第19話 材料が揃ったのでいざ実験
領館でのキッチン仕事は週に六日、で一日、水の日だけお休みが貰える。
住み込みの職人だと領街に出て遊ぶ所だが、俺は通いなので家でのんびりである。
「兄ちゃんさぼんなあ」
「今日は正式に兄ちゃんがさぼっていい日なのだ」
「くっそー、料理人良いなあ!!」
「いいだろう、うへへへ」
ちなみに農民に休日とかは無い。
夏祭りと新年ぐらいかな。
まあ冬の間はあまりすることも無く、一家中で家でゴロゴロしてる事が多いのだが。
雪も結構降るしね。
ちなみにキッチンメイドさんたちから貰ったクッキー五枚だが、母ちゃんとピカリにやろうとしたところ、村長の娘のクララに服のお礼として持ってけと言われ、俺も、ああそうだなと思ってクララに渡した。
大層喜んでくれたな。
それはともあれ、マヨネーズを作る材料が揃ったのである。
塩、林檎酢、オリーブオイル、卵、であるな。
生ものだから持って二日ぐらいか、領館の氷室に入れればもう少し持つだろうけど、卵を使っているのでわりと怖い。
作ったらぱあっと使っちゃうのが良いだろう。
マヨネーズの自作をしたことは無い、無いんだが、ファミレス時代の料理の師匠の斉藤さんが自作で作っているのを見たので、作りかたは知っている。
が、死ぬほど攪拌しないと乳化しないのである。
大変である。
フレンチドレッシングで良いんじゃねえか、とか思うのだが、まあ、とりあえず異世界グルメといえばマヨネーズは定番だから作ろう。
「兄ちゃん!! なんか作るのか作るのか!!」
「おう、野菜のソースを作るぞ」
「……」
目に見えてピカリががっかりした顔でテンションが下がった。
バーロー、野菜は大事なんだぞ。
「勝手に作れ、食べてやらんでもない」
「そういう生意気な奴にはやらん」
「うう、嘘嘘、兄ちゃん愛してるから」
兄ちゃんの料理を愛してる、だろうけど、突っ込むのはやめておいた。
ボールに、塩、酢、卵黄を入れてざっくりと混ぜた。
……。
白身残るな。
どうしたらいいだろう、メレンゲにして水飴足してピカリに喰わせるか……。
めめめ、面倒だ。
後で考えよう。
攪拌用の道具は無いので、木の棒をより合わせて適当に作った。
割り箸十本な感じであるな。
領館のキッチンでも泡立て器は見た事が無いので、まだ発明されていない物のようだ。
オリーブオイルを少量入れて、シャカシャカ混ぜ合わせる。混ぜ合わせる。さらに混ぜ合わせる。
ぜいはあ。
ちょっとをクリーミーにするだけで偉い手間が掛かるな。
それでもなんだか、前世でのマヨネーズっぽい匂いがしてきて嬉しい。
混ぜる混ぜる混ぜる。
というか、この世界、冷蔵の魔導具があるんだから、魔導ミキサーがあっても良さそうなんだけどなあ。
え、そういう物は需要がないと馬鹿高いって? たしかにそうなのだ。
村から呼んで来たキッチンメイドに日がな一日中カシャカシャ混ぜさせておけば良かろうなのだ。
それが中世の人力無双の精神なのだ。
ちなみに、ファビアさんも、ミレーナさんも騎士のお嬢さんである。
下級底辺貴族じゃ、とか言って笑ってたけどね。
下級貴族の子息はどんな人生を送るかというと、農民と一緒で頭が良いか悪いかでふるいに掛けられる。
お利口様は学費を出してもらって王都の学校に学び、いろいろと出世するぞ。
喧嘩が強かったりガタイが良かったりすると、騎士になってぶいぶいいわせるな。
剣の腕だけで食って行く遍歴の騎士とか居るのである。
あんま出来ない貴族の子息は、まあ、執事とかメイドだね。
ファビアさんも、ミレーナさんもこのコースだ。
初級舎で読み書き計算を覚えて、貴族の召使いをするわけよ。
このコースも頭が良い、悪い、空気読める、読めないで、いろいろと待遇が違うね。
子爵家の家令さんまで行けば、結構な上流階級であるよ。
これらが出来ないデキンボ貴族の子息は、まあ、部屋飼いと言ってニートの飼い殺しだね。
悪さしないように、家に閉じ込めて置く事も多いし、なにか事件を起こすと、急病で急死してしまったりする。
こう考えると、貴族の子供達も結構過酷だよね。
全部本格ファンタジーな世界が悪いんや。
ボール、一杯の、マヨを、製作するのに、一時間ぐらい、シャカシャカ、やっておりました、しぬ。
「なんだか、クリームだな」
マヨだけだと何なので、ズッキーニと赤カブを飾り切りしてお皿に盛った。
「うっわ、なにこれなにこれ、野菜の花だ」
「わあ、リュージすこいわね」
掃除をしていた母ちゃんも出て来て飾り切りを褒めてくれた。
ズッキーニでマヨネーズを掬って食べて見る。
おお……。
わ、ちょっと酸っぱすぎの塩からすぎか?
もうちょっと味が柔らかいほうがよかったか。
それでも、なんだか懐かしいマヨネーズの味であった。
「兄ちゃん、私にも私にも」
「それ、食え」
ピカリにズッキーニと赤かぶを渡した。
おそるおそるマヨネーズをズッキーニにつけて、ピカリはぱくりと口に入れた。
「……」
あ、駄目かな。
口に合わないのはあるからなあ。
と、思っていたらピカリががっさりとズッキーニでマヨネーズを掬ってぼりぼりぼりと食べた。
「美味い!! 美味いっ!! これ、飲む」
「やめろ、飲むな」
「美味い美味い」
「いい加減にしろ、食い過ぎだ」
「これ、大好き、すげえよ、母ちゃん」
「どれどれ」
母ちゃんもズッキーニにマヨネーズを付けて口に入れた。
「……」
そして黙ってマヨネーズを山ほどズッキーニで掬って口に入れた。
「リュージ、これはすごいよ、なんて代物かね!」
「兄ちゃんすげえ、兄ちゃんすげえ!!」
あーあー、もう、二人でボール一杯のマヨネーズをペロリと食べくさりおった。
作るの大変なんだぞっ。
でもまあ、この世界の人の好きな味のようだね。
なによりなにより。
「これどうするの」
「スダラマッシュに混ぜようと思って」
「「それだーっ!!」」
母ちゃんとピカリが声をそろえた。
仲が良い事だな。
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