第五話 いつもの日々
浩治がサブキャラみたいになっていますが、メインキャラです。
この話は遠足の次の週の話です。
学校に着いても、教室に入っても誰かと話を交わすことはない。
無言で席に着き、何もせず、何かを見るわけでもなく、ただひたすら前を見ているだけ。
やがて、先生が来て、授業をして、休み時間になると、どこかに消える。
チャイムがなると、また席に着いて授業を受ける。ずっとその繰り返し。
その時間のほとんどが無言。口を開くとすれば、授業で当てられて答える時か、休み時間に浩治と話す時だけ。
喜怒哀楽なんて存在しない。真顔。それだけ。
友達と喋る、そんなことはありえなかった。
でも、してみたかった。そんな当たり前のことを。
「…太?勇太?」
小学生の時のことを思い出していると、浩治の声がした。
「何?」
「話、聞いてた?」
「全然。」
「だから、さっき…。」
どうでもいい話だとわかると勇太は適当に相槌を打つことにした。
前と変わらず、登校はとうめい人間の浩治と2人だけである。
でも、前と確実に違うことが1つある。
それは…。
「おい!勇太!聞いてんのか?」
「うるさいな!うんって言ってるだろ!」
「どう思う?って聞いてうんっていう返答はおかしいだろ!」
「そこはうんで分かれ!」
「分かるか!」
勇太と浩治が言い争っている姿は、勇太が1人で怒鳴っているように見え、変な目で見られていた。
教室に入って席に着く前に友達第1号である井川に話しかけられた。
「おっす、勇太。」
「おはよ。」
あいさつをしながら勇太は席に着いた。
「遠足の時は悪かったな。」
「まったくだよ。」
この前の遠足では井川は休んだのだ。
「おはよう。木藤君。」
その遠足で仲良くなった竹宮さんと一応西河さんが目の前まで来ていた。
「あ、おはよう。」
「あれっ?仲良くなったの?」
「うん。遠足の時にね。」
「そうかー。絶対無理だと思ってたのにな~。」
「え~。けっこう話しやすかったよ。」
「どっちから~?」
「私からだよ?」
「やっぱりな。」
井川と竹宮さん、よく喋る2人がそろうとこんな風になるんだな。
なんか話がスムーズだな~。
「あっ!そうだ。ねえねえ、2人にさー、あだ名付けていい?」
「あだ名?」
勇太と井川が声をそろえた。
「うん!」
「どんなの?」
「う~ん、そうだなあ。井川君だったらかっちゃんかな?」
「おっ!悪くないんじゃない?勇太、どう思う?」
「え?い、いいんじゃないかな?」
「ホント?じゃあ木藤君はね~、勇ちゃん!」
「またちゃん、かよ。」
「だってー、思いつかないんだもん!」
「まあ、いいけどさ。」
「じゃあ、決まり!」
「…どうでもいいけど先生来たよ。」
あっ!やべ!席着かなきゃ!…もう着いてた。
女子2人は急いで席に戻っていった。そういや、西河さんとあまり話してないな。まあ、いいか。
「なあ、勇太。」
「ん?何?」
「やるなー、お前。」
「何が?」
「女子2人と仲良くなるなんて。」
「うるさい。だまれ。」
井川のやつ、浩治みたいだな。
同じ対応をしてしまったけど大丈夫かな?
「そんな返しもするんだな。」
大丈夫そうだな。
「ちょっと、そこ!静かに!」
怒られてしまった…。
放課後。
「なあなあ、勇太。」
「なに?」
「今から遊びに行かないか?女子も誘って!」
「別にいいよ。」
「何々?何の話?」
「なあ、今から4人で遊びに行かないか?」
「いくいくー。ゆきっちのいいよね?」
「…私は行かない。」
「え~?なんで~?」
「…だってもうテスト1週間前に入ってるから。」
「あ!」
3人同時に声を上げた。要するに3人とも覚えてなかったのだ。
「えっと、勇太!やっぱり今日なしな。」
「うん。じゃあ、今すぐ帰ろうか。」
4人はそれぞれ帰路に着いた。
竹宮さんと西河さんとは途中まで同じでテスト範囲など西河さんに教えてもらっていた。
もちろん、井川にもメールで教えておいた。西河さんがいなかったらやばかったかもしれない。
女子2人と別れた後、
「朝、俺が言っただろ!」
と浩治が怒鳴ってきた。
「聞いてなかった。」
「聞けよ!」
これが俺のいつもの日々だ。
小学の時と確実に違うこと、それは友達がいて、毎日が充実してること。
もう前みたいに寂しい毎日を送らなくていいんだ。
俺は喜怒哀楽ができてるかな?できてるといいな。
少なくとも、楽しんではいる。それだけでも十分だ。
これからもずっと続けばいいな。
「おい、勇太。聞いてるのか?」
「はいはい。聞いてるよ。」
「絶対、聞いてないだろ!」
井川や竹宮さん、西河さん、そして浩治との楽しい日々が。
次回予告
テスト勉強をすることになった勇太。
そこで勉強会を開くことにしたが…。