第44話 俺の料理は思っていた以上に凄いらしい
目をつぶって激痛を覚悟していたが、一向に来なかった。
目を開けるとヘレンが剣を止めてプルプル震えていた。
「ボス、切れない」
「そうか、うん、そうか」
「どうせ騎士団を切ったんだ、ここでリュージとお嬢さんを切っても切らなくても関係無くねえ?」
「そんな気がドンドンしてくるな」
「リュージを切るとよう、この後の凄い料理も食えねえんだよ、生きてればさあ、どっか遠くでも流れて来て食えるかもしれねえよ」
「よし、切るのはやめよう」
「という事だ、ごめんなリュージ怖がらせて」
「え、俺とお嬢さんを助けてくれるんですか」
「ああ、なんかもったいねえし」
「頑張って凄い料理を作って流行らせて大陸の反対側にも伝えてくれ、そこで俺らは美味い美味いって喰うよ」
な、なんだか助かったようだ。
二人が俺の料理のファンで助かったな。
「ふざけんなっ!! みんなリュージリュージってよおっ!!」
フリッツが長剣を抜いた。
振りかざして、やつは、お嬢様に斬り掛かった。
俺は前の方だけを警戒して気が付くのが遅れた。
剣はまっすぐお嬢様の頭に向けて振り下ろされ……。
「ニョーン」
白い猫が現れて、爪で長剣を跳ね返した。
「ネコチャンさん!!」
「ニョーン」
いよう、兄弟久しぶりだなあ、と言っているように聞こえた。
そのまま、ネコチャンさんはフリッツにドカンと体当たりをして壁まで吹き飛ばした。
「来てくれたんですか、ネコチャンさん」
「ニョーンニョーン」
まあ、お前にはチートをやって無いからアフターサービスみてえなもんだ、と言っている気がする。
「神獣……」
「やっぱり神獣憑きだったのか」
「リュージさん、凄いです」
「え、あ、いやあ、はははは」
扉がドンと開いて、アマンダさんと家令さん、そして護衛の騎士団の人が現れた。
「観念しろ、ボナンザ一家、フリッツ、貴様らの悪行もここまでだ」
「え、私、あんたらに致命傷を与えたんだけど……」
「そこの不思議な猫が治してくれたんだっ」
はあ、良かったあ。
みんなの顔をみて、安堵感が体中に広がった。
アマンダさん、家令さん、ご無事で何よりです。
「くそう、ヘレン、逃げるぞ」
「そ、そうだな、ボス」
二人が窓から逃げようとした。
俺は、この二人が逃げるなら放っておいても良いかと思っていた。
だが、お嬢様は違うようだ。
彼女は二人の前に立ち塞がった。
「ど、どけよ、殺すぞ」
「せ、せっかく生き残ったんだ、リュージが悲しむぞ」
「あなた方はリュージさんのお料理のファンなのよね」
「お、おう」
「あいつの料理は何だか、こう、すげえんだ」
「私もそう思います。ですので、降伏なさい」
「降伏してどうすんだ、俺らは縛り首だぞ」
「そうだそうだ」
「なんだか知りませんが、子爵騎士団に被害は出ていないようです」
「「あっ」」
アマンダさんがお嬢様の方を向いた。
「騎士としてヘレンに負けて、いたくプライドが傷つきました」
「それは……、我慢なさい」
「くそう……」
お嬢様は凜とした態度でデューク・ボナンザとヘレンに向き合った。
「降伏して、リュージさんの護衛になりなさい。デュークも、ヘレンも」
「「ええっ!!」」
「これからリュージさんの料理は王都どころか、王国、いえ、大陸全体にも伝播し、褒め讃えられるでしょう。ですが、そんな凄い料理に悪漢が目を付けない訳がありません。暗黒街のボス、悪漢貴族、悪辣王族、覇権国家、みな、リュージさんのレシピをねらいますでしょう。天上のレシピを思いつく頭脳を狙う事でしょう。私は子爵家の名代として、これから入籍する旦那様と共に、リュージさんを貴族としてバックアップいたします。ですので、あなた方はアウトロー方面、暗黒街方面からの防御をお願いしたいのです」
「ええええええ」
デューク・ボナンザとヘレンは鳩が豆鉄砲くらったような顔をした。
俺も宇宙猫のような顔になった。
そんな、俺の料理を買いかぶりすぎだよ、お嬢様。
「賃金は子爵家が出します、あなた方はリュージさんの騎士として、彼を護衛なさい、いいですわね」
「え、いやあ、えー、良いのかあ、お嬢さん、私らゴロツキだぞ」
「いや、まあ、暗黒街方面の手は詳しいけどよ、そんな、騎士とかなあ、ヘレン」
「ああ、その、リュージのまわりに私らがいるとよう」
「何言ってるの、騎士団を斬り殺して、リュージさんをビジネスで取り込もうとしたじゃありませんか」
「そりゃまあ、そうだが」
「そうだが」
なんか、うん、なんか。
お嬢さんの心遣いが嬉しいな。
「リュージは良いのか?」
「ああ、あんたらと一緒なら心強い、俺はあまり強く無いし、悪い事もあまりしらない農民だからさ」
デューク・ボナンザとヘレンの表情がぱあっと明るくなった。
「そんな事言うなよ、リュージは凄い奴なんだからさあ」
「そうだそうだ、なんだか方向が違うけどよ、リュージとビジネスが出来るのは、良いな、うん。デカイ事をみんなでやろうじゃ無いか」
お嬢様のカリスマでなんだか異様に丸く収まったな。
最初に会った頃の豆大福令嬢のおどおどした姿はそこになく、痩せて綺麗になって、堂々とした態度の子爵令嬢がそこにいた。
ネコチャンさんが、リュージ良かったなあと言う感じに「ニョーン」と鳴いた。
そして抱き上げろと言うので抱き上げると、ヘレンの方に持ってけと鳴かれた。
「な、なんだよ、ネコチャンサン。可愛いな、あんた」
「ニョーン」
ネコチャンさんがヘレンの頬の刀傷をペロリと舐めると、一瞬で傷痕が消えた。
「「「へ?」」」
「ニョーン」
リュージの護衛の前金だ、と鳴いて、ネコチャンさんは俺の手から跳び降り、窓に乗った。
「ニョーンニョーン」
領祭の最後にあいつが来るから、俺の奴と二食、取り置いてくれよ。
と鳴いているような気がした。
「来てくれるの? わあっ!! ありがとうネコチャンさん、助かったよ」
「ニョーン」
気にするな相棒、と鳴いて、ネコチャンさんは窓から外に出て行った。
「……あの神獣はなんですの、リュージさん」
「古いなじみの……、友達ですよ」
「そう……」
お嬢様は納得したという感じにやわらかく微笑んだ。
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