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仮面のお茶会

作者: シュウ
掲載日:2012/07/20

顔面格差社会とか『ただしイケメンに限る』とかの言葉が行き過ぎてしまったせいで、家にこもりがちになったり、マスクやサングラスをして顔を隠す人が極端に増えてしまった2060年の日本。

これをどうにかしなければ日本経済が回らないと考えた政府は、ファッション業界と手を組み、オシャレな仮面を作った。

政府が認可した仮面を付けることにより、仮面を付けたまま外を出歩いてもいいことになった。

これが『仮面装着特例法』である。

仮面は、とても軽い素材で出来ており、物によっては目の部分に眼鏡のレンズをはめることもでき、仮面の上から眼鏡をかけなくても大丈夫というものまで作られていた。

顔全体を隠すタイプの物から、目元だけを隠すような物、または完全に覆面状のものまであった。

仮面にはそれぞれIDが組み込まれており、仮面をつけていれば、仮面自体が身分証明書になっていた。

逆に言えば、仮面を付けていて個人認証ができない者は、非合法的に手に入れた仮面を付けていると言うことで逮捕されるケースもあった。それもこれも仮面による犯罪を防ぐためだった。

こうして全国各地で仮面をつける人間が増加してきた今、人口の7割が仮面をつけて生活をしていた。

それでもテレビに出たりする人は、仮面を付けてはいけないということが法律で制定されていた。

テレビを見て家で過ごす人間はあまり実感はないが、一歩外に出ると全く違った風景が広がっていた。


そして金曜日の深夜1時。

夜も深まり、静かになった広場の片隅で、いつものように仮面をつけた面々が集まっていた。


「フフフ。今宵もやってきたな。客人よ」


全身黒のドレスを着た黒髪の女が言った。

下手をすれば遠くから見るとそのまま闇に溶け込んでしまいそうなほど真っ黒だ。

付けている仮面は顔全体を覆い隠すタイプのもので、やっぱり黒だった。


「ははは。今日も来ちゃいました。黒さんは今日も真っ黒ですねぇ」


そう頭をかきながら言う男は、夜の闇に映える目元だけを隠すタイプの白の仮面をつけているが、服装は一般的なスーツという優男だった。

サラリーマンの仕事帰りにも見えなくもない。


「私は黒が好きなのだ。黒はいいぞ。闇と一緒になれる気分だ」

「はははは。黒さんは面白いですねぇ」

「何をのんきな。さっさと席に付けよ。始まらねぇだろ」


先に席に座っていた顔全体を隠す赤い仮面をつけている男は口悪く言っているが、体つきやはどう見ても高校生かそこらであった。

しかし、この集会では年齢・性別・身分などは一切気にしないのがルールである。

また素性を知ろうとすることも御法度であった。

そして赤い仮面の男の横には、覆面状の青い仮面をつけた中年の男性が座っていた。

白い仮面の男が到着してからも一言も喋ってはいないが、特に嫌そうな顔はしていない。

そもそも嫌ならこんな時間にこんな場所にいる訳がなかった。


「では集まったことだし始めるとしようか」

「おう。待ちくたびれたぜ」

「すみませんねぇ」

「では・・・今日は白の日だったか?」

「あ、はい。そうですねぇ」


それぞれを仮面の色で呼んでいるようで、白と呼ばれた男は頭をポリポリとかいて、カバンの中からポットとカップを取り出した。そしてカップになにやら注ぎ込んでいく。

注ぎ終わると、他の3人の前に差し出して『どうぞ』と飲むように促した。

3人はほとんど同時にカップに口をつけて一口飲む。


「ほぅ。これは麦茶というやつだな」

「さすが黒さん。正解です」

「麦茶ってなんだよ」

「麦という植物から作られたお茶だそうです。昔はよく売られていたそうですが、最近だとほとんどレアものですよ」


日本人が飲むお茶としては有名だった『麦茶』は、30年前に全国的に起こった原因不明の謎の豪雨の影響で、日本各地で麦が育たなくなってしまったためにとても希少価値の高いものとなってしまった。


「白はどこでこれを手に入れたんだ?」

「これはですね、3日前に行った群馬県のほうで見つけたんですよ。飛び上がるくらい嬉しいものでしたので、思わずみなさんに飲んでもらいたくて買ってしまいました。それなりに値が張るんですけどね」

