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 蒼月が買ってきたのは、〈武士〉の初期装備一式だった。金額としては非常に安いし、装備レベルも低い。だからこそ、レベルが十にも満たないザジにも装備できるだろうという配慮だった。

 ただ、一番安い装備を買い揃えるだけの金額でも、〈大地人〉のザジにとっては大金だったらしい。受け取った時には目を回していたし、装備させるとめまいを起こしていた。思わずフィンが回復魔法をかけるほどに、その顔色は悪かった。

 それから一週間、フィンとザジも交えての日々は、戦闘三昧の日々だった。フィンは直接戦闘には加わらないし、ザジはそもそも戦えない。それゆえ実質五人での戦いではあったが、それでも、成果はあった。

 まず、五十レベル代のモンスター相手でも、充分渡り合えるようになった。リリアのレベルに近いモンスターを相手にできるようになったというのは、かなりの成果と言えよう。

 そのリリアは、レベルを六十三まで上げた。戦闘に置いては生来の気弱さが引っ込み、果敢に前に出てきているため、その実力はレベル以上のものになりつつある。両手槍の扱いにも慣れてきたようだ。

 そしてもうひとりの低レベルプレイヤーだったフィンは、自分より格上のモンスターの戦闘ばかりだったためか、気付けばレベルが四十になっていた。ある程度の消費なら、簡単に治せるレベルである。

 勿論、戦闘そのものに参加しないゆえの弊害もある。戦闘になかなか慣れることができないし、特技も会得止まりが多い。同じ回復職のホムラが(嫌々だが)訓練相手になっているために常用される回復呪文は初伝まで引き上げられているが、そこまでだ。

 そしてザジ。〈大地人〉である彼は、フィンのように大幅なレベル上昇は無かった。蒼月と軽い打ち合いはするものの、そのレベルは未だ十ほどでしかなかった。

 そもそもレベル引き上げの方法が根本的に〈冒険者〉と違うらしく、地道な努力――基本的な体力づくりや素振りをしなければならないらしかった。

 勿論戦闘をこなせばそれ相応の経験を得られるが、それは一定貯まれば次の段階へ行くのではなく、本当の意味で力を付けた時にしかレベル上昇には繋がらない。

 しかしそれを考えると――つまり、現実的に実力が上がることを考慮すると、ザジの実力は飛躍的に伸びているようだった。

 身体能力は日進月歩とはいかない。こつこつ積み重ねてこそ、体力というものは付くのである。しかし、技術は違う。飲み込みさえよければ、一日で基本は身に付くものだ。そしてザジの技術は、確実に彼のものとなりつつあった。レベル三から十という上昇が、いい証拠である。蒼月の見立ては、正しかったと言えよう。

 そんな日々を繰り返し、気付けば異世界に来て、十日近くたっていた。

 戻る手立ては、未だ見付かっていない。


   ―――


「思ったより遅くなったな」

 蒼月の呟きに、月華はつられるように視線を上げた。

 とうに月は真上に浮かんでおり、だいたいの刻限を教えてくれている。薄暗い森の中ゆえに、余計夜を感じられた。

 七人は狩り場を、更に高レベルのフィールドに移していた。モンスターによっては六十に及ぶそのフィールドは、高度な戦闘をこなすために選んだ場所である。しかしそれゆえに、ミナミからは少々離れていた。

「ちょっと今日はやり過ぎたかな。明日はゆっくりでいいかもしれない」

 月華は刀を戻しつつ、苦笑する。リリアが前に出るようになったおかげで戦闘の幅が広がり、ステップアップを望んだ結果、やや張り切りすぎたかもしれない。月華はそう考えた。

