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#3-8.墓地での遭遇

【まじらぼ 前回までは】

歩く死人団のアジトの手掛かりは、今のところクルミの葉だけ。ソータとクロエさんはクルミの木がある墓地を探し歩くうち、かつてクロエさんが葬儀屋をしていた土地にやってきた──



     1



 クロエさんの案内で、オレは町の小さな墓地へとやって来た。


 小さいといっても墓は100以上はありそうだ。木々に囲まれ、あちこちに花壇もある。

 墓地っていうより霊園かな。


 墓地の一角では葬儀が行われていて、お棺が土に納められるところだった。

 その中のひとりはやたら血色がいい。赤ら顔ってやつだ。


「クロエさん、あれは?」


 葬儀をやっている所と反対方向、霊園の外れに、大きな石のテーブルがあった。

 周囲に墓石はなく、それだけ浮いているから目にとまったんだ。

 大きさはダブルベッドより一回り大きいいくらい。土台から何からすべて石でできている。


「ああ、あれは焼き台ね」

「焼き台?」


 この世界はお墓で焚き火とかバーベキューでもするのかな?


「遺体を焼く場所よ」

「うげっ」


 火葬場なのか、あれ。


「火葬を希望する人は昔からいてね。火葬屋があの焼き台で遺体を焼くのよ」

「火葬屋? そういう職業があるんだ」

「そ、ちょうど来たわ」


 見れば焼き台のそばに、男が1人やって来た。

 バケツとかブラシを持っているのをみると焼き台の手入れに来たのだろう。

 年齢は30歳くらいだろうか。疲れたような顔をしている。


「ラマンド」

「クロエじゃないか! 久しぶりだな」


 クロエさんが呼びかけると、男──ラマンドさんがこっちを見て、笑顔になった。


「今はお上の研究所に勤めているんだって?」

「魔法捜査研究所よ。この子はソータ。同僚よ」

「どうも」

「ラマンドだ。よろしく」


 と、握手する。


 さっきは不景気な顔をしていたけど、ラマンドさんは快活な青年だった。


「ラマンドは精霊魔法の使い手で、火の精霊を得意としているの。それで火葬屋をやっているのよ。腕も手際も中々よ」

「はあ、なるほど」


 魔法使いはそれに向いた仕事をしていると聞いていたけど、火の精霊魔法の使い手が火葬の仕事をしているとは。

 それにしても、クロエさんが他人をほめるのはじめて見た気がする。


「クロエも腕のいいネクロマンサーだったんだぜ。いなくなって弱ってるぜ」


 ラマンドさんが言う。


「今の葬儀屋は腕が悪いの?」

「悪いっていうか、仕事が雑だ。この前も、火葬中に遺体が踊りやがった」

「死体が踊るぅ?」


 思わずヘンな声を上げてしまった。

 それってゾンビに関係しているのか?


