勝利の一撃
「香澄、見ていてくれ、お前が俺に勇気をくれる。お前がいれば俺は負けない」
「待って、いくら創生者になったとしても危険なの!神憑きに挑んで死んだ仲間を何人も見たわ。相手は神憑き、最悪なことに最高クラスの・・・ここは私が食い止める、だからお兄ちゃんは闘わないで!!」
香澄は張り裂けんばかりの声で叫んだ。
神憑きに同僚が殺されるのを何度も見てきた香澄は瞳に涙を浮かばせながら竜也を
止めようと竜也の前で両手を広げた。
香澄から並々ならぬ想いを感じ取った竜也は香澄に優しく微笑みかけた。
「ここで逃げたら兄としてお前と向き合えなくなる。今日やっと会えて、お前に護られたとき思ったんだ。俺は香澄に〝何もしてあげられなかった〟ってな」
「そんなことない!。私はお兄ちゃんに何度も助けられた。悲しいことがあったとき、辛いことがあったとき頭を撫でてくれた!すごく嬉しかった。だから、っだから!」
ぐいっ・・・ぎゅ
言い切る前に香澄を抱きしめた。
「えっ、ちょっと!お兄ちゃん?」
不意に抱きしめられたことにより声が上ずっていたことと顔が赤くなってしまったことによって竜也を見ることができなかった。
「だからこそ、俺にもう一度兄としての責務を果たさせてくれ。お前の為じゃなく俺が琥珀香澄の兄として誇れるように」
香澄は呆気にとられたがすぐに竜也を見つめ静かに頷いた。
「解った、でもお兄ちゃん一人は絶対ダメ。一緒に私も闘うわ!。一人だったらどうにもならないことも二人なら出来る。そうじゃないかしら、お兄ちゃん?」
「俺は戦闘は初めてだしイマイチ自分の力も解っていない。それでもいいのか?」
「当り前よ、私が全力でフォローするから安心して」
香澄と竜也の共同戦線。
不安よりも安心感のほうが何倍も強かった。
「待たせたな。蒼マント、今から俺たちがお前を倒す」
竜也と香澄は睨みつけながら得物を向ける。
「威勢だけは一人前だな。目覚めたての創生者相手に後れを取るほど甘くはない」
ダン・・・シュン
その瞬間蒼マントの男は驚くべ脚力で地面を蹴り一気に距離を詰めてきた。
双剣を居合の要領で抜くことにより普通に振るよりも断然早い攻撃が竜也を襲う。
「なっ、速い!」
即座にバックステップをして双剣の射程範囲から逃げるように脱出する。
創生者になって反射神経、動態視力が普段の数倍に跳ね上がっているにも関わらず避けることで精一杯なのは変わりない。
「私のことを忘れられちゃ困るわね!。ハァー!!、紅一閃一の太刀「烈火」」
竜也に意識が傾いていた事を好機に香澄は死角から蒼マントに斬りかかった。
勢いよく振りかざされた香澄の長刀の刀身から灼熱の炎が出てきて一瞬で長刀は炎に包まれた。
ギャイーン!!・・・ジュー
金属の特有音の他に水分が蒸発する音が聞こえた。
音の正体は直ぐに解った。
「くっ、この一撃を受け止めるなんてやるわね。でも貴方の剣は気化させてもらったわ!」
「神憑きの力侮ってもらっては困る。神力さえあれば何度でも甦る、それが神憑き序列第四位「海王神」(ポセイドン)の力だ!」
竜也は鍔迫り合いをしていた香澄にアイコンタクトを送る。
すると香澄は蒼マントの鳩尾に両足で蹴りを入れてその反動で竜也の射程から離れた。
香澄を抱きしめたときにそっと打ち合わせををしていた。
「この拳銃は翡星石が生み出したものだ。どんな力を秘めているか解らない。もしかしたら香澄に怪我を負わせてしまうかもしれない、そんな代物だ。だから、香澄を護る為に手に入れた力で香澄を傷つけたら俺は何のために手に入れた力か解らなくなる。そうならないように俺に協力してくれないか?」
「策はあるの?」
「俺に考えがある。アイコンタクトを送ったら蒼マントから離れてくれ」
「今しかない!」、そう強く思うと体の震えも止まり銃を握る手も自然と緊張していなかった。
最悪のことなど何も考えずに「必ず当たる」それしか考えてなかった。
「今だ!。この翡星石の力試させてもらう!」
チュドーン!!!
