#3-11.血染めのシャツ
【まじらぼ 前回までは】
身代金の受け渡し場所に指定された4番倉庫。人質の安否を確かめないまま騎士団が突入した──
1
4番倉庫ではじまった大捕物。
騎士団の衛士と護民兵30人以上と『歩く死人団』と思われる倉庫の作業員10数人、総勢50人ほどの大乱闘が……!
……と、思ったら、倉庫にいたヤツらは抵抗らしい抵抗もせず、制圧は5分と立たず終了した。拍子抜けだ。
「濡れ衣だ!」
縛られた作業員の一人が叫んだ。
「オレたちは、ガラン運輸に雇われた人足だ! 死体団とかじゃねぇ!」
口々に叫ぶ。
「旦那さまはどこだ! どこにいる!」
「知るか! オレたちゃニューロックが持って来る荷物を受け取って港に運ぶよう依頼されただけだ!」
パレルの問いに作業員のリーダーが叫んだ。
「依頼したのは?」
「エディポート海運だ。ウソじゃねぇ! 依頼書もある!」
リーダーの言う通り、エディポート海運の依頼書が出て来た。
エディポートは海運業界でビッグスリーの一つという大手だった。
騎士団はエディポート海運を調べたが、そんな依頼は出してないとのことだった。依頼書を見せたところ、それは偽造されたものだと判明した。
そしてニューロックの荷物──身代金を積むはずだった船は外国籍の船で、騎士団が到着した時には港を出た後だった。
× × ×
「おのれ! 姑息な真似を!」
──クリークベルの大騒ぎから3時間後。
ニューロック屋敷でゴーワン団長が不機嫌なうなり声を上げた。
「どうして捕縛命令を出したのですか! 身代金を渡せば旦那さまは戻って来たはずなのに!」
エアリー夫人が騎士団長にくってかかった。
あの団長に抗議するなんて、それだけ旦那のブライズ氏の身を案じているのだろう。
「犯人逮捕が最優先だと言ったはずだ! 平民が騎士団の方針に口を出すでない!」
しかしゴーワン団長は1ミリも動じず、言い放った。
エアリー夫人は硬直し、そしてわぁっと泣き崩れた。
「犯人逮捕って、騎士団のメンツが優先なんだろ」
団長の態度にオレはハラが立って、うっかり声に出してしまった。
「その通りだ」
ギロリとゴーワン団長がオレをにらんだ。
「騎士団の威信は国の威信。犯人にカネを払えば解決するという考えを改めない限り、同じ犯罪は何度も起きる。それが分からんのか!」
うっ…それはそうだけど。
って、納得しかけた。危ないあぶない。
団長が言ってるのは、「テロに屈しない」の考えだ。でもそれは相手をしっかり退治できることが前提だ。つまり、
「逮捕できなきゃ、威信も何もないでしょうが」
「何だと?」
やべ…! また口に出して言ってしまった。
2
「昨日今日この国に来たばかりの他所者が、騎士団の方針に口を出すな!」
ゴーワン騎士団長が怒鳴る。
「他所者だからこそわかるんだよ!」
自分でも驚いたけど、オレはゴーワン団長に言い返していた。
「行き当たりばったりの捜査で冤罪ばかり生み出して、犯人の手掛かりすらないじゃないか! 葬儀屋ばかり取り調べて、モグリのネクロマンサーをガン無視とか、ありえないよ!」
この世界に来てムカついたこと。たまりにたまったそれが一気に噴き出した感じだった。
「小僧が図に乗りおって、わしに意見どころか批判までするか! 出て失せろ!」
怒りに真っ赤になってゴーワン団長が怒鳴った。
その直後──
「大変です! たった今、これが届きました!」
ニューロックの使用人が、部屋に飛び込んで来た。
その手には、血で真っ赤に染まったシャツが握られていた。
「なんだそのシャツは?」
「誘拐された時、旦那さまが着ていたものです」
支配人のパレル氏が叫んだ。
「もしや旦那さまは!」
エアリー夫人が真っ青な顔で叫ぶ。
身代金を手に入れ損なった死人団がブライズ氏を殺したのか?
