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#3-12.かわいい猟犬と季節の魚

【まじらぼ 前回までは】

騎士団が焦って突入したため、身代金の受け渡しは失敗。死人団は、ニューロック屋敷から騎士団と魔捜研の退去を命じた。しかしそれは騎士団かニューロック屋敷に内通者がいることを示していた──



     1



 翌日の午後、ペイジがラボにやって来た。


「昨夜は見直したぜ。あの団長相手に一歩も引かなかったンだからな!」


 なんか毎日コイツの顔を見ているような……。

 いや、今日はオレが呼んだんだけどさ。


「騎士団かニューロックの関係者の中に、内通者がいる可能性がある」

「何だって!?」


 オレは昨夜感じた疑問をペイジに話した。


「血まみれのシャツと一緒に届いた脅迫状に魔捜研の名が…言われてみれば変だな」


 ペイジはうなずくと、サミちゃんが淹れたお茶を一口飲んだ。


「そのシャツを見つけたのはニューロックの店員なんだけど、彼がシャツを見つけたのは、4番倉庫でペイジたちが突入した頃なんだ」

「もう一つ、ガラン運輸が身代金を運び入れる予定だった船じゃが」


 オレに続いてのじゃ子さんが言う。


「港の役人に確認したところ、その船が出航したのは取引時間の30分も前じゃった」

「それって…!」


 ペイジが息を呑む。


「あの取引は、失敗することが前提だったんだ。多分、ニューロックの屋敷から騎士団とオレたちを排除するためだ」


 死人団は、身代金の受け渡し時に騎士団が突入することを読んでいた。だから最初の受け渡しを失敗させ、騎士団をニューロックの屋敷から出て行くよう仕向けたんだ。

 身代金と人質の交換をニューロックと死人団だけで行うために。


「こっちも気になるネタがあるンだ」


 腕組みしてペイジが言う。


「ブライズ氏が誘拐された日だ。ブライズ氏が王宮で商談する日が決まったのは、誘拐の2日前だったンだ」

「それを知っていたのは?」

「ニューロックの関係者では奥さんのエアリーと支配人のパレル、あと数人だ」

「御者は? ゾンビの群れに気を失ったというけど、戻るまで半日以上かかっていたよな」


 引っかかっていたので確認する。


「御者が知らされたのは当日だったそうだ。気絶している間に、ウマが馬車引いてどっか行っちまってたんだと。戻るのが遅れたのは、ウマと馬車を探し回ってたからだ」

「たしかか?」

「御者のいない馬車を近くの護民兵が見つけ、詰め所で保護してた。本物のウマはべらぼうに高価だからな」


 どうやら御者は違うらしいな。


「騎士団はエアリー夫人と支配人があやしいってにらんでいる」

「あやしいって思う理由は?」


 クロエさんが尋ねた。


「エアリー夫人が若い後妻だからだ」

「は?」

「ブライズ氏は55歳。前の奥さんのリースが亡くなったのは4年前。子どもがいなかったから周りが再婚を勧めた。子ども──跡継ぎを作るため、後妻は若いのをってんで相手はハースト男爵家のエアリー嬢に決まった。それが2年前だ」


 跡継ぎのために若い女性と結婚か。

 いわゆる政略結婚ってやつだな。こういうの、王さまや貴族が支配している世界では当たり前なのかな。


「でも、若い後妻ってだけで容疑者にするのは強引すぎないか?」


 年の差の政略結婚だからって、死人団みたいな凶悪な犯罪組織と組んで旦那を誘拐させるだろうか?


