第四話 遠足
なんか1話ごとに文字数が増えていってます。
もう少し安定するように調整します。
周りで楽しそうに笑っているクラスメイト。それを横目で見ながら遠くの景色を見る俺。
笑うこともなければ、話すこともない史上最悪の日、遠足。
そう、今日は俺以外はみんな楽しみ遠足だ。
春の遠足だってよ。馬鹿だろ。絶対そんなの必要ないだろ。
などと俺一人が言ってても何も変わらないわけで。誰が考えたんだよ、こんな最悪な行事。
勇太に友達はできたが、1人から変わることはなかった。
なのに、遠足の班決めがくじ引きだ。
その結果、奇跡的に井川と同じ班になることができた。
それだけでも、最悪ではないだろう。
だが、問題は残りの班員だ。勇太の班は4人班で男女2人ずつである。
よって、班員は勇太と井川、そして女子2人ということになる。
え?何が問題なのかって?
井川と知り合うまで友達がいなかったんだぞ?女子と話すなんてできるわけがない。
井川が俺にまかせろ!!とは言っていたが、どうにも心配だ。
そんなこと言って遠足に来れないとか言うんじゃないのか?
そんなことを考えていると、学校に着いてしまった。
まだ井川は来てないのか、とバスに向かうと、ポケットに入れていた携帯が突然鳴った。携帯を見てみると、井川からだった。
「はい、もしもし。」
『勇太。ゴメン、風邪ひいて遠足休むわ。』
「ば、ばかやろーーーーーっ!!フラグ回収するなよ。」
『フラグ?何のことだよ?とりあえず、そういうことだから。じゃあな。』
井川がいるから最悪ではない?前言撤回だ。
やはり遠足というのはろくなものじゃない。今から史上最悪の日の始まりだ!!
バスの座席は自由なので、他の人と話す必要がないであろう1番前の席にしていた。
本当ならば、隣に井川がいるはずだったが、休みなので代わりに浩治が座っている。
浩治が飽きもせず勇太に話をしている。話はまったく聞いていないけど…。
そんな浩治のくだらない話よりも今日をどう乗り切るかを考えていた。
とりあえず、目立たないように頑張る。それしか思いつかなかった。
目的地に到着した。バスを降りて、5分ほど歩くとキャンプ場に着いた。
今日はここでバーベキューをするらしい。
班ごとに場所が決まっていて、そこに材料など全て用意されている。
簡単に言えば、今日の作業は火を点ける、焼く、食べるだけだ。シンプルだ…。
「勇太、今日がんばれよ。」
浩治がニヤニヤしながら言ってきた。うざい…。
「たぶんな…。」
「俺の助けが必要になったら、ヘルプサインを出してくれ。」
「ヘルプサイン?どんなの?」
「俺の方に顔を向けてくれればいい。」
「木藤くーーん」
浩治と話していたらどこかから声が聞こえた。
声のした方を見ると、女子が手招きしていた。その近くにもう1人の女子が地面に座っていた。
わかっているだろうが、班員だ。それ以外に女子に名前を呼ばれるようなことはないからな。
勇太はその女子のところまで急いで行った。
「木藤君、私たちの名前わかる?」
勇太は首を横に振った。
「じゃあ、紹介するね。私は竹宮智菜。こっちは西河有希ちゃん。あだ名はゆきっち。」
ロングヘアーでテンションが合わなそうなのが竹宮さん。
メガネでショートヘアーで勇太に似てる感じなのが西河さんだな。よし、覚えた!
