#1-5.大賢者さまのルーン魔法
【まじらぼ 前回までは】
異世界に転移したソータは、大賢者と自称する小さな女の子・のじゃ子さんと出会う。ファンタジーな異世界に関心も知識もないソータに、のじゃ子さんは魔法をかけた──
1
「シクシク…はじめてのキスが老女な幼女だなんて……」
「いつまで泣いておる。とっとと行くぞ」
魔法を解除され、コップから人間に戻ったオレにのじゃこさんが言った。
「行くって…どこへ?」
「〈都〉じゃ。まずはこの世界での生活の基盤を作らんとな」
〈都〉って、この国の首都かな。
……生活の基盤?
「って、オレは元の世界に戻れないんですか?」
海外旅行すらしたことのないオレが、ファンタジーな世界で生活するだなんて……。
「マロウドは必ず元いた世界に還る。それは世界の摂理じゃ」
「え、戻れるの? いつですか?」
「それはわからん。数日で還った者もおれば101年かかった者もおる」
「ひゃ、ひゃくぅ!?」
オレは目の前が真っ暗になった。
最長で101年!? ヘタすると一生戻れないってことじゃないか。ていうか、その人、エラい長生きしたな。
……長生き?
「そうだ! のじゃ子さんは大賢者なんでしょ? 魔法でなんとかできません?」
「それは世界の摂理を乱すことになる」
すがるオレにのじゃ子さんは静かに言った。
「マロウドが現れることには意味がある。この世界で果たすべき役割があるのじゃ。それを無視して送り返せば、どんな反動があるかわからぬ」
「なんだ役に立たねぇな……」
思わず漏らしたオレの一言に、のじゃ子さんの眼が鋭く細められた。
「方法はないでもない──」
そう言うとのじゃ子さんは肩から提げている鞄に手を入れた。
何か魔法のアイテムでも取り出すのか?
「……?」
ずるずると長い棒が引き出されている。どう見ても鞄に入る長さじゃない──ってもコレ棒じゃない、棒の先に大きな刃が直角についている。
鎌だ。バカデカい鎌だ!
刃の長さは1メートル以上、柄はのじゃ子さんの身長より長い。まるで死神の鎌だ。
「マロウドは、死ぬと元の世界に転生する」
ぶおん! と空気が鳴った。
デカい鎌を、のじゃ子さんは重さがないように軽々と振るうと、ピタリと刃をオレの首筋に押し当てた。
「赤子から人生やり直したいなら…叶えてやるぞ?」
唇をつり上げて笑うのじゃ子さん。
怖い。すげぇ怖い。
小さな女の子が、死神そのものに見えた。
「ひぃいいい! ごめんなさい! 謝ります! 許して下さい」
オレは両手を合わせ、拝み、許しを請うた。
2
「わかればよい」
にっこり笑うとのじゃ子さんは大鎌を鞄にしまった。
500歳を超える大賢者というのは本当だ。
あの迫力、あの凄み。子どもに出せるものじゃない。
大きく息を吐いたオレをよそに、のじゃ子さんはまた空中に光る数式を書きはじめた。
後で聞いたが、彼女が使うのは秘文魔法というタイプの魔法だった。
空間に満ちるエネルギーを取り出し、これを様々な力に変換して使用するという魔法だ。
魔法が完成し、地面に光る魔法陣が現れた。
「すげぇ」
「転移門じゃ」
驚くオレにのじゃ子さんが告げた。
光る魔法陣の直径1.5メートルくらい。三重の円の中に魔法っぽい文字がびっしりとあって、ゆっくりと回転している。
均整の取れた美しさっていうのだろうか。キレイで、そしてカッコイイ。
「即席のゲートは不安定じゃ。わしの手を離すでないぞ?」
オレの手をのじゃ子さんが握った。
「なんか恥ずかしいな……」
小さくて細い、のじゃ子さんの手。
大賢者だとわかっていても、小さな子に手を引いてもらうのは恥ずかしいものがある。
「ふふん、さてはおぬし、まだ女を知らんな?」
「ぎくっ」
別にのじゃ子さんにときめいたり、興奮したわけではない。
しかし、その言葉に思わず反応してしまった。
「なら、わしが教えてやろうか? んん?」
下からオレの顔をのぞき込むのじゃ子さん。
「遠慮します。ロリとかペドの烙印を押されたくない」
目を逸らしたオレに、のじゃ子さんは含み笑いをする。
「ふふふ、照れずともよい。大賢者たるわしの相手をできる男なぞ、100年に一人もおらんのだぞ?」
「彼氏なし歴100年ですか。さびしい人生送ってますね」
「ドーテーに言われたくないわ!」
のじゃ子さんが怒鳴ってオレの尻に蹴りを入れた。
「あっ」
「え?」
その弾みで握っていた手が離れ、オレは魔法陣の中に落っこちた。
そう、魔法陣の中に地面はなかったのだ!
「わぁああああ?」
いきなり視界が真っ暗になった。
闇の中を、オレはどこまでも落下してゆく。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに光が戻った。
「いてっ!」
尻餅ついた地面は固かった。
けっこう痛い。しかしそんな痛みはすぐに消し飛んでしまった。
「な…!」
──石畳の通りとそこを行き交う大勢の人と馬車。
白い壁と赤い瓦屋根の街並み。
都会だ。ファンタジー世界の都市だ。
のじゃ子さんが言っていた〈都〉に違いない。
「のじゃ子さん?」
はっとして辺りを見回す。
だが、とんがり帽子の魔法使い幼女の姿はなかった。
オレはただ一人、ファンタジーな国の首都に放り出されてしまったのだ!
異世界転移は「召喚」されることが多いですが、本作では「たまたま」ですw
のじゃ子さんは、転移したことに意味があるようなことを言っていますが、はたして……
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