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十九

 いつもより二倍弱長くなってしまいました。

 これで最終回です。





 月華が降り立ったのはPKの目前。刀の範囲内である。高山はそれより後方、自らの大鎌の範囲内であり、PKの被害者から見て自らの手前だ。

 PK達は動けない。月華の移動阻害のせい、というよりは、突然の乱入者に驚いているようだった。その驚きを、月華は見逃さない。

 まず〈クイック・アサルト〉で回復役の〈施療神官〉との間合いを詰め、その喉に突きを喰らわせる。息を詰まらせた〈施療神官〉に、次に〈アーリースラスト〉で攻撃した。

浮かび上がる追撃マーカー。喉を最初にやられた〈施療神官〉は、ダメージからまだ回復できない。

「〈ブレイクトリガー〉!」

 二つの黒い刃が舞い、〈施療神官〉の金属鎧を斬り裂く。とたん、斬撃に呼応するように、設置されたマーカーが全て爆発した。一斉に放たれた花火のような.鮮やかな爆発に包まれて、〈施療神官〉はゆっくり倒れる。地面に伏した頃には、HPは空になっていた。

 そこでようやく、PK達は事態を飲み込んだようだった。否、未だに理解が及んでいないのかもしれない。それでも、声を張り上げ、武器を構えた。

「な、何だてめぇら!」

「何しやがった!?」

 彼らの声は震えていた。だが、それは恐れより動揺から来るもので、退くつもりは無いらしい。

「ここで退いてくれたらよかったんだが」

 月華は双刀を構え直した。

「PKなどをやるような連中です。相手の強さのほどが解らない程度の者達なんですよ」

 高山の辛辣な言葉に、PK達は過剰なほど反応する。顔を怒りで赤黒く染め、大げさなほどしかめた。彼らも〈冒険者〉である以上、それなりに美形であるはずなのに、それを感じさせない醜い表情だった。

「言ってくれるじゃねぇか……ぶっつぶしてやる!」

 回復職を失ったにも関わらず、PKの勢いは収まる様子は無い。月華と高山はPKに武器を向けた。

 ふたりの役目はPKの引き留め役であり、PKを倒すことが目的ではない。ふたりで倒せるなどと思うほど、ふたりは自分達の実力を高く見積もってはいないのだ。

 けれど、時間稼ぎぐらいならできる。蒼月達が来るまでの時間が。

 ホムラの〈禊ぎの障壁〉はかけている。もって――三分ほどだろうか。

 ――充分だ。

 月華はにい、と笑って地面を強く踏み締めた。


    ―――


 木々の間を、ホムラとリュートは走り抜ける。

〈冒険者〉の身体はどこまでも便利なもので、幾ら速度を上げようとも疲れない。HPが最も少ない魔法職のリュートですら、現役の運動選手もかくやというほどの走力と体力を見せている。

 更に移動速度を上げる〈天足法の秘技〉を使っている。場所が遠いことがネックだが、月華と高山のところまで、かかって三分もしないだろうだろう。

「大丈夫かな、月華ちゃん……それに、あの高山という人」

 リュートが落とした不安の声に、ホムラはつい、と肩をすくめた。

「大丈夫でしょー。あのふたりが下手打つわけ無ぇし。片や〈D.D.D(うち)〉の三羽烏のひとり、片や三羽烏のひとりにずっと付き従ってたんだ。心配するだけ無駄無駄」

 あ、クシさん今は違うんだっけ。まあいいか──ホムラはのんきにひとり呟く。足はゆっくりからほど遠い、全速力であるのだが、その口調からは全く感じられない。

「それって、そんなに凄いことなのかい?」

「リュートさんは外部だから解んないだろうけど、うちにとってはとんでもねぇよ。うちは幾つか部門があるんだけど、その中のレイド作戦本部、教導部隊をそれぞれ担当してんのが三羽烏のふたり、そして副総長が三羽烏のひとり。つまり三羽烏は〈D.D.D〉の実質トップスリーってわけ」