「ゾンビと関係ないわよ」


 オレの顔を見てクロエさんが笑った。


「炎の熱で筋肉や筋が縮むと、手足がくねくね動くことがあるのよ。それを〈踊る〉って言うの。魚焼くと反ったりするじゃない? アレと同じよ」


 うげげげ…! 焼き魚とかに例えないでよ。

 それでなくてもこの前のゾンビー魚がプチトラウマになって、魚が苦手になっているんだから。


「クロエは手ぇ抜かないから、そんなことはなかったけどな」


 ラマンドさんが言う。

 クロエさんって、おちゃらけているけど、仕事はマジメにするんだよな。

 そんなことを考えた時──


「死霊術なぞ使わなければ、そんな心配もないのですがね」


 後ろから、イヤミったらしい声がかけられた。



     2



 声をかけて来たのは、ツヤツヤと妙に顔色の良い…というか良すぎる赤ら顔の中年男だった。


 向こうで行われていた葬式の中にいた一人だ。

 その顔色の良すぎる赤ら顔のおかげで、遠くからでも目に付いたんだ。


「誰?」

「ウエスト葬儀社の代表、ウエストです」


 不機嫌なクロエさんの視線。それをニヤニヤと笑って受け止め、赤ら顔──ウエストが名乗った。


「あなたも葬儀屋?」

「最新の魔法技術を用いる葬儀屋です」


 オレの問いに胸を張って答えるウエスト。


「現代は効率と清潔が求められる時代。死霊術も火葬屋も時代遅れ。潔く廃業なさってはいかが?」

「余計なお世話だ!」


 ウエストにラマンドさんが怒鳴り返す。


「おお、これはこわい。間違って燃やされないうちに退散するとしますかな」


 そういうと、赤ら顔のウエストは去って行った。


「なんだあの人?」


 登場から退場までムカつくヤツだった。


「最新の魔法技術をウリにしている葬儀屋だ。──刻止めの魔法でご遺体を保存、忌まわしい死霊術では死者は眠れない。ゾンビ化しないよう処置します──がうたい文句だ」

「刻止めの魔法? あいつが使えるの?」


 クロエさんが尋ねた。


 刻止めの魔法って、のじゃ子さんがエクトプラズムを保存するのに使った魔法だよな。かなり高度な魔法だったはずだ。


「ヤツはルーン魔法の使い手を何人も抱えているらしい」


 そう言うと、ラマンドさんはため息をついた。


「悔しいが、ヤツの言う通り、時代の流れだな。今時の客は、目の前で遺体を焼くより見えない場所で焼いて灰にするほうを好むからな」


 そしてまた、大きなため息。


 火葬は見えない場所で…オレだってそのほうがいいと思う。

 だけど、あのウエストの、クロエさんやラマンドさんを見下した言い方にはハラが立った。


「火葬屋を廃業したら、園芸で食ってけばいいじゃないの」


 また後ろから声がかかった。今度のはきれいな女性の声だった。


 振り向くと、声の主は緑色の髪をした女性だった。年齢はクロエさんと同じくらい。


「あら、ウィロウ」

「クロエ、お久しぶり」


 そしてクロエさんの知り合いでもあるようだ。


「オヤジから受け継いだ家業だ。簡単に辞められるか!」

「お、元気出たね。あんたはそうでないと」


 怒鳴ったラマンドさんに、ウィロウさんはニッと笑った。



     3



 ウィロウさんはラマンドさんの奥さんだった。

 去年結婚したばかりだという。新婚さんである。


 オレとクロエさんは、近くにある二人の家でランチをご馳走になった。


「さあ、たくさん食べてねっ」


 出て来たのはクリームソースのパスタ。ベーコン入りでパセリを散らしてあった。

 カルボナーラのコショウをパセリにしたみたいなもので、味はシンプルだけど、濃厚なクリームがとてもうまかった。


「クロエさんに、こんな知り合いがいるとは思いませんでしたよ」

「アタシはへそ曲がりだけど、友だちは性格の良いのばかりなのよ」


 大きな胸を反らしてドヤるクロエさん。

 自分で言いますか、へそ曲がりって。しかも自慢げに。


 それにしても、葬儀屋関係なのに明るい人たちばかりだ。葬儀屋=陰キャというのは勝手な思い込みだ。反省しよう。


「ウィロウはいま園芸家やっているの?」

「悔しいがオレより稼いでいるよ」


 食事後のハーブティー。これは庭の菜園でウィロウさんが育てているものだという。


「庭木のことで困ったら声をかけてね。クロエ」


 と、笑顔で言うウィロウさん。

 知り合い三人の和気あいあいの会話。クロエさんにこういう友だちがいたことに、オレはちょっと感動した。


 ……うん? 園芸家?


「ウィロウさんって、植物のこと詳しいんですか?」


 思いついて尋ねてみた。


「植物の精霊魔法の使い手よ。霊園の植物の世話をしている内に才能があることがわかったの」

「それじゃ、クルミの木がある墓地を知りませんか?」


 園芸家で、火葬屋の奥さんなら知っているかもしれない。そう思って聞いてみたら──


「墓地にクルミの木は植えないわよ」

「え?」


 予想外の答が返ってきた。


「クルミは他の植物の生長を邪魔するのよ。ひどい場合は、周りにある草木を枯らしてしまうくらい。だから墓地には植えないの。芝生や花が育たなくなるから」

「へぇ、そうなんだ」


 感心する旦那のラマンドさん。

 その横で、オレとクロエさんは顔を見合わせてしまった。


「思いがけず、ケリが着いたわね」


 苦笑するクロエさん。


 この〈都〉に、クルミの木がある墓地はない。

 それがわかっただけで収穫だ。しかし──


 墓地でないとしたら、あの脅迫状を持って来たゾンビは、どこから来たんだ?



別件で連作障害のことを調べていたら、クルミ(クログルミ)は他の植物の生長を阻害することを知りました。

どこで何がネタになるかわからないものですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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