#3-19.裏切り、裏取引、裏をかく
【まじらぼ 前回までは】
ゾンビMZ1号が導いたのはウエスト葬儀社。しかし誘拐されたブライズ氏はもちろん、ゾンビの1体さえなかった。悔しがるソータだったが──
1
ニューロックの本店は、大きな店が並ぶサンブリッジ通りにある。
この通りの北の端には大きな橋が架かっている。長さ50メートルくらいの橋は「サンブリッジ」と言う。通りの名は、この橋の名からきている。
大きな橋があるということは大きな川があるということだ。
ニューロックの本店をはじめ、サンブリッジ通りにある商店の裏はこの大きな川に面していて、設けた船着き場で荷物の積み下ろしを行っている。
荷馬車での搬入もあるが、大量の荷物は船着き場を使うのが基本だ。
──深夜。
サンブリッジ通りの店のすべてが閉店し、灯りを落としている。
表通りには光魔法を点す街灯があるが、店の裏、川に面した場所には灯りはほとんどなく、川面も店の裏側も、真っ暗な闇に沈んでいる。
その闇の中に、小さな光が点った。
ニューロック本店の裏にある船着き場に、薄いオレンジ色のランプが点っている。
そのランプを目指し、対岸にある倉庫から小舟が出た。
小舟と言っても、10人くらいは乗れるサイズだ。
だが乗っているのは一人だけだった。
船尾でオールを取る船頭。そのオールさばきは、のろのろとしてぎこちないが、一瞬も休むことはない。
ゾンビだ。あの船頭はゾンビなんだ。
やがて、死人が操る小舟はニューロックの船着き場に着いた。
船着き場には支配人のパレル氏と若い従業員が待機していて、支配人の指揮で大きなチェスト──箱を小舟に積んでゆく。
身代金が入っている箱だ。
箱にはリフトの魔法が仕込まれていて、何十キロもあるそれを従業員たちが軽々と持ち上げ、船に積んで行く。
箱は全部で13コあったが、あっと言う間に積み終わった。
ちょうどそこで軽量化の魔法が切れたらしく、船の吃水が目に見えて下がった。
支配人がランプを大きく横に振った。積み込み終了の合図だろう。
合図の直後、身代金を積んだ船が、元来たほうへと戻っていった。
ゾンビの船頭は漕いでいない。
なのに小舟は対岸へと戻って行く。それも驚くほどの早さでだ。
よく見ると、船尾に太いロープがくくりつけてある。ロープの先は、対岸の倉庫へと続いていた。
薄暗い倉庫の中では、大きな巻上機があり、それを十数体の木の人形が動かし、ロープを巻き取っていた。
ニューロックのゴーレムだ。
頭のない紡績用、一本足の織布用、脚のない縫製用…それら木のゴーレムたちが身体を床に固定され、巻上機を回している。
ロープはみるみる巻き取られ、身代金を乗せた小舟は倉庫の船着き場へとやって来た。
「やめ」
薄暗い倉庫。その中の、見通せない濃い闇の中から発せられた命令に、ゴーレムたちは動きを止めた。
その闇の中から、屈強な男たちが現れた。
ガラン運輸の作業員たちだ。
作業員たちは小舟を接岸させていると、倉庫の外に駐めてあった大きな馬車から、5,6体のゾンビが下りて来た。
ゾンビたちは小舟から身代金の詰まった箱を陸揚げしてゆく。ゾンビの怪力で13コの箱はあっと言う間に運び上げられた。
倉庫の中から、赤ら顔の男──ウエストが現れた。
「やったぞ」
赤い顔をゆがめ、ウエストがニンマリと笑った。
もういいだろう。
「そこまでだ!」
オレは叫んだ。
2
ぎょっとして立ちすくむウエスト。
頭上に、鬼火のような光の精霊がいくつも現れ、辺りを昼間のように明るくする。
建物の陰から密かに抱囲していた騎士、衛士、護民兵たちが姿を現す。その数50人以上。
「先に言うなよ! アタイが言いたかったのに」
「早い者勝ちだ」
肩をぶつけて抗議するペイジを軽くいなす。
「き、ききき貴様! どうしてここに?」
慌てふためくウエスト。
「それは──」
「てめぇらごとき出し抜くのなんざワケねぇんだよ! 大人しく縛につけ!」
「ちょ、ペイジ!」
これからオレが名探偵よろしく種明かししようと思ったのに、遮りやがって!
「ええい! やっちまえ!」
そしてウエストが叫び、ガラン運輸のマッチョたちが、うぉおおー! と雄叫びを上げて向かって来た。破れかぶれの抵抗だ。
たちまちはじまる大乱闘。
あ~あ、オレの見せ場はなくなってしまったよ。
「キメようと思ってたのに残念だったわね」
「自慢するほど大そうな計略でもなかろうが」
一緒に来ていたクロエさん、のじゃ子さんが言う。
それは…その通りなんだけど……。
× × ×
昨日、MZ1号で死人団のアジトを捜索している内、オレとクロエさんは無縁墓地に出た。
そこからあらぬほうへ歩き出したMZ1号を追いかけているうち、ウエスト葬儀社を見つけたのだ。
クルミの木。
出入りするガラン運輸の男たち。
そして葬儀屋。
葬儀屋なら、墓に埋める前に死体をちょろまかすなんて簡単だ。
2度目の脅迫状を持って来たゾンビに土が付いてなかったのは、埋葬する前の死体をゾンビにしたからだ。
これらの状況証拠から、オレたちはウエスト葬儀社が死人団のアジトだとにらんだ。
で、ペイジやのじゃ子さんと相談して、罠を仕掛けたのだ。
昨日の朝、ニューロックの屋敷に行って、
「死人団のゾンビを操ってアジトに案内させる」
と、言ったのは、ニューロックの関係者の中にいる内通者に伝えるためだった。
エアリー夫人、パレル支配人、あるいは他の人間か。
誰が裏切り者かはわからないけど、死人団に内通しているなら、動きがあるだろうと考えたんだ。
案の定、オレたちが屋敷を去ってすぐにウエスト葬儀社にメールバードが届き、ウエストたちは大慌ててで動き出した。
監禁していたブライズ氏、そしてゾンビたちを川沿いの倉庫へと移したのだ。
その一部始終をハッチとハンナの老ドワーフ夫婦が見ているとも知らずに。
オレとクロエさん、ペイジの三人がウエスト葬儀社に行ったのは、その後だ。
ヤツらに工作する時間を与えるため、わざと時間をかけてアジトに到着した。
もちろんオレが悔しがって地面を蹴ったのは演技だ。
ちなみに、機能停止したMZ1号は、クロエさんが再びゾンビ化して回収したぞ。
事件が片付いたら、ちゃんと葬ってやるためにね。
はい、主人公がしかけた罠でした^^
次回はアクション回そしてすべての決着が着く最終局面です。
乞うご期待!
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