「そんな凄いのか、高山さんは」

 リュートは感心したように唸った。

 そんな彼に高山のリアルの職業を教えるとどんな反応が返ってくるかと考えたが、さすがに状況が合わないだろうとやめた。

 代わりに、別のことを言うことにした。

「リュートさんってさあ、お人好しだよな」

「……は?」

「いや、マジでそうじゃん。ここまで来るのに一緒にパーティ組むのは解るけどさ、今までの戦闘、別に参加しなくていいじゃん。今回だってそう。嫌だって駄々こねれば、俺らだって強要しないし」

「駄々って……う、うん、まあ、確かにね。でも、それは別に、私がお人好しだからじゃないよ。どっちかというと小心者で腹黒いからさ」

「小心者で腹黒?」

「大人っていうのはね、断ることができない生き物なんだ」

 リュートは自嘲気味な笑みを浮かべた。

「複数の人間が集まると、人の和ができるだろう? 人の和を乱さないようにするには、周りに合わせなければならない。でも、合わせる過程で嫌なこともあるだろう」

「そりゃ、まあ」

「そこでわがままを言えば、和を乱すことになる。大人はそれが嫌なんだ」

 リュートは目をすぼめて前を見据えた。

「人の和を乱したくないから……いや、見捨てられるのが嫌だから、合わせるんだ、周りに」

「……それで危険に飛び込んでいくってのは、矛盾してると思うけど」

「はは、そうだね。でも、そういうものだよ。大人は、矛盾してるもんだ。でも、子供もそうだろう」

「………………」

「この年になるとね、矛盾してないものを探す方が難しいんだ。矛盾だらけで、答えも見付からない。どうしたって……って、何を言ってるんだろうね、私は」

 リュートは苦笑を作った。頬をかき、足に力を込める。

「話しているより、急ごうか。幾らそんなに凄いふたりでも、無限に時間を作れるわけではないだろう」

 軌道を正して、速度を上げる。表情はすでに切り替わっており、先ほどの言葉の余韻も無い。

「リュートさんってさあ」

 なのに、ホムラは蒸し返す。もう一度繰り返す。

 それは思い付き。ただ口を突いた一言。

 それが、リュートの心にどう響くかなど、考えもしない。

「や、大人ってさあ、つまりは馬鹿なんだな。意外。いや、予想通り?」

「……そうだね」

 返す言葉は、今までのどんな声より弱々しかった。


    ───


 蒼月が走るたびに、金属同士がこすれる音がする。しかしその足取りは重い鎧を身に付けているとは思えないほど軽やかだ。前を睨み付ける目は鋭く、種族の名が示す通り、獣のごとくである。