竜也は拳銃の引き金を躊躇いもなく引いた。
銃弾は発射口を出て空気抵抗をもろともせずに一直線に向かう。
「なに!?!・・・ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ブァー。ゴゴゴゴゴ
その刹那、突風が吹き荒れ砂埃が舞い上がり轟音が鳴り響いた。
蒼マントの声すらもかき消す音。
発砲音とは明らかに違う音。喩えるならボーミング機能の付いたミサイルを一斉掃射したような音。
空を切り裂き虚無に返すような凄まじい威力の一発が放たれた。
流石にこの威力は想定外らしく香澄以上に撃った竜也の方がハトがAK-47を連射されたかのような顔をしてしまった。
竜也は少なからず勝利を確信した。
流石にこれをくらって立ってられる人間はいない。
「終わったな」
「終わったわね。お兄ちゃん、初めての戦闘で神憑きを倒すなんて信じられない!!。これは誇っていいわ!」
一仕事終えたかの満足感の竜也をよそに、香澄は竜也に幼いころと同じ羨望のまなざしと懐かしい笑顔で竜也に微笑みかけた。
「そんなことないさ、俺一人じゃ無理だったし前線にいたのは香澄だ。俺なんかおいしいところを持って行っただけだ。」
竜也は照れつつ満更でもなさそうにしていた。
---しかし、その幸せな時間も長くは続かなかった---
砂埃がが止み視界が晴れるとそこには〝倒したであろう〟敵の姿がそこにあった。
「はぁ・・・はぁ」「うっ、げほごほ」
「・・・ウソでしょ」
香澄は人外を見るかのような目でその姿を見ていた。
勿論無傷ではない、ギリギリ意識を保っているように見える。
しかし、香澄には殺意の意識が強すぎて阿修羅に見えてしまった。
心臓を握られたかのようにイヤな汗が止まらない。
手には汗が握られ、足は震えが止まらない。
「うわぁ!!。紅一閃一の太刀「烈火」」
香澄は自分を奮い立たせ再び戦闘態勢に入るが、先程の恐れが自信の低下を招き炎の生成を遅らせ香澄の動きを不完全なものにしていた。
「遅い」
ドカン!ギュン
蒼マントは香澄の一瞬の隙を付き腹部に蹴りを放つ。
確実に蹴りの勢いで内臓の破壊した後に10メートル先の壁にたたきつけて骨を粉砕する、殺人目的の蹴り。
人は普段無意識にリミットをかけていて30%の力すら出せていない。
100%まで引き出す術がないからだ。
しかし、蒼マントは神力と自身の命を守る防衛本能によって100%の力を引き出した。
「かはっ・・・」
蹴りによって一気に酸素が持っていかれ呼吸困難になる一歩前にまで陥った。
幸い呼吸困難にならなかったのは流石といえる。
香澄自身の体の筋肉と、紅の甲冑によってダメージが抑えられた結果最悪の事態にはならずに済んだ。
だが吹っ飛ばされた香澄は空中で受け身を取る事ができずに壁に叩きつけられるしかなかった。
「お兄ちゃん、ごめん・・・」
がばっ
叩きつけられる寸前で竜也は香澄を受け止めた。
「げほごほっ!。お兄ちゃん・・・?」
「すまなかったな香澄、後は任せろ」
竜也は蒼マントと再び対峙した。
「ぜぇぜぇ・・・翠の創生者。お前さえいなければ!!。我が神力ここで尽きようともお前は殺す!。剣技結合!水剣死の型「水薙」(みずなぎ)」
蒼マントは再び双剣を生成し、繋ぎあわせることにより薙刀に姿を変えた。
「そんなの有りかよ!!」
姿を変えた水剣に狼狽せずにはいられなかった。
「私に水薙を使わせたことは誇っていい。だが、逆にその身の不幸を呪え」
すると目を見張るような光景が展開された。
傷が治癒し始めたのだ。
本来水には癒しの力が備わっており、最高峰のポセイドンの神力を司る水剣は当然その恩恵があり、先程の一撃で仕留められなかったのも死の間際に水剣の治癒力が働いたからだろう。
「回復か。この一撃で終わらせる!!」
竜也は確実に当てていくことを意識してFULLオートの連射タイプに切り替える。
この翡星銃には弾自体が存在しない。その代わりにメーターがついていて
0~100%と10刻みにチャージされていく。
翡星石を通しての想いの強さに反映されるらしい。
先程のは香澄のことを想って撃った一撃だからその分威力に上乗せされた。
今回は違う、今の気持ちは蒼マントを倒す。その強い意志が竜也に力となって流れる。
「これは避けられないだろ?」
ババババババババババババババ
翡星銃を連射した。
これはチャージ率10%の連射モード。
FULLオートのアサルトライフル並の弾丸が相手を襲う。
ぴゅぴゅぴゅぴゅ
水剣をプロペラのように回転させ竜也の弾丸は目の前で全て落とされた。
「もうお終いか?。ならこちらもいかせてもらう!」
蒼マントは竜也の懐に疾風の如く飛び込み水薙を振るった。
「ーーーーー!」
避けたと思ったが完全には躱しきれず水薙ぎは脇腹を掠めていた。
掠っただけで声にならない激痛が襲う。
「これで終わりだ」
ガキーン!
再び切り込んできたところを翡星銃で受け止めた。
「なに!?」
「お前の負けだ」
竜也はニャリと笑いながら、もう一方の銃を突きつけ躊躇せずにトリガーを引いた。
バゴーン!
次の瞬間蒼マントの肉体は宙を舞った。
その時すでに決着はついていた。
その瞬間どこからか人影が現れ、蒼マントを回収していった。
「まだこの男には利用価値があるので死なれては困るので私の方で回収させていただきました。これは取引です、私はこの男を回収できればあなたたちに危害は加えません。貴方たちも神憑き相手に連戦出来るほどもう力も残っていませんでしょうしお互い悪くない取引だと思いますが?」
竜也と香澄は蒼マントとは違う異質な何かを感じ取り何も言えなかった。
「解りました、交渉成立ですね。では本日はこれで」
そう言い残すと闇に消えていった。
悔しいが何もできなかった。
「今度こそ本当に、終わったな」
「ええ、そうね。今日は、ありがとう」
「なんか終わったらお腹すいてきたな」
「ふふっ、お兄ちゃんは変わらないね。いいわ!私が料理を作るわ、その前に手当をしないとね♪」
「そうだな、よろしく頼むよ」
こうして竜也と香澄の兄弟生活が始まりをつげた