一般的なものと同じで長方形の形をしている。勿論椅子はボタン一つで出てくる現代のポピュラーな仕組みになっている。
少し変わっているのが竜也が座っている隣だけ椅子が二つ出るということだ。
本来竜也は一人暮らしであるため大き目な家具は持ち合わせていなかった。それが香澄が一緒に住むということで昨日のうちにホームセンターでの購入を済ましていた。勿論このテーブルは香澄が選んだもので俺は疎いからという理由で口をはさむ権利を失っていたからだ。
俺の隣に座ると香澄は何故か勝ち誇った顔で燐に対して一瞥くれていた。
また、その逆で燐も納得いかないといった表情で香澄を見た。
この二人は仲良くできないのか、と内心諦めていた時に琢磨が口を開いてきた。
ナイスだ!と内心思ったのも一瞬で話題は俺たちの触れてはいけないあの夜の事だった。
「そういえばこの間大型停電?か知らないけど急に街が暗くなったよな。
俺んちもそうだけど電気は繋がっていたしブレイカーも落ちていなかったし……竜也何か知らないか?」
「いや、知らないな。俺も家に居たわけだし。それに俺って一人暮らしだったし夕飯作るのが忙しかったからな」
ここでハイ、知ってます。なんて正直に言えるはずもなく、粗を探られないような当たり障りのない返答をするのが好手だと考えていた。
「うーん、私も家も平気だったし問題ないんじゃないかな?」
さすが千歳!と言わんばかりのお気楽思考に内心ほっとしていた。
俺は話題を変えるかのようにテレビを付けた。今の時間帯はニュースを取り扱っていた。
【緊急速報】
「この前発生した謎の光によって…星が消えました。星だけでなく月も翡色に染まり、この現象を科学者、専門家の意見を聞いたところによりますと「前例がない。分からない」という答えしか返ってきませんでした。
なお、この未知な現象が国民生活に危険を及ぼす心配は今のところはありません。
引き続き分かり次第お送りします」
……星が消えた?
何を言っているのか分からなかった。俺も、琢磨も、千歳も。
「100年前、同じ現象が起きました。
月が色付き、星が消え。それでも誰一人としてその危険性に気づきませんでした。
100年前、私のお婆様はその事件の当事者で丁度私と同じ年齢でした。
世界の滅び。占いを介してこの世の狂気が渦巻いていることを知ったお婆様は新藤家の巫女としてこの問題を収めるためにありとあらゆる手段に挑みました。
勿論、新藤家に伝わる贄の水晶にも手をだし、この世とあの世のすべての理を受け止めてやっと方法が見つかりました。
ですが贄の水晶を使用したことによって体はひどく傷つき、辛うじて生きている。それくらい衰弱してしてしまい、世界を変える方法を一人の男の人に託したそうです…。」
燐は一度言葉を区切ると俺の目を見て再び言葉を発した。
「琥珀迅。そう、竜也君の曾おじい様です」
俺は一瞬何を言われているのか分からなかったがこの間の神憑きと呼ばれる組織のあの一言が脳裏をよぎった。
「琥珀の血」
確かに琥珀迅の血は流れているがこれといった不可解な力も発現していないし、そのうえ腕力だって年相応のものだ。
「確かに琥珀人は俺の曾おじいさんだ。俺は知らないけどな。
だが、琥珀家の血が流れていたからといっても俺は平凡な高校生だし知っての通り魔法やら超能力なんて類のものを使えるようになった覚えもない。
だから俺に出来ることなんてありはしないさ」
燐は小さく首を横に振り真剣な表情で俺を見つめてきた。その瞳からは強い意志が込められていて目をそらすことも出来なかった。
「聞いてください、竜也君。
世界がこうなってしまった以上琥珀の血筋を危険視する人も中には居るでしょう。
竜也君の命を狙う者、または操ろうとする者は出てきます。
ですからそういった相手から竜也君を保護し用と思います。
なので……私の家に来ませんか?」