 肉体の疲労は休めばすぐに回復するが、精神面はそうもいかない。そろそろ休養が必要だと思った。

「そうだな。戦闘の見直し点も幾つかあるし、明日はゆっくり――」

 蒼月の言葉が不自然に途切れた。収めていた刀を唐突に抜き、身体をひねって右後方に振るう。金属同士がぶつかる音と、鈍い破壊音が響いた。

 ぽとり、と力無く落ちたのは、二つに分かれた矢だ。木と鉄でできた、簡易な代物である。

「〈禊ぎの障壁〉!」

 張り上げるようにホムラがダメージ遮断を蒼月にかけた。リリアは下げていた槍を持ち上げ、月華は双刀を抜く。

「〈ライトニング・チャンバー〉!」

 リュートの放った紫電が、矢が射られた方向に放たれた。一瞬明るくなった視界に移った影と短い悲鳴に、月華は確信する。

 ――PKだ。

 頭の中がしん、と冷えていく。双刀を握る手には、自然と力が籠もった。

 PKが横行していると聞いたのは、つい昨日のことだった。すでに被害は少なくない数出ており、PKで追い剥ぎされたプレイヤーもちらほら見かけている。

 実際に合ったのは、今回が初めてだが。

「リュートさん、フィンちゃん、ザジ、下がれ!」

 蒼月はそう言って前方に〈飯綱斬り〉を放った。今度も当たったようである。再び悲鳴が上がった。

「ちくしょうっ。奇襲しかけるつもりが逆にやられるとは!」

 聞き苦しい声でわめきながら現れたのは、虎の毛皮のような皮鎧を着た〈武闘家〉だった。その後から、弓を持った〈暗殺者〉、ふたりの〈盗剣士〉が現れる。酷く攻撃的な編成で現れたPK達に、月華達は警戒を高めた。レベルは上限者はいないものの、皆八十は越している。強敵と言えば強敵だった。

「〈暗殺者〉がひとりなのが救いか。回復役は……奥、だな」

 蒼月は刀を青眼で構え、目を細めた。

「まさかこんなところに出てくるとはな。もっと低いレベル帯のところで出現すると思っていたが」

「はっ。馬鹿にすんじゃねぇよ! お荷物抱えた弱小パーティーがよぉっ」

 あからさまな嘲弄に、リリアとフィンの身体が固まる。それを受け、月華は一つ頷いた。

「よし決定。兄さん、返り討ちしよう」

「勿論だ。俺達はそんなに優しくない」

 決定事項のように呟くふたりに、PK達の額に青筋が浮く。だが、リーダーらしい〈武闘家〉はすぐに冷静さを取り戻したらしい。

 怒鳴り散らすように指示を出した。

「〈武士〉と〈盗剣士〉は後回しにしろ! まず〈妖術師〉狙えっ」

 リーダーの言葉にまず我に返ったのは、弓遣いの〈暗殺者〉だった。矢をリュートに向かって放とうとする〈暗殺者〉だが、狙いは変更されることになる。

「〈猿叫〉!」

 蒼月が咆哮にも似た声を上げると、〈暗殺者〉はからくり人形のように向きを変え、矢を放った。矢はまっすぐ蒼月に向かい、しかし半透明の青い障壁によって阻まれる。

「っくそ、タウティングをっ」

〈武闘家〉は呻きつつも、〈盗剣士〉と共に蒼月に向かって突進した。多方向から放たれる攻撃は、しかし障壁によってことごとく阻まれる。更に、事前に付与されていたリリアの〈舞い踊るパヴァーヌ〉によって蒼月の回避率は上がっており、そうそう攻撃を与えられるはずもなかった。

 蒼月を倒すことにやっきになる三人だが、更に脳を沸騰させるように、リリアが槍を突き出した。槍は〈武闘家〉の皮鎧を貫き、脇腹を斬り裂く。

 レベルが上がったリリアだが、それでも二十も上の相手にダメージを与えることは難しい。しかし精神を乱すには充分だったようだ。

「このっ」

 拳を振り上げる〈武闘家〉だが、しかし途中で蒼月のタウンティングがかかり、攻撃対象変更を余儀無くされる。そこへリリアは更に槍を振るい、今度は〈盗剣士〉ふたりに攻撃をしかけた。

