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Refrain  作者: 凸凹道
3/4

きっかけ

突然背中から床に落ちた。

大連のマンションのほとんどは既に備え付けの家財道具が最初から設置してある。


マンションのオーナーの趣味で揃える。

なので、マンションを決める際はその家財道具の趣味も自分に合っているかどうかが重要になってくる。


せっかくいい部屋の作りで値段も安く、日当たり、交通の便が完璧だったとしても、壁一面が花柄の部屋には住めない。


今住んでいる部屋も壁の柄やベッドのデザインは気に入っていない。

ただ、交通の便と、値段、南向きという部分で妥協して決めた部屋だ。


俺は大体どんなものでもシンプルなデザインが好きなのだが、俺の部屋のベッドは何というかヨーロッパのゴージャスな感じのものだ。


多分普通のベッドより高さもある。


そのベッド急に無くなって背中から床に落ちた。

当然目を覚ます。


目を覚ました瞬間、ヤバイと思った。

周りがやけに明るいからだ。

俺はいつも朝六時には起きる。今の季節はまだ周りは真っ暗だ。

遅刻した・・・しかも大幅に・・・


そう思って慌てて体を起こした。

「えっ・・・・」思わず口に出してしまった。

真っ白だ・・・何も無い。

ベッドから落ちのでは無くベッドがなくなったから床に落ちたのだ。

床といってもフローリングがあるわけではなく、床も何もかも真っ白だ。

床に触った感覚はあるが、床と空間の境目が認識できるわけではない。

自分の体はあるが服は着ていない。


それは、夢と呼ぶにはあまりにもリアルな感覚だったため夢とは気づかない。

次の瞬間、再度意識が無くなり、はっと気がつくといつもの通りベッドの上にいた。


汗をびっしょりとかいている。

夢か・・・

横においてある時計を見るとまだ四時だった。

俺は再度、眠りについた。


勝利広場でのあの奇妙な体験をした次の日、先日見た夢の事を考えながら、バスに乗って会社に向かっていた。


俺がいつも乗っているバスは一元でどこまでの乗れる。


非常に安くていいのだが運転の荒さはなるほど一元だと納得する。

本当のところ、運転が荒いのはバスだけではなく、タクシーも同じなのだが。


バスの一番後ろの席に座り、窓の外をぼんやりと見つめながら、奇妙な夢と、勝利広場での体験の事を考えてみる。


夢は真っ白な世界にただ自分がいるだけだった。その夢と勝利広場での体験がどう結びつくのかはわからないが、関連があるように思えてならない。


あんな奇妙でリアルな夢を見たことが無かった。

あれは本当に夢だったのか?


白昼夢と言うのを聞いたことがある。実際体験したことは今まで無かったが、おそらく、それよりもはるかにリアル、いや、現実そのものだった。


次に勝利広場での出来事だが、まさかあれが夢だあるはずが無い。

現に携帯電話はチャージされている。

保障は無いが幻覚でもないはずだ。

それに俺は今までに一度も幻覚というものを見たことが無い。

幻覚などはテレビや小説の中だけの話だと思っていた。


あの時の感覚ははっきりと覚えているが、確かに幻覚などではなかった。

あれこれ考えては見たが答えなど出ないのはわかった。

ふと携帯を見てみるとメールが来ていた。

開封して、憂鬱な気分がよりいっそうました。

「体調不良のため本日休ませてください。」


俺を憂鬱にする理由はそれだけではない。

休むといってきた本人が俺が秘かに好意をよせている女性だったからだ。

彼女は唯一俺を会社に向かわせる動機となる人物だ。


なんというか、当然スタイル抜群で顔も可愛いのだが、時々はっとするような妖艶な表情をする時がある。


俺の会社は社内恋愛を禁止しており、俺も上司と部下という関係もあるため、仕事以外ではまったく話した事がない。


住んでいる場所が近いので本当であれば同じバスで通勤しているはずなのだが、出退勤時間が違う為、バスで会う事も無い。


ま、好意は寄せているが、実際のところどうこうしたいわけではないので、ただ単に目の保養として、それだけの関係で終わるだろうが。


とにかく、今日はなんの楽しみもない憂鬱な業務となるな・・・

そう思いながら、メールの返事を打ち始めた。

[ryoukaisimasita yukkuriyasunndekudasai]