 ──あと、少し。

 唇を舐める蒼月は、己の瞳が金色に煌めいていることには気が付いていない。

 それがなぜなのかも、当然。

 蒼月は足を止めずにすらりと刀を抜いた。

 今回のPKとの戦いは、ミナミにいた頃とは違う。あの頃より、こちらは勿論、向こうも練度は上がっていると考えるべきだ。苦戦するに決まっている。

 月華のことだ。作戦通り、回復役を不意打って倒していることだろう。けれど、それだけだ。そろそろ障壁も切れているに違いない。

 それでも、蒼月には妹が倒れる姿を想像することはできなかった。

 それは想像したくない不安からでも、考えられない傲慢からでもない。

 ただの確信。妹が倒れることはないという確実な予想だった。

 それらは信頼以上に実力を正確に把握した上での判断だ。今まで共に戦ってきた中で計った力から計算しての予測だ。

 幼い頃から剣道場で育っていたせいか、蒼月は実力というものにとてもシビアだった。

 身内贔屓からは縁遠く、妹ですらその点においての例外ではない。だからこそ、戦闘に関しての信頼は確かである。

 蒼月は身を低くした。瞳がとらえたのは、月華と高山と対峙するPK達だ。歪な表情で苛烈な連撃をふたりに与えている。

 咆哮を上げた。案の定PK達は目を見開いて振り返る。

 その中のひとり、〈妖術師〉に向かって〈飯綱斬り〉を放った。

「な、仲間か!?」

 強烈な不意打ちを喰らった〈妖術師〉は、しかしさすがに一撃では倒れることは無く、聞き苦しい声を張り上げる。他のPK達が対応するより早く、蒼月は間合いを一気に詰めながら〈電光石火〉を使った。

 彼の全身を蒼白い雷光のエフェクトが包み、蒼月の速度が急激に上昇する。

〈電光石火〉は行動速度を一時的にだが高める効果を持っており、更に敵攻撃による硬直の時間を無効化する効果がある。パーティで使うには難しい技だが、相手の心情を乱すには最適である。

「〈火車の太刀〉!」

 PK達の前に躍り出た蒼月は、二振りの大小の刀を用いて舞うような剣捌きを見せる。剣先は複数の円を描き、PK達の身体を斬り裂いていった。

「こ、この野郎!」

 PKの目の色が変わるのを見て、蒼月は内心でくすり、と笑った。

 最初から蒼月の狙いは、月華と高山から自分へと狙いを変えることだったのである。思惑通りいったことに、とりあえず安堵する。

 しかし気は抜けない。茹で上がった頭に油をそそぐことはできたものの、ここからが本番である。

 相手は〈武闘家〉、〈妖術師〉、〈暗殺者〉、〈盗剣士〉の四人。回復役は、作戦通り即座に倒されたのだろう。

 一方の月華と高山は、やはりぼろぼろだった。

 さすがに四人を相手にするのは大変だったらしい。火力の高い〈暗殺者〉や〈妖術師〉がいて倒れることがなかったのは、特技を最大限に利用して回避に専念したからだろう。

「兄さん!」

「悪ぃ。……持たすぞ!」

 蒼月は打刀を振り上げた。

「〈兜割り〉!」

 振り下ろされた先にいるのは、〈妖術師〉である。もともと〈飯綱斬り〉によって大幅に削られていた〈妖術師〉のHPはそれによって枯渇し、そのまま成すすべも無く倒れた。

 くしくもその様は、妹が〈施療神官〉を倒した時と似ていたが、それに蒼月が気付くはずもない。

 彼は〈電光石火〉によって上がった速度を生かし、次に〈暗殺者〉に向かう。右の打刀で脇腹を斬り裂き、続いて脇差で逆を狙う。電光も相まって、その動きは人知を超えた様だった。

 削られていく〈暗殺者〉のHP。回復職がいない以上、減った数値はそのままである。

 しかし、それは蒼月達にも同じことが言える。障壁は無くなればそのままだし、回復することもできない。

「〈アサシネイト〉!」

「っ、くっ」

〈暗殺者〉のタガーによる〈アサシネイト〉が炸裂した。接近していたことが災いして、避けることができずに障壁で受けることになる。

障壁は一撃で破壊されてしまった。さすがは一撃必殺の特技である。ホムラの障壁を一瞬で剥がしてしまった。

けれど、蒼月もそれだけでは終わらない。無論、月華や高山もである。

「〈ソーンバインドホステージ〉!」

月華による魔法の茨が〈暗殺者〉の身体に巻き付く。それを確認した蒼月は、茨を斬るようにして剣撃を与えていく。

 補助に入ろうとした〈武闘家〉と〈盜剣士〉は、月華と高山が押さえに入った。

 技量としては勿論、蒼月の方が上である。しかし、一度に三人を相手にできるわけではない。突出してはいるけれど、その突出はチートと呼ばれるたぐいのものではない。

 この世界にチートなんて都合のいいものが、存在するはずが無いが。

 蒼月は確実に茨を斬っていく。全て斬り終えれば、〈暗殺者〉を倒すまでは至らなくとも、HPを大幅に削ることができる。そうすれば戦闘においてほぼ王手をかけたことになるはずである。

