第41話 お嬢様の縁談に付き合う
フリッツさまとボナンザ一家は元々この世に存在していないかの如く姿を消した。
どこかに潜伏しているのだろうけど、騎士団の必死の捜索でも影も形も見えなかった。
なんとも不穏な状況だが、料理人たる俺には何も出来ることが無いなあ。
日々、真面目に来たるべき領祭に向けて準備をするだけだね。
倉庫で眠っている大量の木の皿とカップを出して磨く所から始める。
一年に一度しか使わないけれど、無いと料理を振る舞えないからね。
領祭には三郷六村から沢山の領民が来て、お料理を食べ、音楽にのって踊るという楽しい一日を過ごすのだ。
俺も去年はもてなされる方で、家族と一緒に来て、ただ飯を食べて、下手な踊りを踊ったものだった。
今年は俺がもてなす立場だ、と思いながら、乾いた布で木の食器を磨いていく。
数が多いから大変だが、これくらい無いと料理の回転が悪くて、なかなか領民の口に入らないとの事だ。
不良キッチンメイドの二人と並んで、キュッキュと磨いていく。
「なんかさあ、お嬢様が舞踏会に出たら、伯爵の三男坊に一目ぼれされたって事だぞ、リュージ」
「それはそれは」
おめでたい事ですな。
最近のお嬢様はどんどん痩せて、肌はつるつるになって綺麗になったから、それは一目ぼれする殿方も出るという物だろう。
「それで良いのか、リュージ、お嬢さんは俺の物だとボンボンに宣言してこいよ」
「そうだそうだ」
「いやいや、そんな、身分違いですから」
「かー、この朴念仁めっ」
「お嬢様の隠された気持ちなんか一つも解ってねえっ」
無いだろう、そんな気持ちは。
木の食器磨きは結構進んだが、一日で終わる量ではないので、続きはまた明日にして、俺はメインキッチンに戻る。
メインキッチンでもお嬢様の縁談の噂は流れていて、みんな嬉しそうだな。
伯爵家の三男坊だと、子爵家に婿入りしてきても良いし、バーモント家の家格も上がってとても良い話だな。
まあ、正直言うと寂しいけれども、不良メイドさんたちの言うような事は出来ないなあ。
そんな日々をすごしていたら、家令さんに呼ばれた。
「カレント伯爵家でパーティがあります。まあ、シャーロットお嬢様と伯爵家の三男坊さまのお見合いですね。つきましては、お嬢様のたってのお願いで、リュージさんも伯爵家のキッチンに入って欲しいそうです」
「俺がですか? 良いんですか?」
「はい、お嬢様が未来の旦那様に、バーモント子爵家の自慢のコックを紹介したいとの事です」
「あ、ありがとうございます、嬉しいです」
わあ、俺は、お嬢様にそんなに見込まれていたのか。
よそのキッチンで、スダラマッシュとマヨネーズを作るんだな。
ケルシャ漬けは持って行こう。
「明日、馬車で伯爵領の領城へ行きますから準備しておいてくださいね」
「はいっ!!」
浮かれて俺は控え室に戻り、服を着替えた。
「伯爵家のキッチンで名を上げたら、リュージも一人前だね」
「ありがとうございます、ボフダナさん」
「明日は朝から馬車で動くから、しっかり寝ておきなさいよ」
「はいっ!」
寝不足で馬車は酔ってしまいそうだしね。
というか、今世で馬車とか乗るのは初めてだよ。
伯爵領は遠いのかな。
ああ、わくわくするなあ。
領館の蒸し風呂に入って、体を綺麗にした。
さっぱりするね。
こっちの世界では、それほど頻繁に入浴する習慣はないんだけど、週に二回ぐらいは入浴する。
蒸し風呂なんだけどね。
結構さっぱりするよ。
寮のベッドに潜り込んで寝る。
領祭まで三日、もう三日も家に帰ってない。
ピカリや母ちゃんに会いたいが、我慢だな。
領祭が終われば帰れるだろう。
目を覚ました。
不良メイドさんの作る朝食を食べて戦闘準備完了だ。
「けけけ、リュージ、伯爵家にもらわれて行くんじゃねーぞ」
「お前は領館に必要な料理人だからな、あと領祭にも」
「ありがとうございます、帰ってくるよ」
「領祭で作る料理の量が半端無いからなあ」
「マヨネーズをどんだけひねらなきゃならねえのか」
「早く帰って来い、今日からケルシャ漬けを量産すっからよ」
「はい、行ってきます」
俺は正門に回って、豪華な子爵家の馬車に乗り込んだ。
お嬢様と家令さんが一緒である。
「あ、お嬢様、おはようございます」
「リュージさん、急にごめんなさいね、どうしても未来の旦那様に、私の自慢の料理人を見せびらかしたくて、無理を言って来て貰いました」
「いえ、晴れがましいお仕事をありがとうございます、バーモント子爵家の名を汚さないように頑張りますっ」
お嬢様と家令さんはにっこりと笑った。
「それでは出発しましょう」
家令さんが言うと、馬車はゆっくりと動きだした。
お、おおっ。
け、結構揺れるね。
「気分が悪くなったら言いなさい、馬車を止めて休憩しますよ」
「は、はい、大丈夫ですっ」
お嬢様と家令さんにみっともない所を見せる訳にはいかないからな。
しかし、今世では初めての乗り物なので、わくわくするな。
揺れるけど。
馬車の前後には護衛の騎士さんが走っているね。
一番近くの騎士は、女騎士のアマンダさんだった。
目が合うとにっこり笑ってくれた。
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