「木藤君。今日はよろしくね。」
「……。」
勇太は浩治の方を見た。
「えっ。もうヘルプサイン?早いな!」
勇太にとって女子と話すこと自体が無理なことだった。何を言えばいいのかわからないし…。
「ったく、しょうがないやつだな。いいか?前と同じように俺が言ったことをそのまま言えよ。」
勇太は小さく頷いた。後で気付いたことだが、勇太は緊張のあまり、前みたいな変なことは言うな、と浩治に言っておくのを忘れていた。
「え~、俺の名は木藤勇太。よろしくな!キラーン。」
「……。」
2人ともポカーンとしている。同時に勇太は今言ったせりふに気付いた。
「…って自分でキラーンとか言うな!!」
すると、竹宮さんが笑い出した。
「ほんとに井川君が言ってた通り。」
「へ?」
「木藤君、おもしろいね。」
「そ、そうかな。」
「よし、勇太。あとはお前1人でがんばれ。俺はその辺散歩してくる。じゃあな。」
「おい。」
勇太が振り返ったときにはもう随分遠くに行っていた。
あいつ、無責任にもほどがあるぞ。戻ってきたらただじゃおかないぞ。
女子2人はバーベキューの用意を始めていた。
「あっ。俺がやるよ。」
そう言うと、勇太は手際よく木炭を並べていき、あっという間に肉が焼けるくらいの火にした。
「木藤君すごーい。こういうの、得意なの?」
竹宮さんが目を輝かせながら言ってきた。
「よ、よくやってただけだ。」
遠足で食べ物を作るときは1人でやらされてたなんて言えないよな。
「もしかして、料理が得意とか?」
「い、いや。時々作るくらいかな。」
こういう日のためにだけど…。
「へ~」
「…火の強さも悪くない。むしろ、ちょうどいい。」
今まで口を開かなかった西河さんが火を見ながら言った。
しゃ、喋っただと…?こいつ、喋れたのか…?って当たり前か。
「わー、ゆきっちが喋るなんて意外。」
「…喋らない方がおかしい。」
ですよね。てか、この二人のテンションが違いすぎる。
「じゃあ、お肉焼こっか。ゆきっちも火がちょうどいいって言ってるし。」
「西河さんが言ってるからって…。」
「ゆきっちってこういうの、けっこうこだわるんだよ。だから、大丈夫!」
「そ、そうですか。」
肉は女子2人と少食である勇太には多すぎた。余ってしまったので、竹宮さんが他の班に分けに行っている。
必然的に、この場にいるのは勇太と西河さんの2人である。
「…ねえ。」
いきなり西川さんに呼びかけられた。
「な、何?」
「…あんたさ、変わろうと思わないの?」
「えっ?何?いきなり?」
「…私、あんたと同じ小学校だったんだけど。」
「なっ!」
知り合いのいない学校に来たはずだったのに。まさか、こんな近くに…。
「…だからって何かするわけじゃないわよ。ただ、仲良くなろうとしてる人と距離を置こうとするのをやめてほしいだけ。」
「……。」
「…知ってる?トモ…竹宮智菜はね、1人だった私に話しかけてくれた。あんたとも仲良くなりたいって言ってた。そういう子なのよ。」
「でも…俺…。」
「…1人でいることが当たり前だった私に仲良くしようって言ってくれた。こういうのもいいかもって思った。あんたはずっとそのままでいいの?」
「俺にだって友達くらいいる。井川だけだけど。」
「…1人いればいいの?」
「それは…。」
「何の話?」
他の班に肉を分け終えた竹宮さんが戻ってきていた。
「…トモ、コイツと仲良くなりたいんだよね?」
「うん!」
「竹宮さん!!」
勇太がいつもより大きな声で呼ぶと、竹宮さんは少し驚いた様子で勇太の方に顔を向けた。
「なんで俺と仲良くなりたいの?」
その問いに竹宮さんは即答した。
「楽しそうだから。」
「楽しそう?」
「うん。入学式の時から木藤君といたら楽しそうだなあって思ってた。でも、話しかけようにもきっかけがなくて…。ゆきっちは席が近くだったから話しかけれたけど。だから、遠足で同じ班になった時やったあって思っちゃった。」
「それで仲良くなりたいって?」
「うん。だから、友達にならない?」
「うん、後悔しないなら…。」
「絶対しないから大丈夫!」
そう言う竹宮さんは満面の笑顔だった。
帰りのバス。
「なあ、浩治。もしかして、お前、こうなることを読んでたのか?」
「いや、全然。」
「え?」
「勇太1人だったらどうなるかなあ、って思って。」
「じゃあ、ずっと見てたのか?」
「当たり前だろ!」
「そうか、浩治帰ったら覚悟しとけよ。」
「断る。」
「…まあ、いいわ。結果は良かったからな。今日は許しといてやるよ。」
「なんで上から?」
「悪いのはお前だろ。」
「俺に助けを求めた勇太が悪い!」
「うるせえ!」
バスは学校に戻ってきて解散となった。
勇太が浩治と帰ろうとしていると、後ろから
「木藤君、バイバーーイ。」
と聞こえた。声のほうを見ると、竹宮さんが大きく手を振っていた。勇太はそれに
「バイバイ。」
と小さく手を振った。
悪くないかもな。たまには遠足も。
「なあ、浩治。」
「ん?」
「遠足って無駄だよな。絶対必要ない行事だよ。でも…。」
「でも?」
「こういうのは、嫌いじゃないな。」
そう言う勇太は晴れ晴れした表情だった。
とりあえず、この4人+1をメインで進めていきます。
次回予告
遠足で友達が増えた勇太。
その次の週。
勇太達の日常を描く。