二つ目の茨を斬ったところで、月華の呻き声が上がった。〈武闘家〉の拳が彼女の刀を弾き、脇を通り抜けたのだ。続いて〈盗剣士〉も〈武闘家〉が開けた隙を潜り抜ける。

「〈ワイバーンキック〉!」

 鋭い膝蹴りが蒼月の脇を抉る。金属のきしむ、嫌な音が蒼月の耳に届いた。

 目の前がぶれる。足がもつれる。息が詰まり、姿勢が崩れる。

「今だ! やれっ」

「〈アサシネイト〉!」

〈暗殺者〉のタガーが蒼月の目の前に迫った。それは文字通り眼前で、鈍く光る様は死神の鎌に思えた。

 耳の奥で高い笛に似た音が響く。ひゅいんひゅいんという、背筋が縮み上がる音だ。

 当たれば確実に死ぬ。蒼月の網膜の奥で、鮮血が舞う様子が浮かび上がった。


「〈木霊返し〉!」


 一瞬だった。

 蒼月は避けられぬ死を感じていたし、PK達は倒れる〈武士〉の姿を予想していただろう。月華と高山もまた、その一瞬を諦めたはずだ。

 蒼月の死は、避けられない。

 避けられない――はずだった。

 その場にいた全員が見た。

 死の一撃を刀の腹で流し、その流れを殺さず刃を振るった、蒼月の姿を。

 何が起きたのだろう。それは誰も解らない。蒼月自身も、一瞬呆けた顔で己の刀を見つめていた。

 けれど、それはほんの僅かな時間である。

「もう一発だ!」

 そう叫んだのは、PKの〈武闘家〉だった。

 次の一撃は防げない、そう判断したのだろう。けれど実際には〈暗殺者〉は特技を使用したことによる硬直が襲っていたし、再使用制限時間はまだ満たされていない。もうひとりの攻撃職である〈盗剣士〉は、代わりにとばかりに武器を持ち上げるも、驚きのあまり反応が鈍かった。

 それは隙だ。どうしようも無い隙だ。刃を差し込めば、そのまま命を落とす、あまりに大きすぎる隙。

 それを逃す甘さを持つ者は、PKを除けばこの場にはいなかった。

 蒼月や月華、高山は勿論、その場に来た直後の者も。

「〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉!」

 高らかに響いた、リュートの声。直後に〈暗殺者〉と〈武闘家〉、〈盗剣士〉を拳大の溶岩の玉が打ち据えていく。

 その後を追いかけるように疾駆するのは、刀を下段に構えるホムラだ。

〈天足法の秘義〉を重ねがけしたホムラはほとんど瞬間移動の速さで〈暗殺者〉に突貫した。

 刀の先が〈暗殺者〉の胸を深くえぐる。しかし、倒すまでにはいたらない。〈神衹官〉の攻撃力はそれほど高くはないのだ。

 だがホムラはそれでがっかりしたりしないし、そもそも倒せないのは予測済みである。一番の目的は、自身の魔法の範囲に蒼月達を入れることなのだ。

〈暗殺者〉との距離を即座に空けると、ホムラはすぐに蒼月に〈禊の障壁〉をかけた。

「遅いぞっ」

「わり。これでも急いだんだぜ」

 ホムラの軽口ににやり、と唇を歪ませた蒼月は、〈火車の太刀〉で〈暗殺者〉と〈武闘家〉、〈盗剣士〉に斬り込んだ。火傷だらけの身体を抱えたままのPKふたりは、甘んじてそれを受けてしまう。