 いよいよ顔を真っ赤にして怒り出すPKだったが、遮るようにホムラが声を上げた。

「リリア、スイッチ!」

 素早く下がるリリアを追う片方の〈盗剣士〉。だが間に割り込むように、ホムラが突貫した。

 杖から刀に持ち替えたホムラは、自らにかけたダメージ遮断で攻撃を受け止めつつ、戦士職さながらの立ち回りを見せる。攻撃役が分断されたことにより、焦り始めたのはPK達だった。

 もとより、勝算があってしかけた戦いだったのだろう。油断と過信が驚愕と焦燥に変わるのは早かった。

 しかし、それでも彼らに分が無いわけではない。与えられたダメージは即座に回復されるし、何より弓遣いの〈暗殺者〉がまだ残っているのだ。それにダメージ遮断とて、万能ではない。

 ガラスが割れるような音と共に、蒼月の障壁が散り散りになった。次いでホムラの障壁も破壊され、ふたりは無防備になる。

 ダメージ遮断の恩恵が無ければ、ふたりが落ちるのは時間の問題だった。

「はっはぁ! 無様だなあ。まあせいぜい神殿で泣きべそかくんだなっ」

「うるせぇな」

〈盗剣士〉の勝ち誇った声に、ホムラは鼻を鳴らす。

「うちにはもうひとり、回復役がいんだよ」

「はっ。レベル四十そこそこのがきんちょに何ができるっ」

「できんじゃねぇ。させんだよ」

 ぼろぼろになりながらも、ホムラは余裕を失わない。直後、人を小馬鹿にしたような口調から一変、叱責するような声で指示を出した。

「フィン、全体に脈動回復!」

「っ、はいです!」

 フィンは一瞬ひるんだ後、はじかれるように杖をかざした。

「〈ハートビート・ヒーリング〉!」

 フィンの詠唱した脈動回復呪文により、蒼月とホムラのHPが回復していく。しかし明らかに減っていく量の方が多く、まさに焼け石に水だ。

「そんな……皆さん!」

「焦んじゃねぇ。蒼月に重複回復!」

「っ、〈癒やしのそよ風〉!」

 フィンは瞳を潤ませながらも蒼月を回復させる。蒼月のHPはみるみるうちに七割ほど回復した。

「リリア、行動阻害!」

「はいっ。〈死霊のカプリッチオ〉!」

 リリアの詠唱した呪歌が、〈武闘家〉と〈盗剣士〉達の動きを封じ込める。その隙に距離を取ったホムラは、蒼月に再びダメージ遮断呪文をかけた。

 その間にリュートは、動けない〈盗剣士〉に雷撃を放つ。雷撃は〈盗剣士〉の身体を焼き、体力の半分以上を奪った。

 回復役を任されたフィンは、三割まで体力を失ったホムラに更に脈動回復、それに通常回復呪文をかける。それにより、ホムラの体力は八割まで上昇した。

「ちぃ! こざかしい真似しやがってっ」

 形勢を対等にまで戻されたPKは、ぎりぎりと歯を喰いしばった。あと一歩というところで得られなかった勝利は、彼らの顔に焦りをにじませる。

「くそっ、こんなことなら……! おい、〈暗殺者〉っ。こいつらを……!?」

〈武闘家〉の言葉が不自然に途切れた。敵前でありながら、目をそらして別方向を見るという愚行を犯したのである。

 視線の先には、〈暗殺者〉がいた。弓を捨て、ナイフを構える〈暗殺者〉。その前には、月華が笑みさえたたえて〈暗殺者〉に攻撃を与えていた。

「い、いつの間にあの女……!」

「うちの妹なめるなよ? 少し視線をそらせば隠密行動は〈暗殺者〉並だぜ」

 蒼月は〈盗剣士〉のタガーを受け止めながら唇を歪めた。

 一方の月華は、〈暗殺者〉のナイフを受け止めつつ、チャンスをうかがっていた。

 レベルで言えば、月華の方が上である。しかし、相手は全職業最大火力を誇る〈暗殺者〉だ。気を抜けば、武器攻撃職である月華ではひとたまりもない。戦闘が長引いて不利になるのは、むしろ月華の方だった。

