第34話 料理人たちが手の平返し
フリッツさまが去って、ロッカさんが調理監督を引き継いだ。
メインキッチンの料理人達が俺の前に来て頭を下げた。
「わるい、ずっとリュージはすぐ居なくなるから、ほっといて良いと思ってた」
「すまなかった、フリッツさまが怖かったんだ」
「俺もごめんな」
「あ、いえいえ、しょうが無い事なので気にしてませんよ」
「リュージ、お前は調理の腕はまだまだだけど、発想力がすげえ料理人だ、お前みたいな才能の奴と働けて嬉しいよ」
「いや、照れてしまいますよ」
スダラマッシュもマヨネーズも前世の記憶産で、俺が偉い訳じゃないしね。
ずっとフリッツさまのキッチンで働いていた先輩方の方が凄いと思うんだよ。
騒ぎで止まっていた調理が動きだし、三十分ほど遅れて昼食が運ばれて行った。
ふう、一息だな。
「おう、フリッツさまが居ないから控え室で休もうぜ」
「話を聞かせてくれよ、どこからマヨネーズとか思いついたんだ」
「あはは、まあ、サブキッチンの手伝いもありますから、今日はやめておきますよ」
「よく働くよなあ」
「まかないを喰っていかないか、リュージ」
「サブキッチンでスタッフ用昼食が出ますから」
「ああ、あっちでまかないを食べてたのか、それはそうだよな」
「よかった喰ってたか、心配してたよ」
なんだか、メインキッチンの料理人さんたちの態度が180度変わったな。
フリッツさまの弾圧が怖くて新入りの肩が持てなかったんだろうなあ。
だけど、女騎士のアマンダさんが警備に来て、御領主さまも俺の味方をしているのを見てフリッツさまを見限った感じかな。
汚いって考える人もいるかもしれないけど、やっぱりさあ、平民が貴族さまの庶子の人に威張られたらしょうが無いってなるよね。
前世の日本はあまり身分制が無かったんだけど、この世界はきっちり身分が決まっていて、なかなか変更とかできないからね。
農民はだいたいずっと農民で、才覚があれば、役人とか料理人にもなれるけど、それでも平民で貴族じゃないのよね。
貴族の立場は強いので、本来俺なんかはフリッツさまに殴り殺されて文句が言えないぐらいなんだよ。
でも調理の腕で、御領主さまとお嬢様がファンになってくれたので、優遇してくれている感じだな。
そう考えると、俺は危なかったな。
危機一髪である。
サブキッチンに行くと、ファビアさんとミレーネさんがデデデと走り寄ってきて両側から抱きすくめられた。
「うわ、なんですかっ」
「リュージ大変だったなあ」
「リュージには姉ちゃんたちが着いてるからなあ、安心しろ-」
メインキッチンのトラブルを聞きつけて慰めにハグしてくれたらしい。
というか、柔らかいし良い匂いなのでやめて頂きたい。
「しかしフリッツ様はどうかしてやがるなあ」
「この前、あたいに色目使ってきて、抱かしてくれたら幾らだとか言ってた」
「あたいらは商売女じゃあねえぞっ」
「そうだそうだっ」
そりゃあ、失敬だな、フリッツさま。
「兄ちゃんが作った宝物みたいなすげえ泡立て器を嫉妬して踏み潰したんだって?」
「いや、ただのメッキですよ、どこからの情報ですか、宝物って」
まあ兄ちゃんが作ってくれたから宝物ではあるんだけどさ。
「夕方、ゴメスのとっちゃんから修理上がって来たら見せろ」
「というか、私たちの分、リュージの兄ちゃんに発注しといてくれ」
「わかりましたよ、でも領館の奴もおいおいメッキしていくそうですよ」
「泡立て器は自分のが欲しい」
「やっぱ時代は泡立て器よ」
なんだか、この二人もマヨネーズにはまったなあ。
領館スタッフのお昼の支度を手伝った。
メインキッチンではスダラマッシュと野菜とマヨネーズしかやらせてもらえないが、サブキッチンは人手が足りないので色々な事をやらせて貰える。
わからない所はミレーネさんが丁寧に教えてくれるから良いね。
子供メイドさんたちが、各方面に昼食を持って行ってサブキッチンは一息付く。
まかないを出して貰ってキッチンで三人で食べる。
「やっぱ、肉多いよなあ」
「まあ、美味しいけど、あとスダラマッシュサラダが付くから大分ましになったよ、一時期は凄かったからね、肉肉肉で」
全体的に中世のご馳走だとお肉なんだけど、度が過ぎてる感じはするね。
この世界は、天国に近い動物ほど偉いという事で、実は鳥料理が高級品なのだ、その次が地を這う生き物、豚牛、そして地を這う鶏がその後に続く。
植物は木になる果物が上位、地面に生える野菜、穀物は下位、地面の下のスダラ芋なんかは食材としては下の下なんだよな。
だから、フリッツさまの献立は中世としては不思議では無い、が、あんまり体には良く無さそうだよね。
早く、ザワークラウトができあがると良いのだけれど。
あれも塩を調整してあるから、味わいとしては不思議な感じになるだろう。
こっちの世界の漬物は塩が強いからね。
お嬢様の口にあうと良いんだがなあ。
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