1―3
希は悩んでいた。
労働基準法に違反していると言えども、これ以上介入するのは迷惑だ。
それに、優の母親の職場を失うことになる。
優の家はシングルマザーだから、働き手は母親しかいない。
いくら高校生でアルバイトが出来ると言っても、バイトだけで2人を養うのは不可能に近い。
どうしたものか。
「響さん…どうしましょう…」
ここは響法律事務所。 隆一は頭をかいた。
「司が入っていけたらなぁ…」
――――――
「響!逮捕状を取るぞ!」
「先輩、あまりに突然ですが…」
そのころ、司と光焔は署にいた。
「タレ込みの裏付けが取れたんだ!行くぞ!」
「何があったんですか?!」
光焔はニヤッと笑った。
「あの後、ちょっと上の方に話を通してな、多少融通してもらって。沖田商事の前で張ったんだ。」
「先輩って…何なんですか…?」
――――――
「何か知らないうちに事件が解決したっぽいんですけど…?」
希は署に来ていた。
「優に、突然優のお母さんが早く帰ってくるようになったって聞いたんですけど?」
「ああ、希ちゃん。タレ込み、ありがとな。」
光焔は笑った。
「沖田を逮捕した。証拠も上がってるし本人も認めてるから、そのうち送検されるだろう。」
「ずいぶんと速い解決ですね。」
「ただ、」
顔を曇らせる光焔。
「沖田商事が潰れるのは避けられないだろうな。」
「じゃあ、他の人たちは失業するんじゃ…」
「その通りだが、ここはどうすることもできないからなぁ…」
「そんなぁ…」
――――――
「響さん!何とかならないんですか!」
法律事務所に戻った希は、署での経緯を隆一に説明し、 聞いた。
「どうにもならないな、これは。」
隆一は頭をかかえた。
「そんな企業の内部に介入できるほど、弁護士は力を持っていない。」
「限界…ですか…」
「その通り、法には限界がある。そんなもので人を全て裁けるなら、私達は要らない。」
――――――
「あのー…」
ドアをそっと開ける音が聞こえた。
隆一と希はドアのほうを向いた。
「すいません…私を、雇ってくれませんか…?」
きれいな女性が、そこに立っていた。
「沖田商事の件で助けていただいた、浅倉 舞子です。あつかましいお願いかもしれませんが、お願いします!」
舞子は頭を下げた。
「…舞子さん、事務は得意ですか?」
隆一は、不意に口を開いた。
「…え?事務作業なら、前の職場でやっておりましたが…」
「ならちょうどいい。私の秘書、やってくれませんか?」
――――――
舞子を雇うことを決めた隆一は、後に判子など必要なものを持ってくるように舞子に言って、舞子を帰らせた。
「響さん、あまりに突然ですね…」
事務所で、帰り際に希は隆一に話掛けた。
「いや、事務作業に追われていたのは事実だからね。失業者は1人減って、事務もできるなら、一石二鳥じゃないか。」
「まぁ、それもそうですけど…」
希は言葉を続けた。
「私には不思議でならないのですが…」
「何が?」
「浅倉さん、どうやってこの事務所を突き止めたんですかね…」
希は腕を組んだ。
「警察からチクった人を聞いたとは考え難いですし…」
「希ちゃんは舞子さんの娘さんに、自分の立場を明かしているのかい?」
「言ってませんよ。今度聞いてみましょうか。じゃあ。」
希はツカツカと足音を立てながら、響法律事務所を出て行った。
どーも、いなばの黒うさぎです。
本当に稚拙な文章ですが、読んでくださっている皆さんに、ありがとうを何回言っても足りないぐらい感激してます。
先日などお気に入りに入れてくださっている人がいて、思わずスマホの前で涙を流しそうになってしまいました…(・・;)
とりあえず、1章は終わりです。
2章は…頑張ります。いつになるかわかりませんが…