 更に、与えたダメージは森の中に潜む回復職――回復反応からして、おそらく〈施療神官〉だろう――にことごとく無効にされてしまう。とはいえ、攻撃されるごとに回復しているところを見ると、回復見極めはあまりよくないようだが。

 ――とはいえ、出し惜しみできる相手でもないか。

 月華は苦笑すると、〈暗殺者〉から距離を取った。すぐさま追いかけようとする〈暗殺者〉だが、すかさずかけられたリリアの行動阻害に一瞬硬直する。

「月華、今よっ」

「サンキュ、リリア!」

 月華はリリアに笑いかけ、刀を軽く振った。

「〈ソーンバイド(・・・・・・)ホステージ(・・・・・)〉!」

 月華が刀の切っ先を向けると、〈暗殺者〉の身体に複数の光の茨が巻き付いた。茨は〈暗殺者〉の身体を縛り付け、ぎりぎりと締め上げる。行動阻害の効果が無いものとはいえ、たまらず彼は悲鳴を上げた。

「てめ、何を――」

「おまえなんかに種明かしをするつもりは無いよ」

 月華は鼻で笑い、双刀を構え直した。

「〈スワロウ・ラッシュ〉!」

 残像が残るほどの連続の突きが、病的なまでの正確さで〈暗殺者〉ごと茨を斬り裂いていく。一つ一つがモンスターを沈められるだけの一撃、更に茨による追加ダメージも加味され、ほぼ一瞬の内に〈暗殺者〉のHPを全て奪い去る。

 倒れる〈暗殺者〉の身体。それを見下ろした月華は、満足げに笑った。

「な、何だ今の茨……!? ま、魔法じゃねぇのかっ」

「そうだ。今のは〈付与術師〉のだな」

「付与術師〉!? あいつは〈盗剣士〉だろうがっ」

 そう。月華はまごうこと無き〈盗剣士〉であり、〈盗剣士〉は魔法を使えるはずがない。それは、全てのプレイヤーの共通認識だ。

 だが、月華は確かに魔法を使った。これには、勿論種も仕掛けもある。

 月華のサブ職は〈魔盗賊(ミスティックローグ)〉である。その効果は、自分が就いている職業の特技と一段階下の魔法特技を交換するというものであった。

 勿論、一段階下の魔法特技であるし、何より取り替えすぎては本来の職の弱体化を招く。強力な魔法を覚えることは不可能だ。

 だから月華は、数えられる数の補助魔法しか覚えなかった。

 たかが補助魔法――しかし、戦況を左右できるものを、厳選して。

 更に彼女の籠手、秘宝級防具〈魔騎士の籠手〉は、〈魔盗賊〉の者が装備した際のエクストラル効果がある。それは、覚えた魔法の効果を三割引き上げるというものである。それにより、月華は多少の、しかし強力な魔法特技を操ることができた。

 それをPK達が悟れたかどうかは、否であろう。ただ彼らは混乱し、乱れていた戦況を更に乱れさせることになる。

「くそっ、くそっ! おいヒーラー、〈暗殺者〉復活させろ、早くしろ!」

 言われて、林からがさがさと音を立てて現れたのは、軽量の金属鎧をまとった〈施療神官〉だった。しかし、これこそ月華が狙っていた瞬間の一つである。

「出てくれて助かったよ」

 月華は〈施療神官〉に肉薄した。突然接近させられた〈施療神官〉は、なす術も無く斬り裂かれていく。

〈盗剣士〉と戦っているホムラにも言えることだが、接近戦をこなしながら回復特技を行うことはゲーム時代でも不可能に近いことだった。回復するには、まず距離を取らねばならない。

 だからこそ、〈施療神官〉は姿を隠していたのだろう。〈暗殺者〉が後方にいたのも、関係無くはないはずだ。

 だが、壁であった〈暗殺者〉が倒され、距離を取ろうにも月華はそれを許さない。右に動けば左の剣、左が動けば右の剣が襲いかかり、後ろに下がってもすぐ間合いを詰められる。

