第18話 キッチンメイドさん達と知り合う
地獄のサブキッチンもお昼を抜けると一段落した。
キッチンメイドさん二人の名前も判明した。
小さくてくるくる動く方がファビアさん、大きくて威圧感がある黒髪の人がミレーナさんであった。
メインがこの二人で、あと下働きの子供メイドさんが三人いて、くるくる働いている。
「リュージが手伝ってくれるから助かるぜえ」
「体を壊さない程度に手伝っておくれよ」
「ああ、べつに構わないよ」
「イシシ、話が早いぜ」
「グッとくるな」
二人ともわりと不良っぽい感じなので軽口に乗せられるのは禁物だな。
静かになったので、お茶とクッキーを出してくれた。
オーブンで焼いているらしい。
甘くて美味しいな。
さすがは領館である。
農村で育った十八年よりも、ここ二三日で食べたご馳走の方が多いぐらいになったよ。
キッチン関係者は食いっぱぐれも無いし、良い物も口に入るからお得だな。
ちなみにクッキーの甘さは砂糖ではなく、蜂蜜である。
砂糖はあまりにも貴重だから薬とかな感じになって、具合が悪いときに偉い人が一口舐める感じの物になってるらしい。
あとの甘味は麦芽糖といって、水飴だな。
それぞれ甘さの感じが違うんだよな。
麦芽糖の作り方はやっている家に行って調べて来た。
この世界の貴重な甘味だから、作り方を知っとかないとな。
基本的に大麦の発芽した奴を粉にして、デンプン質と作用させると水飴が出来る。
デンプンはスダラ芋を使っていた。
何にでもなるのでスダラ芋は偉いな。
麦芽糖はカロリーが高いが甘さは砂糖の半分ぐらいか。
それでも貴重な甘みだから色々な料理に使われる。
おっと、もうすぐ三時だ、メインキッチンの方に行かなくては。
「そいじゃまたな」
「もう行っちゃうのか」
「向こうが終わったらこっち来なよ、酒でも飲もうぜえ」
「いやいや、酒はちょっとな」
「堅いなリュウジ」
「真面目かリュウジ」
いや、この世界の酒は作りが甘いので、腹に来るんだよ。
せっかくのお誘いだが申し訳無い。
メインキッチンに戻った。
控え室からフリッツさまと五人の料理人が出て来て作業を始めた。
フリッツさまが今晩の献立を黒板に書いた。
『子羊のロースト、子豚の姿焼き、羊シチュー、白パン、スダラマッシュ』
であった。
子豚の姿焼きがメインの料理だね。
相変わらず肉々しい。
「今日はお客様がくるから、スダラマッシュはもう一皿追加しておけ」
「わかりました」
俺は調理器具を出して、皮を剥いた水芋を六つ並べた。
付け合わせはチェシャ菜っ葉に飾り切りの赤カブだね。
今日はズッキーニの良いのが無かった。
今日は子豚の丸焼きがあるので、焼き上がるまでコースの進行を中断しておかないと。
タイミングを見ておかないと、熱々のお皿と、冷め気味のお皿が並んじゃうからね。
まあ、スダラマッシュは常温料理だから何時でもいいんだけど、メインの食材がバーンと出てから現れるのが良いね。
やっぱりサブ食材だからさ。
配膳メイドさんが帰って来た。
「お客さん、喜んでいたわよ、やっぱり丸焼きは派手でいいわね。あとスダラマッシュも気に入ってくれたみたいね」
「それは良かった」
今日のお客さんは同じ郡の子爵さまだそうな。
御領主同士はホールで会食、お付きの家来衆は領館スタッフと同じ食事だそうだ。
それで、今日のサブキッチンは忙しそうにしていたのか。
やっぱり飾り切りは有用だなあ。
もっと色々思い出したいもんだ。
下げられてきた食器を丁寧に洗って、今日の業務は終わりだ。
子豚の丸焼きもペロリと骨だけにしてくれて、健啖家の子爵様だったようだ。
脱いだコック服を洗濯メイドさんの籠に入れた。
ここらへんの洗濯システムは良く出来てるな。
俺のロッカーには、バリッと糊の掛かった明日のコック服が吊されている。
「それでは失礼します」
フリッツさまは、犬を追い払うようにシッシと手を振った。
まあ、身分的にはスダラマッシュを作る犬みたいなもんだな。
廊下を歩いてたら、サブキッチンの前でキッチンメイド二人組が俺を迎撃するような動きで交差した。
気が付いたら、俺の服のポケットに何か入っていた。
「クッキーやんよ」
「家族にやんなさいよ」
「あ、ありがとう、ファビアさん、ミレーヌさん」
二人のキッチンメイドはニッパリ笑って手を振って舘の奥に消えていった。
領館のメイドさんたちは住み込みなんだよな。
あと、騎士さんや、衛兵さんも住み込みだ。
料理人のだいたいもそうだね。
通いで務めているのは俺ぐらいなもんだろう。
クッキーか、母ちゃんとピカリが喜びそうだな。
農村では甘い物は滅多に食えないしね。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




