#1-7.ネクロマンサーのクロエさん
【まじらぼ 前回までは】
ただ一人、異世界の街に放り出されたソータは、殺人犯と間違われ、牢にぶち込まれた。そこで彼は妖艶な美女と出会う──
1
「あの…あなたは?」
「人に名を聞く前に、自分から名乗ったら?」
片手で前髪をかき上げながら彼女が言う。
ぞくっとするほどセクシーだった。
──妖艶。
というワードが頭に浮かんだ。
「オレは惣太。南城乃 惣太」
緊張で声が上ずってしまう。ドキドキが止まらない。
「ソータ…ヘンな名。それにその変わった服…あんた、この国の人じゃないわね?」
「この国どころか、別の世界から来たんだよ」
「マロウドってヤツ? ほんとにいるのね」
彼女は驚きに目を見開いた。見た目はセクシーなお姉さんだけど、リアクションは子どもっぽい。
「あなたは?」
妖艶さと子どもっぽさ。そのギャップにドキドキしながらオレは尋ねた。
「クロエよ。ネクロマンサーのクロエ」
「ネクロマンサー?」
刑事ドラマで似たようなワードを聞いた気がする。
たしかネクロフィリア、ネクロフォビア…どっちも死とか死体に関係したものだっけ。
なんか、不吉というか不気味というか……。
「マロウドじゃ知らないか。葬儀屋よ」
「なんだ葬儀屋さんか。てっきり霊を呼び出したり、死体を操ったりする魔法使いかと思った」
ネクロなんて、こわいワードがついてるからビビったじゃないか。
「うん、そういう魔法使いよ」
「マジでぇ?」
「信じないの? じゃあ昨日、そこで死んだヤツの霊呼び出してあげよっか?」
オレの入っている牢を指差し、クロエさんが言う。
昨日、ここで死んだ人がいた? 思わず、肩越しに振り向いてしまう。
薄暗い、冷たい、狭い石の牢。
たたでさえ不気味なのに、そんなこと言われたらすごい怖くなってしまう。
「すごぉく苦しんで死んだから簡単よ。今呼び出すわね」
「やめて! 信じるから!」
「ぶははは! 臆病ねぇ。ビビりすぎ!」
脅えるオレに、お腹抱えて、両足をバタバタさせて大笑いするクロエさん。妖艶とかはどこかに行ってしまっている。くそう、こんな人にドキドキして損した。
「葬儀屋さんが、どうして牢に? ホトケさまの金品でも着服したとか?」
ちょっとムカついたので、トゲのある聞き方をしてしまう。
「葬式で、ホトケさんの霊を呼び出したのがバレちゃってね」
ため息着いて言うクロエさん。
見るからにファンタジーな世界の人であるクロエさんが、「ホトケさん」とか言うのに違和感あるなあ。なんでもかんでも翻訳されると雰囲気なくなるんだな。
「なんでそんなことを?」
「オトケさんの孫に頼まれたのよ。もう一度おばあちゃんに会わせて、って」
ああ、死んだ人の家族に頼まれたのか。
「いい話しっぽいのに、どうして牢に?」
「親がチクったのよ。追加料金を請求したのが気に入らなかったのかなあ。だったら、もっとふんだくるんだった」
「チクったって何を?」
「だから霊を呼び出したこと──って、マロウドじゃ知らないか」
そう言うと、クロエさんは軽くため息をついた。
「この国は、お上の許可無く死霊魔法を使うとぶち込まれるのよ」
「なんで許可取らなかったの?」
「許可が降りないからよ」
ふて腐れた仕草で、クロエさんはベッドに寝転がった。
「ネクロマンサーは嫌われものだからね」
2
クロエさんの話しによると、この国ではネクロマンサーは嫌われ、差別されているらしい。
「──理由の一つは、ネクロマンサーは体質だからよ」
「体質? 魔法が体質?」
「精霊魔法やルーン魔法、錬金術、神聖魔法といった他の魔法は、術師の努力である程度は身につけることができる。でもネクロマンサーの死霊魔法は、その才能がないと初歩の術でさえ使えないの」
才能というより特異体質、突然変異みたいだ。
「ネクロマンサーはなろうとしてなれるものではないし、ネクロマンサーの才能がある者は他の魔法使いになれないってこと?」
オレの言葉に、クロエさんは寝転がったままうなずいた。
「だから死霊魔法は正式な学問、技術とならなかった。個人レベルで知識が受け継がれる非正規の魔法、下等な魔法と見下げられた。それを使うネクロマンサーも卑しい魔法使いだとね」
「そんな……」
非正規だから下等って、ひどくないか?