中国のメールはピンインというアルファベットを打ち込みそれを漢字に変換するという方法なのだが、、俺は中国語がほとんどわからない為、いつもメールはローマ字だ。


次の日、会社は午後で終わりだった。

地下鉄の工事が行われているのだが、近くてダイナマイトによる発破作業が行われる為だ。

念のためということでその地域一体の全ての会社が非難対象となる。


会社が午後から終わりになる事はさほどうれしくは無い。

どの道遊びに行く相手もいないし、言葉も通じない為、一人で出歩くことも無く、家にいるだけだ。


家にいたところで、日本語のテレビが見られるわけでもなく、特別何もする事が無い。

暇をもて遊び、時間が経つのを待つだけだ。


ただ、俺は別の事で期待する事があった。

普段は一緒に帰る事が出来ない、黄 麗美と一緒のバスで帰れるかも知れないという期待だ。


とはいえ、俺から一緒に帰ろうなどと、声を掛けることは出来ない。

偶然を待つしかないのだ。

おそらく一緒に帰れることなどほぼ無いだろうし、もし、一緒のバスになったとしても特別話すことも無いため、気まずい空気が流れるだけかもしれない。


そんなことを考えながら、帰宅する時間が来た。


簡単な終礼を行い、課員が帰宅を始める。

俺は、パソコンの電源を切れるのを待ちながら、黄 麗美の様子を伺う。


彼女が席を立つのを見計らい、俺も少し遅れて席を立ち、課員にお疲れといいながら、部屋を出た。


黄 麗美は俺の少し前を歩いているが、同僚と一緒に帰る様子は無く、一人で歩いている。

携帯で誰かと話しているのが分かるが、誰と話しているのか、内容は何かまでは当然わからない。


彼氏だろうかなどと、少しやきもきした気持ちになる。


そのまま、会社を出て、バス停まで歩いて行くが、彼女は俺が後ろにいることなどまったく気づく様子は無い。


そうこうしているうちにバス停についてしまった。

すでに何人かがバスを待ていた。

彼女が先に最後尾に到着した。


このままだと俺が彼女のすぐ後ろに並ぶことになるだろう。

そうなれば、話すきっかけは作りやすいなと思った。

が、俺の後ろからばたばたと複数の人が走ってくる音が聞こえ、俺を追い越して行った。


あろうことに、彼女と俺の間に割って入ってしまった。

俺と彼女の間には五名ほどの間が開いてしまったのだ。


彼女のすぐ後ろには、30歳位の男で、その後ろは何をしているのか分からない20代位の男たちが並んでいた。

これで彼女と話すきっかけはずいぶんと少なくなってしまった。

それは残念だが、それより、バスの中に入った後、お互い同じバスに乗っていることが分かって、微妙な距離で、挨拶だけを交わし、その後なんとも言えない微妙な空気が流れる事のほうが心配になった。


考えすぎかと思うが、これが俺の性格なので仕方ない。

その時はそんなちっぽけな心配が無くなるとは思わなかった。


しばらくそのままバスをまっていてしばらく経ったとき、彼女の後ろに並んでいた男の行動が、少し気になり始めた。


やたらと周りを気にして周りを見渡している。

彼女との距離も不自然なほど近く、ほぼぴったりとくっついている。


その後ろに並んでいる人たちはまったく別の報告を向いてお互いに話しており、そんな様子には気がつかない。


次の瞬間、男の手が、彼女の鞄に手を伸ばし、チャックを開けようとしているのが見えた。


大連ではかなりスリが多いと聞いていた。

俺も気をつけるようにはしていたが、一度もそんな目にはあったことが無かったし、話は聞くが、実際に自分の身近な人がスリにあったという話は聞いたことが無く、実際そんな場面に出くわすことなど無かった。


今回も知っている人物を注意してみていたから分かっただけで、知らない人物がそのような目にあっていても気がつかなかったし、又気がついたとしてもおそらくほうっておいただろう。


なぜなら、スリの現場を押さえた人が、後日殺されたという話を聞いていたからだ。


今回はさすがにほうっておくことが出来なかった。

俺は本来そんなに気が強いほうではなく、どちらかと言うと触らぬ神に何とやらのほうだ。


少し迷いはあったが、止めに行くことにした。

心臓はバクバク言っている。

男に向かって歩き始め、後一歩のところまで近づいたとき、ちょうど男の手が彼女の鞄に入っていると事が見えた。


俺は、手を伸ばし、男の手をつかんだ。

そのとたん、男はすごい力でその手を振りほどき、周りの人間を跳ね除けながら5mほど走った後、こちらを振り返った。


その目を見たとき、俺は早くも後悔した。


見開かれた目は一瞬で俺の顔を覚え、絶対に忘れないと言っている様な気がした。


その後体を向こうに回し、小走りに走り去っていった。

それを見ていた周りの反応は、これが又、後悔をいっそ募らせる事になった。


こいつは何をやってるんだといわんばかりの逆に非難、もしくは同情のような目で俺を見ていた。

彼女の様子も同様で、俺に対しておびえているような様子にも見えた。


とりあえず、彼女に向かって、「今、財布とスラれるところだったから」

といって、俺はすぐに列から離れた。


彼女の反応を見るのも怖く、そこに並んでいる事に耐えられなくなったため、家とは逆に、会社に向かって歩き始めた。


早くこの現場から立ち去りたい気持ちで、いっぱいだったため、かなり足早に歩いていった。


タクシーを拾おうと思っていた。


しばらく歩いてると人が走ってくる音が後ろから聞こえた。

俺は怖くなり、すぐさま後ろを振り返った。


誰かが走って来るのが見えた。


黄 麗美だった。






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