第45話 伯爵家のキッチンにヘルプで入る
二時間ほど時間を浪費したが、われわれは子爵領に帰ることなく、伯爵領へと向かう事になった。
馬車の外に、ヘレンとデューク・ボナンザが居て変な感じだ。
そして、ヘレンにアマンダさんが馬上で絡んでいる。
「私らを下したあの技はなんだ」
「ああ、あれは剣鬼だった私の父ちゃんが編み出した技でなあ、ゲオルグ流の基本技のバグにつけ込んでんのよ、あんたらが弱い訳じゃあねえよ」
「なにいっ、教えろ、その技を」
「リュージを守るご同輩だからな、いいぜえ、後でな」
「絶対だぞ」
お嬢様は馬車の外の会話を聞いてくすりと笑った。
「すっかり仲良くなったわね」
「まあ、二人とも武道の人達ですからね」
「ヘレンは、手練れの剣客ですね、拾いものですな」
「リュージさんのお料理が引き合わせてくれた御縁ですわね」
「私もそう思いますぞ、お嬢様」
家令さんが重々しく言うが、俺の料理をなんだか買いかぶって無いかなあ。
そこまでの物だろうか。
女神さんが何か隠しチートでも入れてくれたのだろうかなあ。
フリッツは縛られて、最後尾の荷馬車に乗せられている。
今日は伯爵領で夜会なので、明日、領館に帰ってから御領主さまの裁定を下してもらう感じだな。
一晩中、狭い荷馬車の中だが、まあ、仕方があるまい。
デューク・ボナンザが逃げないよう、奴を監視してくれるそうだ。
伯爵のお城に着いた。
白亜のお城で、子爵家とは格が違う感じだなあ。
すごいなあ。
この地方の県の支配者さまなのだよな。
お嬢様と家令さんと一緒に馬車を降りると、美丈夫な人が駈け寄って来た。
「ああ、遅くなったから心配してしまったよ、マイハニー」
「申し訳ございません、道中、少々トラブルがありまして」
「なんだって、山賊かね、あの街道には悪漢が住むからね」
「はい、でも、我が騎士団が蹴散らしてしまいましたわ」
「それは良かった、おお、その人が噂の天才料理人のリュージくんかね」
「こここ、こんにちは、リュージですっ」
なんだか、豪華な美男子の人に声を掛けられてテンパってしまったぞ。
どうも、この人が伯爵家の三男、お嬢様の未来の旦那様みたいだ。
「いやあ、君は素晴らしい料理を作るそうだね、今晩は我が派閥の仲間を呼んでの夜会だ、腕をふるってくれたまえよっ」
「は、はい、がんばりますっ」
俺は家令さんに連れられて白雲城のキッチンに行った。
白雲城というのは、この白くて豪華なお城の名前らしい。
凄いぜ伯爵様。
お城のキッチンは清潔で明るかった。
料理人さんたちも凄腕そうだ。
「やあやあ、君が天才料理人のリュージだね、こんにちは、僕はルーベン、料理長をやっているよ」
「ここ、こんにちは、リュージです」
「ルーベンさま、こちらが子爵家からお送りするリュージくん作の料理のレシピです、お納め下さい」
「この三種だね、野菜料理ばかりだね、なんだか凄いソースだとか聞いたけど、あと、スダラの水芋を使うとか」
「はい、水芋はバーモント領以外ではあまり作られておりませんので、二俵ほどお持ちしました、重ねてお受け取りください」
「僕の故郷だと、水芋ができたら農家が破産するから、悪鬼のように嫌われてるんだけどね」
「ほ、保存のためなんですよ、ルーベンさま、普通のスダラ芋は長期保存のため水を含まないよう、原種から品種改良されているみたいです」
「へえ、それはそれは……」
ルーベンさんは少し考え込んだ。
うん、なかなか理知的な人だな。
「スダラ芋で美味しい料理ができると農村が助かるね」
「はい、バーモント領では時ならぬスダラ景気で潤っておりますよ」
蒸し器やメッキされた泡立て器なども、家令さんの命令で下男達が運んできた。
こうやって輿入れ先に新しい料理をプレゼントして、バーモントの家名を上げるわけなのだな。
うん。
とりあえず、スダラ芋と豚肉を蒸し、マヨネーズをひねった。
ケルシャ漬けは漬かった物を瓶に二つ運んできてある。
まずはキッチンスタッフにお料理を食べて貰って感想を聞こう。
たぶん大丈夫だとは思うのだけど、なにしろ伯爵領である、こんなつまらない料理なぞ食い飽きているわっ、とか言われても不思議ではない。
スダラマッシュサラダに、蒸し豚、ケルシャ漬け、そこにマヨネーズをたっぷり掛けて出した。
「わあ、綺麗な彩りのサラダだね、こんなのは見た事が無いよ、宴席が派手になるね」
そう言ってルーベンさんはスダラマッシュを口に運んだ。
目をつぶって、もっしゃもっしゃと咀嚼している。
……。
どうだどうだ?
伯爵家のキッチンスタッフには通じないか?
ルーベンさんがもの凄い笑顔になった。
「うまい! なんだこれなんだこれ、うわあ、凄いよ、野菜なのに野菜なのに」
「え、ええっ、料理長、そんなに?」
「おまえらも食べて見ろ、これは凄いぞ、なんか次元がちがうというか、世界が違うというか、幸せの塊の野菜料理というか、こんなの食べた事……、なんだ、この漬物はっ!! 漬物なのに、漬物なのに、しょっぱく無い、いや、むしろすっぱ甘い、すごい、わ、ソースにもよく合うぞ、わあああっ、凄い凄い、これは凄いなリュージくん!! 君は天才だ!!」
「い、いやあ、あはははは……」
こっちの世界の人の舌は、あれか、超甘いのか?
超大好評な中、俺は白雲城のキッチンスタッフに手取足取り、スダラマッシュ、野菜の飾り切り、マヨネーズ、ケルシャ漬けの作り方を伝授した。
みなさん一流の料理人で、ちょっと教えたら確実にレシピを覚えた。
その覚えたレシピで、スタッフは夜会の為のご馳走を作り、俺も手伝って、配膳メイドが料理のお皿をどんどん宴席に運んだ。
宴会の終わりに、お嬢様の未来の旦那様に大層褒められた。
お嬢様もふんすという感じに得意げである。
うんうん、バーモント子爵家の面目躍如という感じだね。
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