「──理由の二つ目は簡単。死と死体を扱うからよ」
「葬儀屋さんだからね」
「縁起でも無い、穢らわしい、とバーや食堂から追い出されるのはしょっちゅう。店先にあったリンゴを手に取って、戻したら、店主が舌打ちしてごみ箱に捨てる、なんてこともあったわ」
聞いていて、オレはだんだん腹が立ってきた。
死体を忌み嫌うのは仕方ない。
でもクロエさんは死体じゃない。なのになんだその嫌われ方は!
「──理由の三つ目は、とばっちりね」
「とばっちり?」
「何百年も前のことよ。悪い宰相がいて、急死した王さまをネクロマンサーを使ってゾンビにしたの」
「げっ!?」
「宰相は、ゾンビの王さまを文字通り傀儡にしてやりたい放題。ついには国を乗っ取ろうとした。でも、そこでカラクリがバレて御用、打ち首になった」
そんなことが……。
それにしても、ファンタジーな世界で「カラクリ」とか「御用」とか聞くと違和感あるなあ。頭の〈スパイク〉の翻訳機能のせいなんだろうけど。
「この事件のネクロマンサーは雇われただけで主犯は宰相だった。でも、このせいでネクロマンサーは一層嫌われるようになった。王国乗っ取り事件があってすぐ死霊魔法禁止法──通称『ネ禁法』が作られたの」
クロエさんの話は続く。
「この法律で、ネクロマンサーは葬儀屋以外の職に就くことは禁じられたの。使用する死霊魔法は遺体の保存、修復をのぞいて違法になったの」
「じゃあ死者の霊を呼び出すのも……」
クロエさんはうなずいた。
「霊を呼び出すのも、ゾンビにして動かすのも禁止。ネクロマンサー自体が違法にされたみたいものよ」
3
「そんな何百年も前の法律が、まだ生きているの?」
「20年くらい前だったかな? 先代王の時にネ禁法は廃止されたわ」
「なんだ」
さすがにそんな前の法律は廃止されるか。
「あれ? でもそれじゃなんでクロエさんは牢屋に入れられているの?」
ネ禁法とかは廃止されたのに、なんで死者の霊を呼び出したことが違法になるんだ?
「遺体保存以外の死霊魔法は魔法技術省の許可が要るのよ。でもネ禁法で許されたもの以外、許可が下りることはないの」
「なんで許可が下りないの?」
「世の中が変わらないからよ」
わからない? という顔でクロエさんが言った。
「法律が廃止されてもネクロマンサーは相変わらず嫌われたまま。そして役人は何かあった時に責任取りたくないから許可を出さない」
「そんな…そんなことのせいで? そんなのおかしいよ!」
思わず叫んでしまう。オレは、無性に腹が立っていた。
「何怒っているのよ?」
不思議そうな顔でクロエさんが言う。
当事者は落ち着いているのだけど、それがオレをヒートアップさせた。
「だってクロエさんは、死んだおばあちゃんに会いたいっていう子どものために魔法を使ったんじゃないか。そもそも法律は廃止されてるのに何で罪になるんだ? 日本も大概だけど、この国の役人はおかしいよ!」
「おかしな子ね…他人のことなのに、そんなに怒るなんて」
くすりと笑うクロエさん。
その笑顔に、オレのヒートアップした頭は冷えてしまい、代わりに気恥ずかしさで顔が熱くなった。
そこに、ガチャガチャと甲冑が触れあう音が聞こえてきた。
牢に、あのヒゲダルマの大男と騎士たちがやって来たのだ!
ヒロインその1、クロエさん登場です。
この物語は、2019年のある休日の朝、二度寝している際に思いついたものでした。
友人がずっと前に、異世界でCSIというアイデアを話していたなあ‥と半分眠りながら考えていたのです。
自分だったらどんなもの作るだろう? どんなキャラだろう?
検屍解剖するのはネクロマンサーがいいな。死体の専門家と言うことで。名前はネクロマンサーの「クロ」からクロエさんで…
というわけで、この物語はクロエさんからはじまったのでした。
この作品そしてクロエさんも気に入っていただけると嬉しいです。
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