「うぐっ……や、やろう! 〈ライトニング・ストレート〉!」

〈武闘家〉は顔を赤黒くさせて雷をまとった拳を蒼月に向けて放った。当然、障壁に阻まれて届かない。すでに冷静さを失った行動だ。

 一方、〈暗殺者〉と〈盗剣士〉はすでに逃げ腰だった。手にしたタガーは行き場を失ったようにゆらゆら揺らめいている。

 月華はそんな〈暗殺者〉の背後に〈クイックアサルト〉で突進をかけた。

 後ろからの強襲で、〈暗殺者〉はぎくりと身体を痙攣させる。月華は攻め手をゆるめず、高山の援護歌を受けながら〈デュアルベッド〉による二回攻撃を放つ。すでに大幅にHPを削られていた〈暗殺者〉はその二撃で力尽きた。

 更に〈盗剣士〉には、〈オープニングギャンビット〉、続いて〈エンドオブアクト〉による連続攻撃を放つ。高山の援護、習熟の差もあって、あっけなく〈盗剣士〉は倒された。

 残ったのは〈武闘家〉だけだ。〈武闘家〉は〈暗殺者〉と〈盗剣士〉が倒されたことに呆然としたように立ち尽くしていた。そこに、蒼月が刀を突きつける。

「今すぐ消えろ。そして二度とPKをしないと誓え。でなければ……」

「ひっ」

〈武闘家〉は短い悲鳴を上げ、蒼月を見、その後周囲を見渡し、後ずさりした。よく確認しないで後退したものだから、後方にいた月華にぶつかってしまう。

「ひぇっ」

「……いい度胸じゃないか」

 月華が低い声を出せば、〈武闘家〉はとうとう叫び声を上げてあらぬ方へ逃げていった。

 特技でも使ったのか、ややもせず消え去った大柄な後姿に、月華は肩をすくめた。月華としては少し脅しただけのつもりだったのであるが。

 ともあれ、終わった戦闘に、月華、蒼月、高山の三人はほっと全身の力を抜いた。特に月華と高山は、一番長く戦っていたため、緊張と疲労は半端ではない。ふたりしてその場に座り込んだ。

「あー……お風呂入りたい。せめて身体ふきたい」

「同感です……あと、ふかふかのベッドで好きなだけ寝たい気分です」

 女性ふたりの発言に、男三人は顔を見合わせ、苦笑を浮かべた。


   ―――


 高山と共にシブヤで一泊した一行は、朝一番にアキバに向かった。当然、空路である。

 到着直後のアキバは、まだ朝の名残をのこしており、人もまだらだった。それでも、ずっと画面の向こう側だった〈冒険者〉の街は、懐かしさを含めて一行を迎え入れた。

 しかし、郷愁にひたっている暇はなかった。

 まず、〈D.D.D〉のメンバーではなかったリュートは、自身のギルドに帰っていった。同じギルドのメンバーであり、同じく〈大災害〉に巻き込まれていた娘が迎えに来ていたのである。

 また連絡入れるよ――笑顔でそう言ったリュートだが、もしかしたら社会人にありがちな社交辞令かもしれない。こっちから奇襲をかけてやろうと相談しながら、〈D.D.D〉のギルドキャッスルへ向かった。フィンとザジも一緒である。ふたり共〈D.D.D〉に入ることにしたのだ。

 そして到着したとたん――熱烈な歓迎を受けた。

 まず、らいとすたっふの面々にもみくちゃにされた。それぞれ特徴的な発言をもってである。

 一部挙げると。

「全俺会議の議決で! おまえらを全力で迎えることにした! おかえりいぃぃぃぃぃ!」

「やっと帰ってきたでゴザルか! 遅いでゴザルよっ」

「ふっ、俺は予見していたぞ……貴様らが俺の元に無事に帰ってくることを…………ぐすっ」

「泣きMAJIDE!?」

 ――など。目を白黒させていた一行は、最終的に高山とリチョウに助けられた。

 しかし、直後にほかのギルドメンバーに囲まれ、身動きが取れなくなってしまった。

 月華と蒼月はギルドの中心メンバーだったし、ホムラとリリアもギルド内ではそれなりに有名な存在だった。新入りであるはずのフィンとザジも例外にはならず、間断無く帰還を喜ばれ、高山とリチョウですら止められないほどに膨れ上がってしまった。

