第47話 ヘレンの馬に乗って村へ帰る
「いや、もうボナンザ一家は攻めて来ないんだから、帰り道の護衛はいいって」
「そうはいかねえよ、私はリュージの護衛だからな、さあ、後ろに乗りな」
領館での業務を終わらせ帰ろうとしたら、ヘレンが馬で送ってくれると言い出した。
もう危険は無いので護衛とか良いと思うのだが、ヘレンは聞かない。
というか、お前のボナンザ一家が無いのだから危機はないんだが……。
ヘレンの馬は灰色のブチでよく走りそうだな。
引っ張り上げて貰い、彼女の後ろに乗った。
さすがに女性の腰に手を回すのには抵抗があって、鞍を持っていたのだが、ヘレンが俺の手を取って腰にまわした。
「ちゃんとベルトを持ってろな」
「わ、わかった」
ヘレンのズボンのベルトを持って後ろに乗る。
なんだか体温が感じられるほど近くでドキドキするなあ。
下町で流行っている香辛料の利いた料理のような匂いがするね。
「おう、リュージ帰りか」
「女剣士の護衛たあ、うらやましいな」
「いやあ、あはは」
衛兵のおっちゃんにからかわれて、ちょっと困る。
領館の門を出て、川沿いの街道を馬はたったかと走る。
馬の首にランタンを点けてそれで道を照らしているね。
上を見ると満天の星空で銀河も見えた。
なかなかロマンティックな感じだなあ。
甘やかな時間はあっというまに過ぎて、村の門に着いた。
「明日は朝から来るからさ」
「ああ、ヘレンの事家族にも紹介するからさ」
「お、おう、うん、そうだな」
ちょっと挙動不審になってヘレンは街道を帰って行った。
家は領街にあるのかな。
結構遠いけど、ヘレンだったら大丈夫か。
家に帰ると母ちゃんがまた起きていて出迎えてくれた。
「お帰りリュージ、伯爵家の夜会はどうだった?」
「大成功だったよ、みんな喜んでくれた」
「そうかいそうかい、よかったね」
母ちゃんは俺が帰るまで夜なべしていて寝ないんだよなあ。
目に悪いから先に寝ていて欲しいのだけど、駄目らしい。
こっちの世界に来て初めて母ちゃんというものを持ったが大変な偉いものだと思うな。
服を脱いで全裸になり、雑魚寝ベッドに寝る。
この住環境もなあ、なんとかしたいな。
お金を貯めて、村のそこそこの家に引っ越して、全員個室とまでは言わないけど、もう少し文化的な生活がしたいな。
うん、頑張ろう。
我が家の朝は犬がベッドから抜け出す事から始まる。
ふわああ、朝か。
母ちゃんの朝ご飯を食べていると、ヘレンがやってきた。
「おはようリュージ、来たぞ」
「「「「……」」」」
いきなりのヘレンの訪問に家族全員が沈黙した。
「に、兄ちゃん、誰だ、あの美人は!! すげえおっぱいだぞっ!」
やめろピカリ。
「あー、これはヘレン、俺の護衛というか、そういうもん」
「リュージの護衛です、命を賭しても必ずリュージを守ります」
「は、はあ、あ、朝ご飯食べますか」
「わ、頂きます」
「つまんない物しかないけどな」
「そんな事無いよ、私、こういう素朴な料理も好きだよ」
「……、嫁か! 伯爵家の夜会を成功させたから、美人でおっぱいの嫁を下賜されたのかっ!」
「ちがうぞ、ピカリ」
「う、うん、まだちがうよ……」
「「「「おーー」」」」
ヘレンも赤面しながら誤解されるような事を言わなくて良いから。
この後ピカリの馬鹿のせいで、伯爵家の夜会成功の褒美に剣客の嫁を貰った説が村中に伝播されたので、拳骨をくらわせたが、それはまた別の話だ。
ヘレンの馬の後ろに乗ると、村人の皆さんの視線が痛いな。
特に、クララとミリアさんの目が三角になっている。
いえ、違うのですよ、このボインの剣客は俺の護衛で、嫁とかなんかではございませんのですよ。
……。
ヘレンを嫁に貰っても、良いのか?
すげえ強くて綺麗でボインだが、身分的には平民で俺と釣り合うしな。
……。
ま、まあ、考えるのはやめよう、前世でも、この子俺に気があると思って猛烈アタックを掛けたら、笑われていなされた事ばっかだったしな。
俺がモテるんじゃなくて、みんな俺の料理のファンであるので、あまり良い気になってはいけないのだよ。
うんうん。
そうやってヘレンに馬で送り迎えしてもらって、どんどん領祭が近づいてくる。
メインもサブもキッチンが大車輪で準備をしていく。
「だららららー、ヘレンも働けよー」
「なろー、私は護衛だ、壺を運べば良いのか」
「倉庫に入れてきてくれ」
「リュージ、マヨネーズは今からつくっちゃだめなのか?」
「わりと足が速いからなあ、前日ぐらいにひねらないとだめだろ」
「くそうくそう、リュージの料理はたいそう美味いが保存できねえのがやっかいだ、いつもの領祭なら、一週間前から貯蔵物を作るのによう」
「ああ、だから、料理がしょっぱかったのかあ」
「保存効かせないといけねえからなあ」
なかなか大騒ぎである。
なにしろ三郡六村の領民たちが一度に訪れるお祭りだからな。
ちなみに、飲み食い無料である。
毎年ワインの飲み過ぎで何人か死ぬし、食い過ぎで寝込む奴もでる。
出されるワインは一昨年に作った古いワインなんだな。
この世界は貯蔵が良く無いので、古いワインはお祭りで飲みきってしまおうというシステムだ。
お料理の方はオマケで、酒のつまみの料理と、女子供用のお菓子、なんかを去年までは出していた。
こう聞くとしょぼいお祭りに聞こえるが、実は農村は貧乏だから、甘い物とかは滅多に食えないので、みんな大喜びのお祭りだったりする。
俺も去年は大酒を飲み、菓子を食らい、料理をむさぼり食って、帰りの河原でゲロを吐くという醜態をさらしたものである。
今年はお嬢様の要望で、スダラマッシュ、ケルシャ漬け、そして蒸し豚にマヨネーズで一皿を作って、出す感じだな。
お菓子の方は、マヨネーズで余った白身を使って、ラングドシャとメレンゲ焼きを量産である。
とりあえず、準備の量がとんでもなくて、死にそう。
なのであった。
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