「だからまだ逮捕してない。支配人のパレルがあやしいってのもあるンだが」

「パレル氏はどこがあやしいんだ?」

「ニューロックは跡取りがいない。当主のブライズ氏がいなくなれば、店の実権は支配人であるパレルのものになる」

「それだけ?」

「他にあれば逮捕してるって」

「そうか……」


 結局、騎士団は何もつかんでいないのと同じか。


 やっぱり、物証から死人団に迫るしかないな。


 でも、その証拠が少ないんだよなあ。



     2



「こちら、魔法捜査研究所ですかい?」


 ペイジが帰るのと入れ替わるように、一人の老人が尋ねてきた。

 ドワーフかと思うほど背が低く、体つきは細い。


「おお、お主がモロクじゃな。よく来てくれた」


 のじゃ子さんが迎え入れようとすると、老人──モロクの足下から、小さな犬がひょこっと顔を出した。

 大きさはネコより少し大きいくらいか。垂れた耳と愛嬌のある顔をしている。


「のじゃ子さん、この人と犬は?」

「王室お抱えの猟師のモロクじゃ。ソータが前に言っておった、ケーサツ犬代わりの犬じゃ」

「この人とこの犬が?」


 思わず声に出して言う。


「こいつの名はイエール。水鳥猟用の犬です」


 モロク老人が紹介すると、犬──イエールはオレを見上げて尻尾を振った。


 猟犬なんだ、この犬。


 馬車に残されていたゾンビのものと思われる爪。そのにおいをたどるため犬を使えないかと相談したんだけど、まさかこんなかわいい犬が来るとは。


 後で聞いたのだけど、王室お抱えの猟師というのは、王族が狩りをする時に同行するガイドみたいなものらしい。


「街中での追跡だというので、こいつを連れて来やしたんで」

「鹿や猪相手の狩りでは大きな猟犬を使うのじゃよ」

「ウチで一番デカいヤツは、若先生くらいありますんで。おまけに気も荒い」


 人間サイズで気が荒いって、それもう犬というより猛獣じゃないか。

 たしかに街中に連れて来れないよな。


「って、若先生?」

「大賢者さまから、たいそうな知恵者と伺っておりやす。──お気に障りやしたか?」

「い、いいえ! ちょっと照れくさいな」


 このご老人はオレを若造と侮らない。嬉しいけど、くすぐったいな。



     ×   ×   ×



「ここが襲撃現場です」


 オレとのじゃ子さんは、モロク老人と犬のイエールをブライズ氏の馬車が襲われた場所に案内した。


「イエール…追え」


 モロク老人はイエールにゾンビの爪を嗅がせると、静かに命じた。

 イエールは地面のにおいを嗅ぎながら、てこてこと歩き出した。

 ちなみにリードは付けていない。モロク老人が言うには、


「獲物を追うのに綱は邪魔ですから」


 とのことだ。


 たしかに、見た目はかわいいけど、イエールのその動きは猟犬そのものだった。


 水路沿いの石畳の道をイエールは川下のほうへと歩いて行く。

 城門が近いから、周りに建物も人気も無い。片側は水路、もう一方は並木と街頭だけという道がしばらく続いた。


 追跡開始から5分ほどしたところで、周りの様子が変わってきた。


 道の横にある水路の幅が広くなり、通りにも通行人が増えて来た。

 水路で釣りをしている人も何人かいる。


「今年もカワニシンの季節ですなぁ」


 釣り人たちを見てモロク老人が言う。


「カワニシン? こっちは川でニシンが釣れるの?」


 のじゃ子さんに聞くと、


「海のニシンとは似て異なる魚じゃ。5月頃に産卵のため、川を遡ってくるのじゃ」


 とのことだった。


 季節の風物詩、旬の魚ってわけか。そんなことを考えた時、


「こりゃいけねぇ」


 モロク老人がつぶやいた。

 見ればイェールが板張りの桟橋でうろうろしている。

 ここは船着き場で、向こう岸に渡る渡し船や、人や荷物を運ぶ船の桟橋がいくつもあった。


「獲物はここで船に乗ったようじゃの」

「あいすいやせん。ここまでです」


 モロク老人が頭を下げた。しょんぼりした顔でイエールがオレたちを見ている。


「いえ、ありがとうございました」


 あんな爪のカケラからここまで追いかけてくれたんだ。役目は十分果たしてくれた。


「イエールも。ありがとな」


 言葉をかけると、それが伝わったのか、イールは、わんっ! と一鳴きして尻尾をふった。



今回登場のカワニシンのモデルはアロサ、シャッドと呼ばれる魚です。

日本にはいませんが、北大西洋、メキシコ湾、地中海、黒海、カスピ海に生息しており、鮭のように産卵のため故郷の川を遡るという。

英語でリバーヘリングというのでカワニシンとしました。

ちなみに和名はニシンダマシ。誰を騙すんだよと…笑。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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