「うちの祖母はこの飲み物が好きだと言っていた」


青が口を開いた。


「青のお婆様はおいくつなのだ?」

「今年で80になる。最近の日本は外国産ばかりでからだに悪いとよく言っている」

「そうなんですかぁ。このお茶、持って帰りますか? お祖母さんも喜ぶでしょう」

「大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく」

「そうですか。私はこれだけです。お菓子も持ってこようかと思ったんですが、ちょっと麦茶のせいで予算をオーバーしてしまいまして・・・」


申し訳なさそうに白が言った。

その時、赤がカバンをガサゴソと漁り始めた。


「お菓子は任せろ! ほれっ!」


カバンから袋に入った薄いお菓子をテーブルの真ん中に放り投げた。


「今日は赤の日ではないぞ?」

「いいじゃねぇかよ。せっかく手に入れたから持ってきたんだよ」

「あ、これ、せんべいですね」

「よく祖母の家で食べた」


どうやら青はおばあちゃんっ子のようで、懐かしそうに袋から取り出したせんべいを見ていた。

白もせんべいを一つ手に取ると、袋から出してパリパリと食べ始めた。


「なんだよ。知ってるのかよー。持ってくるんじゃなかったぜ」

「私は知らぬぞ。説明してくれぬか」


年齢差があるようで黒だけ知らず、初めて見る『せんべい』に驚いていた。


「これはせんべいって言ってな。パリパリしてて美味しんだ。外国の菓子が出回るようになってからせんべいが出回らなくなったんだよ。それも30年ぐらい前らしいからな。白とか青は知ってるみたいだけど、俺とか黒はまだ生まれてないからな。知らなくても当然だ」

「そうなのか。では一つ・・・」


そう言って黒も袋からせんべいを取り出してパリパリと食べ始めた。

一枚食べ終わった青が口をひらいた。


「そういえば祖母が言っていたのだが、昔のアイドルは選挙とかしていたらしい」

「は? 選挙?」

「あぁ。CDを買った人間が選挙権を手に入れて、アイドルのナンバーワンを決めるらしい」

「なんだそれ」

「その話は私も聞いたことあります。なんでもその選挙で選ばれた人達は、その年のアイドルの頂点に立てるみたいですよ」

「最近ではありえない話だな」

「そーゆー黒さんは、昔の文化を象徴してると思いますけどねぇ」


そう言って、男性3人は黒の服を見た。


「私のはアイドルではない。アニメのキャラクターだ」

「だからもうアニメは古いって言ってるだろ」

「赤は黙っておれ。この服の良さはわからんのだろう」

「へいへい」


2010年ごろに流行っていたアニメだが、子どもや若者に悪影響を与えるだけでなく、アニメに夢中になりすぎて社会経済の循環を悪くするということで、日本各地でアニメや二次元作品と呼ばれるものの流通が完全に途絶えた。

しかしその中でも、熱狂的なファンなどは地下活動と称して、即売会と呼ばれる闇市場のような集まりやなどが開かれたり、個人的に隠し持っているということが行われたりしていた。ちなみに現在、そのようなものを所持していた場合は、逮捕はされないものの、罰金を受けて没収されてしまう。

また日本経済はそのアニメ関連の罰が制定された当初に、政府が行なったデフレ対策として、物価の急上昇と賃金の大幅底上げを行い、日本内での景気を良くすることには成功していた。

しかし輸出入の面でうまくいかなくなってしまい、それから10年ぐらいは鎖国状態だった。アメリカやヨーロッパ諸国との貿易が再開されたのは、外国のものが大量に日本に出回ってきたここ20年か30年前ぐらいの話であった。

そう考えると、日本の経済はかなり持ち直してきたと考えてもいいかもしれない。

その後も、4人は昔の話をし、麦茶を飲んでせんべいを食べて、まったりといつものような時間を過ごした。

そう。

この4人は、古き日本の文化を語り合い、各自が見つけた『日本の心』を披露し合う場所でもあった。


「さてと。今日はこの辺でお開きにするとしようか」

「次は黒さんですか?」

「うむ。私が用意する番だな」

「では私はこれで。次も楽しみにしてますね」


ペコリと頭を下げてから白は夜の闇へと消えていった。


「俺も楽しみにしてるからな。変なもん持ってくんなよ?」

「変なものなど持ってこんわ!」

「んじゃなー」


赤も軽口を言いながら小走りで闇へと消えていった。


「では青。私も帰るぞ。またな」

「俺も帰る」


青が立ち上がるのを見届けてから、黒も闇の中へと同化するように消えていった。

最後に青が無言のまま夜の闇の中へと消えていった。


毎週金曜日になると、ここのベンチに夜な夜な集まっては、とある集会をする。

4人はこの集まりのことを『日本文芸部』と呼んでいた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

感想とか書いていただけるとウルトラハッピーです。


今まで書いたことのない雰囲気のお話でした。

『未来の日本はこんな感じになるんですかねぇ?』という考えから産みでたお話でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] あら、短編なんですね。続きがちょっと気になります。 未来の人たちに今の僕らがどう思われてるか、想像すると楽しいですね。
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