最悪の想像が頭に浮かんだ。
それはオレだけじゃなく、室内にいた者たち全員も同じだったのだろう。室内が緊張に静まり返った。
「ちょっと待って」
沈黙を破ったのはクロエさんだった。
クロエさんは使用人が持ったシャツを受け取ると、ぱっと広げてみせた。
「血は胸の辺りに着いているけど布地に傷はない。これ、シャツに血をふりかけただけよ」
言われてみれば。シャツに穴とか裂けた跡はない。
場所が心臓のあるあたりだから、みんな刺されたと思ってしまったんだ。
クロエさんはシャツに鼻を近づけると、そのにおいを嗅いだ。
「人の血じゃない。ネコの血よ」
ほっ、と何人かがため息をついた。
「慌て者が。取り乱しおって!」
支配人のパレル氏が怒鳴り、シャツを持って来た使用人が小さくなった。
「うん? これは」
クロエさんがシャツの中から二つ折りの紙を取りだした。
「新しい脅迫状ですか?」
「よこせ!」
ゴーワン団長がクロエさんの手から脅迫状をひったくった。
「ぬぬぬ…!」
中身を読んだ団長の顔がまた真っ赤になり──
「ふざけおって!」
「ああっ!」
ゴーワン団長は脅迫状をぐしゃぐしゃに丸めると床にたたきつけた。
おま…! 証拠品を!
「撤収!全員引き上げだ!」
そう言うとゴーワン騎士団長は、ドカドカと足音も荒く出て行く。慌てて部下の騎士たちが後に続く。
オレは投げ捨てられた脅迫状を手に取り、開いて中を見た。
「なんて書いてあるんですか?」
サミちゃんがオレを見上げて尋いた。
「このシャツは警告。騎士団と魔捜研は、すぐにニューロックの屋敷より去れ。さもなくばブライズ氏は生きて屋敷に帰ることはない。身代金の受け渡しについては後日また連絡する。屋敷は常に見張っている。警告を忘れるな──とのことです」
「なんという…!」
「とにかく旦那さまは、まだ無事ということです。希望を捨ててはなりませんよ。奥さま」
頭を抱えるエアリー夫人をパレル支配人がなぐさめた。
3
「わしらも撤収するとするかの」
のじゃ子さんの言葉で、オレたちもニューロックの屋敷を後にした。
今回はオレたちの負けだ。
屋敷の門を出て空を見上げると、丸い月がぼんやりと輝いていた。
「残念でしたね」
落ち込んだオレを見てサミちゃんが言う。
「まだ勝負はついたわけじゃない」
オレが強がりを言うと、
「そうですよね。早く帰って夕食にしましょう」
サミちゃんは明るく言った。
そういや、メシ食うひまもなかったな。
気がついたら急に腹が減ってきた。
「しかし、アタシらも有名になったものよね」
クロエさんが呑気に言う。
「死人団から名指しで退去するよう言われるなんてね」
「新聞でも評判ですから」
サミちゃんが答える。
……うん?
「どうしたソータ?」
足を止めたオレを、不審そうにのじゃ子さんが見上げた。
「なんでわかったんだろう?」
「何がじゃ?」
「オレたち魔捜研がいるって、どうしてわかったんだ?」
騎士や衛士は鎧、護民兵は黒のベストと見ただけでそれわかるけど、オレたちはそんなもの着てない。
屋敷を見張っているとあったけど、見た目だけで魔捜研だってわかるはずがない。
それはつまり──
「ニューロックか騎士団の中に、内通者がいる?」
今回は死人団の勝ち…とみせて、重大なミスをやらかしました。
ここから魔捜研の反撃がはじまりますよ!
お楽しみに!
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