2―1
かなり遅くなってしまいました。2章です。
「暑っつ~」
下敷きで扇ぎながら、優は机に座っていた。
「全く…何でこんなに暑いの…」
真夏の、学校の休み時間。
エアコンの設備はあることにはあるのだが、休み時間にはつけてくれないのだ。
「ねぇ、次の時間、化学の実験だけど、移動する?」
希は優に話し掛けた。
――――――
「こんにちは~って、寒っ!」
優は一気に体を縮こませた。
「何なんですか、海岳先生!」
「あれ、そんなに寒かった?」
化学の教師、海岳は教卓から顔を出した。
「ごめんごめん。これから、暑いと問題な薬品を授業で扱うから。」
「昨日の授業のときに言ってくれれば…」
――――――
「今日のテーマは…元素、リンです。」
海岳は2つ、赤い物体と黄色い物体がそれぞれに乗った皿を出した。
「こっちが赤リンで、こっちが黄リン。多分みんなは、赤リンなら見たことあると思うよ。」
「先生、どこでですか?」
「マッチ箱の横についてるヤツ。」
海岳は黄リンが乗った皿を出した。
「でもこっちは、多分見ることはないんじゃないかな?なんてったって、すごく危険だから。」
「先生、どこが?」
「これは室温が高いと自然発火する。だから、今日はエアコンがビンビンに効いているんだ。」
――――――
突然。
<ジリリリリリ!>
『地震です机の下に隠れてください。これは訓練です。』
天井のスピーカーから、こんな声が聞こえてきた。
「なんか、危機感の欠片もない声だね…」
優が希を見ながら言った。
海岳が立ち上がった。
「みんな、避難しよう。教室の外に並んで。僕はリンをしまってくる。」
――――――
避難訓練は、生徒が校舎から出て、何事もなく終わった。
事件は、昼休みのあとの授業中に起きた。
<ジリリリリリ!>
再び、非常ベルが鳴ったのだ。
『…生徒の皆さん、避難してください!理科室の近くを通らないようにっ!』
今度は、危機感に満ちた放送が流れる。
「…ヤバくない?」
――――――
現に、ヤバかった。
どこかから火が出て、辺りに黒煙が立ち込めていたのだ。
希はマニュアル通りにハンカチを口に当て、姿勢を低くして校舎の外に出た。
火が出ているのは、理科室からだった。
後処理を消防士たちに任せ、希は校舎からはなれた。
――――――
「あ!希ちゃん!」
火が収まり、校舎に戻った希に、駆け寄る人がいた。
「司さん?」
「ちょうどよかった。学校の関係者に話を聞こうと思って、校内をうろうろしてた所なんだ。」
司は笑顔を浮かべながら言った。
「良いですけど…何か大変な事でも?犯人でも特定しなければいけないような…」
深刻な顔をして、司は言った。
「…死人が出てるんだよ、1人。」