 もし、〈施療神官〉が前へ移動すれば、例え月華でも後ろに下がらざるをえないだろう。うまくいけば、向こうから間合いを開けてくれるかもしれない。

 しかし、〈施療神官〉にはそんな冷静な判断はできなかった。否、冷静でもできなかっただろう。こればかりは、実戦的か否かにしろ、技術の差が出た。そして、日頃の訓練の成果の差も。

 十秒もたたず、〈施療神官〉は〈暗殺者〉と同様地に伏した。一方の月華は、まだ体力を七割ほど残している。

 絶望的なのは、PK達の方だった。優位を覆され、最大アタッカーが倒れ、回復役を失い、もはや戦況を覆す術も無い。それでも意地なのか、無茶苦茶な攻撃を繰り返すPK達を、蒼月とホムラは冷静に迎撃する。

 そこに月華の攻撃、リリアとフィンの補助、そして駄目押しのリュートの攻撃魔法も加わり、PK達の敗北はあっさり決定した。


   ―――


 一戦をくぐり抜け、誰より疲労が色濃かったのは、やはり蒼月とホムラだった。

 蒼月はふたりの〈冒険者〉を相手取り、ホムラは回復職でありながら戦士職の真似ごとをしてみせたのである。疲れないはずがなかった。

「っはあ、やり切った。こんなに疲れたのは、門下生の相手連続でこなした時ぐらいだ」

 魔法の鞄から出した水筒を煽った蒼月は、ため息と共に言葉を吐き出した。

「へぇ……ちなみに最終的に何人、相手にしたの?」

 ホムラは座り込んだまま首を傾げた。フィンにほぼ怒鳴るように指示をしたせいか、声が枯れてしまっている。

「ん……六十四、だったかな」

「……見かけによらず、体力馬鹿なのなー。つか多っ!」

 何とも言えない表情のホムラの隣に立った月華は、微苦笑を浮かべた。

 実際は門下生三十八人が、ローテンションで挑んだのだが、蒼月の体力と実力が規格外なのは彼女も同意見である。

 リリアは今回の戦闘で自信を付けたようで、槍を胸に抱いて何度も頷いている。格上を相手に渡り合えたことが、よっぽど嬉しいらしい。

 フィンは自分の回復が役に立ったのかどうか理解できず、戦闘が終わった後は泣き出してしまった。今はリュートに抱きしめられ、慰められている。父性が発揮された瞬間である。

 ただひとり、ザジだけが何も言わず、深刻な顔をうつむかせて考え込んでいた。

「しかし連中、何でまたこんなレベル帯のフィールドにいたんだ? 狙うならもっと低レベルのパーティーの方がいいだろうに。ギルドタグも付けてなかったってことは、即席パーティーだろうしさ」

 ホムラの意見は、確かにその通りだ。何か理由があるのかもしれない。

「まあ即席パーティーってのは本当だろうな。それぞれの役割をまっとうしてはいたが、しかし練度が足りないように思えた。全く、何で俺達を狙ったのやら」

「この間の〈キングダム〉の仕業かな」

「いや、連中だったら堂々と〈キングダム〉のタグ引っさげてきますよ。第一、レベルが上限ですらなかった。少なくとも、〈キングダム〉のギルドメンバーじゃありません」

「それもそうか……」

 リュートは唸ったまま黙り込んだ。

「しかしまあ、連中はまだいい方でしょう。問題は、ギルドでPKをする奴らだ」

 水筒を戻した蒼月は、不愉快そうに眉を歪めた。

「前からPKする奴らはいたけど……ここ数日は、一気に増加しているみたいだね」

「うん……やけになってるっていうか、ほかにやることが無いんだろうな」

 娯楽の無い世界だ、何かしらで気を紛らわせたい気持ちも解る。しかしこと欠いてPKを選ぶとは、何とも情けない話だった。

「……潮時、かな」

 兄の呟きに、月華は何も言えなくなる。

 ミナミを離れる日は、すでに目前まで迫っているようだった。





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