#3-16.ファンタジー世界の産業革命
【まじらぼ 前回までは】
ゾンビMZ1号を使い、歩く死人団のアジトを探すソータとクロエさん。その2日目。ニューロック屋敷では騎士団抜きで死人団と取引を画策しているらしい。ソータは待つよう言うがエアリー婦人、パレル支配人は頑なで──
1
「よ、お疲れ」
早めのランチがすんだところでペイジがやってきた。
「んじゃ、早速行こうぜ」
オレたちは公園を出て、運河沿いの道を歩いて行く。
「朝、ニューロックの屋敷でさ……」
歩きながら、オレはニューロックの屋敷であったことをペイジに話した。
「ニューロックは身代金を小分けにして運び出しているっぽいな」
ペイジによると、昨日からニューロックの本店に、何度も箱馬車が来てはすぐに出て行くを繰り返しているという。
ちなみに見張っているのは護民兵の手下たちだ。
衛士や護民兵はいわば制服警官だから目立つ。それで下っ引きたちが交代で24時間張り込んでいる。
「普通、客車は乗客を降ろしたら、用が済むまで待っているものなんだ。それが短い時間でまた出るってことは、運んでいるのは人じゃないってことだ」
「何台くらい来たの?」
「昨日は全部で4台って聞いている。あやしまれないよう間を開けているんだろうな」
1台に2箱としてもまだ8つ。いや、さっきのを入れると10箱か。
「先日運んだ身代金は13箱だった。もう1、2度は必要だな」
「また別の場所に運ぶ可能性もあるけどな」
オレのつぶやきにペイジが突っ込む。
それもそうか……。
話しているうちに、通りの様子が変わってきた。
運河沿いに、横に広い、大きな建物が並んでいる。倉庫や工場だ。
「ニューロックの関係者の捜査は進んでいるの?」
「疑わしいヤツばっかで難儀してるよ」
「ニューロックを恨んでいる人たちってそんなにいるの?」
「ああ、ゴマンとな」
ペイジが苦笑する。
「ちょうどいい。この近くにニューロックの工場があるンだ。のぞいて行こうぜ」
ペイジの後について歩いて行くと、がしゃがしゃという機械音が聞こえてきた。
「ここがニューロックの工場だ」
運河沿いにある横に広い建物。換気のためか、大きな窓が開いていて、その中が見えた。
「うわ……」
その異様さに、オレはうめいてしまった。
薄暗い工場の中、ずらりと糸車が並び、それを木製の人形──ゴーレムが動かしている。
糸車を回すゴーレムは、頭がなく、腕と脚も片方ずつという異様な姿をしていた。
「ニューロックの初代頭首はゴーレム職人だったそうだ。で、ある時、ゴーレムの機能を一つに絞れば安く作れると考えた。それで作ったのが糸を紡ぐゴーレムだったんだよ」
ペイジがメモを片手に説明する。
隣の工場をのぞくと、こっちは糸から布を作っていた。
ずらり並んだ織り機。操作しているゴーレムは頭があるが、やはり一本足だった。顔はのっぺらぼうで、額に小さなクリスタルが付いている。あれが目、いやセンサーか。
「単機能のゴーレムで糸を紡ぎ、布を織る。この方法で服作屋をはじめたニューロックは、他所のより半分以下で服を売り、大もうけした」
三番目にのぞいた建物は、やはりゴーレムの群れが足踏みミシンを動かしていた。
機織りのゴーレムと似たタイプで、縫う場所ごとに特化、分業している。
「そして足踏みミシンが発明されるとこれも導入。ニューロックが作る服は1/10以下になったんだ。値下がりは今も続いていて、しかも品質は上がっている」
これが魔法文明──ファンタジー世界の産業革命か。
2
それは、異様な眺めだった。
絶え間なく鳴り続ける機械音。休みなく精確に機械を動かすゴーレムたち。
大量生産を行う機械は工場見学やニュースの映像とかで見たことあるけど、こんなふうに不気味だと思ったことはない。
ゴーレムが人間に似た姿をしているからだろうか。
産業ロボットの、くいっくいっとした動きと違い、ゴーレムの動きはあまり人間と変わらない。
頭が無かったり、手足の長さや太さが人間とかけ離れているのに、人間そっくりな動きをする。それがかえって気味が悪いのか、
「アタシらは服の値段が下がって大助かりだけど、糸作りや布作りしていた職人には死活問題よね」
クロエさんが言う。
「廃業した職人や倒産した工房は数知れず。そこの機械を安く買い取って、ニューロックはますます大きくなったんだ」
そうか。ゴーレム──人型をしていると、糸車や機織り機を改造する必要がないのか。人間をゴーレムに置き換えるだけでいいんだ。
「20年経った今でも、ニューロックを恨んでいるヤツはゴマンといるぜ。──魂なき人形に職も誇りも奪われた! ってな」
──魂のない人形。
やはりヘタに人間に似ているぶん不気味なんだ。
そしてこれが社会を大きく変えたことも、不気味に見える理由かも知れない。
歴史を変える発明っていうのは、周りに及ぼす〈被害〉も大きい。
そのニューロックの〈犠牲者〉たちが、ニューロックに入り込んで、死人団に内通しているのかもしれない……。
「オマケにコレだ」
と、ペイジが自分が着ているベストを引っ張ってみせた。
「コレって?」
ペイジがいつも着ている黒のベストは、護民兵だと示す制服のようなものだ。
「ニューロックは、お上の機関のお仕着せを一手に取り扱っているんだよ」
「お仕着せ…って、制服のことか!」
日本で例えるなら、警察、自衛隊、消防、郵便局そのすべての制服を独占しているようなものだ。とんでもない数になるだろうそれ。
「何十年かで〈都〉屈指の大金持ちになるわけね。商売敵から相当のやっかまれていそう」
クロエさんが言う。
「まだある」
「「まだあるの?」」
オレとクロエさんは同時に声を上げた。
廃業する羽目になった職人や工場主。商売敵。この上、まだあるとしたら……
「それって御家騒動的なヤツ?」
あ、クロエさんに先を越された。
ていうか、わくわくした顔しているな、クロエさん。
異なる世界、それも魔法が科学の代わりをしている世界なら、機械の姿も大きく異なるだろうと考えました。
で、メルヘンなようなかえって不気味なような異世界の産業革命となりました。
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