 そんなてんやわんやのホールを収めたのは、やはりと言うべきか、リーゼを伴って現れたギルドマスターのクラスティだった。

 彼の一声で解放された一行は、溜息をついた。

「助かりました、大将」

 蒼月はクラスティに苦笑を向けた。クラスティも笑みを返す。

「帰りを喜ぶのはいいことだが、限度があるからね。……それより、蒼月君、月華君。あとで部屋に来てください。色々話を聞きたいので」

 月華と蒼月の背筋がぴんと伸びた。

 彼の言う話とは、旅の思い出話ではないことを察したからだ。

「了解です」

 答える蒼月の隣で、月華は無言で頷いた。


   ―――


「レイド部隊の指揮権を三佐さんと分担、か……」

 クラスティの部屋を後にした月華は、呟いた後、こめかみをもんだ。

「三羽烏就任は免れたけど、随分厄介な役押し付けられちゃったなあ」

「あまり変わらないじゃないか」

 隣を歩く蒼月は、気楽そうに言った。彼はもともと教導部隊に所属しており、そこからの移動も何も無かったので、特別変える気分は持ってないのだろう。

「上に誰かいるか否かじゃ大違いだよ、もう」

 唇を尖らせた月華は、ふと、真剣な顔になった。

「アキバ、思ったより大変なことになってるね」

「ミナミは、別の意味でもっと大変だけどな」

 蒼月もこの話題ばかりはまじめな顔付きをした。

 クラスティの部屋で話した内容は、ギルドの人事と、これからのこと、そしてアキバとミナミの状況の比較だ。

 現実化したこの世界では、何が起こるか解らない。幾ら考えても考え過ぎということはないだろう。

 全て話し終えたところで、相も変わらず味の無い紅茶で口内を湿らせたクラスティは、言った。

「やっぱり今までと変わらないね。ゲーム時代も、現実化した今も、何も変わらない」

 その一言は、一見頼もしく思えた。異常事態に際しても揺るぎがない、強いギルドマスターに思えた。

 しかし、ふたりは知っている。彼の本質を。そして悟っている。その言葉が何の誇張も無く、本心であることを。

 ――頼もしいっちゃ頼もしいんだけどね。

 月華はギルドマスターの顔を思い出し、何度目か解らないため息をついた。

「……まあ、とにかく今日はゆっくりしよう。明日からまた忙しくなるんだし、今日ぐらい休んでもいいだろう」

 蒼月の言葉に、月華は微苦笑を浮かべて同意した。

 旅は終えたものの、忙殺される日々は続きそうである。



 この会話がされた次の月、アキバの帰還を目指す“腹ぐろ眼鏡”によってアキバが変わっていくなど、今のふたりには予測できぬことだった。

 今はただ、旅程を無事終えた安心感にひたっていた。



 終

 お久しぶりです。沙伊です。「アキバへの旅程」、無事完結することができました。

 今回長くなったのは、どこで切ればいいか解らなかったからです……結果いつもより長くなりました。

 もともと、一話一話短い傾向だったので、少しずつ長くする予定ではあったんですけどね。

 ともあれ、これで月華達の旅は終わりです。でも、しばらくしたら彼女達の話の続きを書こうかと思ってます。

 それと、『ログ・ホライズン』アニメ二期おめでとうございます! アニメはリアルタイムで見ました。OPは一期と同じでしたが、映像が一新されてて新鮮でした。アニメ、小説次の巻のカナミ編まで行くのかな? 楽しみです。

 では、最後に、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。またお会いできたら嬉しいです! では!


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