第35話 謎の粉の入った小袋
サブキッチンでお茶を貰ってから、メインキッチンに戻ってきた。
「おう、リュージ、戻ったか」
「はい、ロッカさん」
「サブキッチンの二人に気に入られているみたいだな」
「ええ、良くして貰っていますよ」
「良い事だ、色々教えて貰え」
「はいっ」
煮方のヨハンさんが小袋を持って首をひねっていた。
「ロッカさん、ちょっと」
「ん、なんだい」
「フリッツさまがさあ、お嬢様の料理にこれを振りかけろっていわれたんだが……」
「え、なんだ、香辛料か?」
「なんだろうなあ、良くこれをお嬢様の皿に掛けてたけどさあ」
「……」
なんか小袋入りの謎の粉だな。
怪しいぞ。
粉の成分の鑑定とかはどこかで出来ないのか?
「それ、騎士の人に相談した方が良くないですか?」
「いや、しかし、フリッツさまは料理長だから……」
「怪しい物だと何かあったときにヨハンさんの責任になりませんか?」
「……、そ、そうなる?」
「なるだろうなあ、分量とか間違えたら……、毒の一種だったら……、急死とか……」
「げえっ、マジか、そこまではしないだろう、妹に……」
「家令さんに話を上げよう、調査は後だ」
「そ、そうだな」
この時代だと科学調査と言っても難しいからなあ。
でもヤバイ薬だったらフリッツさまは一巻の終わりだ。
たぶん、何らかの香辛料じゃないかとは思うんだけどな。
家令さんが呼ばれ、謎の小袋の中身を確かめた。
どうも見当も付かないらしい。
「これが無いと料理はできないか?」
「そんな事は無いですよ、もともと計算に無い粉ですから」
「では、これは私が預かっておく、街の物知りに調べて貰いましょう」
「よろしくお願いします」
とりあえず、謎の粉は使わない方向で晩餐は進んだ。
ロッカさんが監督になってもお肉偏重は変わらないが、スダラサラダを多めに出すように言われた。
「お嬢様の大好物だからな。肉を少々残しても良いと、俺は思っているぞ」
「ええ、そうですね、ありがとうございます」
では今日も野菜を飾り切りしてスダラマッシュに合わせ、マヨネーズをたらりと掛けて一皿にした。
「もー、相変わらず綺麗な一皿ねえ、リュージさんすごいわね」
「いえいえ、よろしくお願いします」
「はい、お嬢様喜ぶわ」
配膳メイドさんがサラダを二皿運んで行った。
サラダはコースの中盤、口をさっぱりさせる目的で挟む一皿なんだよね。
御領主さまも、お嬢様も、サラダを完食してくれて嬉しいな。
「今日もお二人ともスダラサラダを完食、美味しかったって、また人参の甘いやつ欲しいってお嬢様が言ってたわよ」
「ああ、じゃあ、明日出しましょう」
「お願いねリュージくん」
美味しいと言ってくれて、リクエストされるのは嬉しいね。
「人参なんてお嬢様食べなかったのになあ」
「リュージくんの物は違うからねえ」
「ありがとうございます」
俺は配膳メイドさんに頭を下げた。
「おう、リュージ、領街で飲み会するんだけど、お前も来ないか、歓迎会とかやって無いしよ」
「ありがとうございます、でも、夜は早く帰らないと村まで遠いので」
「あはは、寮に空き部屋あるからよ、遅くなったら泊まれば良いんだぜ」
おお、そんな手があるのか。
「まあ、サブキッチンのメイド二人も混ぜて、今度飲もうぜ」
「ああ、良いなあ、あとハウスメイドで誰か来ないか?」
「ありがとうございます、その時には必ず」
「おう、お疲れ様」
俺は控え室でコック着を脱いで私服に着替えた。
コック着はボフダナさんに渡した。
「これ、ゴメスさんが直してくれたよ」
「おお、これは」
なんだか、前よりもきっちり丁寧に作られていて、メッキも着け直したっぽいね。
すごく良い出来になった。
ああ、嬉しいなあ。
「よかったね、リュージ」
「はいっ」
さて、帰ろうと廊下を歩いていると、キッチンメイドの二人に行き会った。
「泡立て器直ったか~?」
「直してもらいましたよ、ほら」
「おお、すげえ、ピカピカで豪勢だな」
「メッキ良いなあ、鉄だと、半日で錆がでるからなあ」
「研ぐ手間がめんどくせえ、でも、ほっとくとマヨネーズに嫌な味が付くしさ」
「二本、いや小娘たちの分もあるから四本、メッキの泡立て器を注文しといてくれよ」
「ええ、良いですよ」
「なんか、リュージの歓迎飲み会の計画が進んでいるらしいな」
「街で飲もうぜ、なあ」
「は、はい、その時は飲みましょう」
「「やった~~」」
この陽気な不良のキッチンメイドさんたちは好きだな。
子供下働きメイドにも優しいしね。
領館を出るときに、ダーナムさんとアマンダさんに呼び止められた。
「今日は大丈夫だろうが、怪しい奴がいたら走って逃げろよ」
「はい、ありがとうございます」
「何か武器持って無いのか、ナイフとか」
「泡立て器だけですね」
麺棒とかもってた方が良いかな。
「泡立て器じゃあなあ。見習用の短剣を貸し出しておくよ」
「え、良いんですか」
「とりあえず貸すが、戦うな、逃げろな」
「あ、はい」
ダーナムさんに渡された短剣はずっしりと重くて腰に存在感が伝わるな。
というか、前世から武道なんかやった事無いから振り方も解らないよ。
一応念の為だな。
「あと、あの粉な、やばそうだ」
「そうなんですか」
「まだ確証は出て無いけど、最近お嬢様の体調が悪いのはアレのせいじゃないかって、医者が言ってた」
「やばいですね」
「追い詰められた奴は何をするか解らないからリュージも気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます」
フリッツさま、何してたんだろうなあ。
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