第43話 デューク・ボナンザ現る
暗い舘に足を踏み入れた。
暗くてほこり臭い。
何とかしてお嬢様だけでも逃がさないと。
ヘレンという謎の女が先導していく。
彼女は俺達を舘の奥にいざなった。
舘の奥は厨房になっていて、筋肉ムキムキのハゲマッチョがいて、ボールを泡立て器でかき回していた。
「おお、君がリュージか、教えてくれ、マヨネーズが上手くまとまらないんだよ」
そう言ってハゲマッチョはニッカリ笑った。
「……、あー、その、オリーブオイルを入れすぎです、ちょっとずつ入れてかき回してください」
「ああ、そうか、フリッツの奴はちゃんと教えてくれなくてな、新しく調合した方がいいか」
「そうですね、もったい無いですが捨ててください」
「そうかそうか、ええと、分量は」
新しいボールにハゲマッチョは、卵黄、お酢、お塩を入れ、オリーブオイルを少し入れてかき回し始めた。
「お、お、こうかこうか、わはは」
なんだか凄く嬉しそうだ。
「この人が?」
「ああ、デューク・ボナンザ、領街のボスだ」
「おう、挨拶が遅れたな、デューク・ボナンザだ、よろしくな。お、お、良いんじゃね、良いんじゃね?」
マヨネーズがまとまり始めたようだ。
なんだか、思っていた暗黒街のボスと違う。
わりと話が通じそうだな。
お嬢様も意外だったのか、目を丸くしてデューク・ボナンザを見ている。
デューク・ボナンザは鼻歌交じりにマヨネーズをシャカシャカ混ぜていた。
「リュージよう、俺はさあ、天才が好きなんだよな。お前の料理は天才の作品だ、フリッツに横流ししてもらって食べて心が震えたんだよなあ」
「は、はあ」
「フリッツを使って子爵家を乗っ取ろうと思ってたんだけどよう、なあ、つまんなくなってさあ。そうだろ、博打で借金漬けになった馬鹿を操ってさ、子爵家を乗っ取って貴族の地位でブイブイ言わせる、そんなのはなあ、そんなのは凡百の悪党のやる事でよう、悪の天才の俺様デューク・ボナンザのやるこっちゃ無いんじゃないかってえ、リュージの料理を食って思ったんだよ」
「そ、それはありがとうございます」
マヨネーズがひねり終わったのか、クリーム状になったそれをデューク・ボナンザは俺に見せてきた。
「どうだい?」
「よく攪拌できてますね。合格点です」
「ありがとうよお」
デューク・ボナンザは惚れ惚れする笑顔でニッカリと笑った。
ヘレンも微笑んだ。
フリッツは憮然として無表情だ。
お嬢様も無表情だね。
「俺はリュージと組んででっかい事をしてえ、王都どころか、大陸全体を震撼させるような、料理の革命をよ、俺とリュージで打ち立てるんだ! どうだいっ、一緒にビジネスをやってくれないかい!」
そう言ってデューク・ボナンザはとても良い笑顔を見せた。
釣られて、「はいっ」と返事をしてしまいそうになった。
だが。
だが、こいつらは……。
アマンダさんを殺し、家令さんを殺している。
俺は親しい人を殺した奴と手と手を取ってビジネスをする事なんかできない。
俺は……。
「断ります」
「「へっ!」」
デューク・ボナンザとヘレンが同時に声を出した。
「ど、どうしてだ? そ、そんな……」
「貴方たちは俺の友達を殺した」
「「ああっ!!!!」」
意外な答えだったのか、激しいショックを受けた表情で二人は床に膝を着いた。
「あ~~~~!! あ~~~~~!! リュージはまともな奴だったああ、ゴロツキと同じやり方じゃ駄目だったんだあああ!!」
「なんて事、なんて事かよ、ボス!!」
デューク・ボナンザは顔をゆがめて泣いていた。
ヘレンもフードで顔が見えないが悲しそうだった。
意外だった。
悪党というのはこういう時には冷静に恫喝してくるものだと思っていた。
違っていた、感情的になり、泣き出した。
「あ~~~!! あ~~~!! もう駄目だ、リュージを殺さないと駄目だあ、なんて事だあ」
「え、殺されますか?」
「そうだ、子爵の騎士団に思い切り喧嘩を売ったからなあ、リュージとお嬢さんをバラして逃げねえといけねえ」
「ああ、こんな才能を殺さないとならないなんて」
悲しそうな声と表情だが、言ってる事がとてつもなく物騒だった。
やっぱり悪漢は一般の人間と考え方が違うんだなあ。
「ぎゃーはっはっは、じゃあ、俺様の一人勝ちだな!! シャーロットもリュージも殺して良いんだなあっ!!」
「「……」」
デューク・ボナンザとヘレンは黙った。
「何言ってんだ、お前、こんだけの事になったらお前が子爵家を継ぐなんて来る訳ねえだろ」
「死ねよお前、私が殺すか?」
「な、なんだよ、なんだよ、約束が違うぞっ、なんだよっ!!」
「お前は本当に想像力がねえよなあ」
「もう、リュージとお嬢さんを始末したら、次はお前だな」
「な、なんだよ、ヘレン、やめろよっ!」
ヘレンはふらりと立って俺の近くに来た。
俺はお嬢さんを庇ってヘレンの前に立った。
「持って行き方を間違った、ごめんよリュージ」
「ああ、いや、その、穏便に声を掛けてくれたらさ、なあ、あんた達はそんなに悪くなさそうだしさ、なあ」
「ああ、悲しいよ」
フードから見えたヘレンのあごに涙が伝った。
デューク・ボナンザは顔を覆って泣いている。
「痛く無いようにすっからさ……」
「最後にさ、顔見たいよ、ヘレン」
「え、あたいの? な、なんでだよ」
「どんな人に殺されるのか見たいよ」
「お、おう」
ヘレンはフードを下ろした。
頬に大きな刀傷があるが、綺麗な娘さんだった。
「綺麗じゃんよ」
「ばっ、やめろよっ、お前意外にちゃらいなっ」
「ありがとう、ヘレン」
ヘレンが長剣を構えた。
ああ、転生してきて記憶が戻ってそんなに時間が立って無いけど、まあ、ほどほどに良かったな。
美味しい物を色々作って、みんなが喜んでくれたしな。
ヘレンは悲しそうな顔をしていた。
涙が目からあふれ出ていた。
「ごめんな……」
長剣が振り下ろされた。
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