第21話 帰り道に暴漢が居る
晩餐のスダラマッシュも作り、洗い物をして、本日の業務終了である。
今日一日着たコック服をボフダナさんに渡して着替えて領館を後にする。
「んじゃ、また明日なリュージ」
「じゃあなじゃあな」
「また明日」
廊下でキッチンメイドの二人組とすれ違い、挨拶をして別れる。
マヨネーズの事を喋りそうになったが、我慢我慢。
家族が腹痛で寝込んでる可能性もあるからな。
ランタンを掲げて川沿いをぶらぶらと歩く。
夜道は独特の匂いがあって良いね。
後ろからなんだかドカドカと音を立てて何かがせまってきた。
ま、魔豚か、魔豚に夜に会ったりすると、普通に死ぬぞ、マジか、よせよ!!
と思ったら馬に乗った騎士のダーナムさんであった。
「おう、間に合った、乗ってけリュージ」
「な、なんなんですか」
「まあ、良いから良いから」
俺はダーナムさんに馬上に引っ張り上げられた。
馬の上は初めてだが、ずいぶんと高い位置になるのだなあ。
夜の騎行は大丈夫かと思ったんだが、馬の胸の所にランタンが点いていて前が見えるようになっていた。
そのまま、パッカパッカとダーナムさんは進む。
前方に男が五人しゃがんで居るのが見えた。
え、マジ、待ち伏せか?
男たちは馬上の俺とダーナムさんを見ると舌打ちをした。
「小遣い稼ぎもいいが、領館の従業員が怪我したり死んだりしたら、騎士団がお前たちを追い込むぞ」
ぞっとした、フリッツさまが金を撒いて、俺を襲わせようとしたのか。
どこからか計画が漏れて、ボフダナさんか家令さんが騎士さんを動かしてくれたのか。
あぶねえあぶねえ。
男たちはブツブツ言いながら立ち去っていった。
斧とか棍棒とかで武装していたな。
ひゃあ、襲われたら一発であったよ。
「あ、ありがとうございます、ダーナムさん」
「領館の寮に住んだ方が守りやすいんだが、まあ、仕方が無かろう。フリッツさまが動く時は従業員の目が光ってるから大体は解る」
「助かりましたよ」
「気にするな、スダラマッシュは美味いからな」
そう言ってダーナムさんは男っぽく笑った。
がっちりした体躯に萌えてしまいそうである。
ダーナムさんは村の門まで送ってくれた。
「じゃあ、また明日な、リュージ」
「はい、ありがとうございました」
フリッツさまは俺が気に入らなくて無茶をする感じだが、家令さんとかボフダナさんなんかは味方をしてくれる感じだな。
うーん、マヨネーズでも揉めそうだなあ。
どうしたもんかなあ。
家に帰ると母ちゃんが待っていてくれた。
灯りも高いのに悪いなあ。
「お帰りリュージ」
「ただいま、みんなお腹は大丈夫だった?」
「ああ、マヨネーズかい、みんな問題ないさね」
「そうか、じゃあ、領館で作るかな」
「そうしな、みんな喜ぶよ」
喜ぶには喜ばれるだろうなあ。
だけど、あまり目立つとフリッツさまがなあ。
とりあえず御領主様の庶子みたいな面倒な人は、触らないのが一番なんだよな。
なんとなく雰囲気で、デルモント子爵領をフリッツさまが継ぐ事は無さそうなんだよな。
シャーロットさんに婿さんをめあわせるのが本命かな。
もしくは分家から強そうな男子を呼んでくるか。
で、子爵家を継げない事でフリッツさまはイライラして、下々に当たっている所があるらしい。
いろいろとフリッツさまは難しいね。
まあ、一介の料理人には関係の無いことですよ。
全裸になって寝てしまおう。
すやあ。
朝ご飯のシチューに、卵の白身が入っていた。
そうやって使ったのか。
「おお、今日はすげえ、白身が入ってるぞ兄ちゃん」
「そうだな、美味いな」
卵みたいな滋養のある物はこの家ではめったに出ないからな。
白身だけでも結構なご馳走なのだよな。
本来なら白身を泡立てて、甘味を付けて焼けば、ちょっとしたクッキーになるのだが、その甘味が無いからな。
麦芽糖の水飴ぐらいは常備しておきたい所だよなあ。
朝ご飯を食べて服を着て領館へ出勤である。
家族のお腹は大丈夫そうであるから、マヨネーズの安全性は、まあ大丈夫だと思うね。
領館でマヨネーズを作りたいのだが、どうした物かなあ。
筋から言うとフリッツさまに許可を貰い、スダラ芋に添えるのが良いんだが……。
下手をするとマヨネーズの発明者は俺だと乗っ取ってくるかもしれないなあ。
まあ、俺も前世のマヨネーズがあるから発明した訳じゃないんだけどさ。
家令さんに話を通しておくべきかな。
そうすれば悪いようにはしてくれないだろう。
うん、多分ね。
フリッツさまを飛び越して許可を貰うのはあまり良くなさそうなんだけど、家令さんが難色を示したら次回からはフリッツさまを通すか。
などと考えながら川沿いの道を歩く。
そういや、昨日、五人が待ち伏せしていたのはここだったな。
あの五人はどこの村の奴らだろうか。
我が村の人間では無いよなあ。
いろいろと前途多難だよな。
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