#3-7.死の神ナラカンはこわくない
【まじらぼ 前回までは】
大富豪ブライズを誘拐した歩く死人団。ゾンビにクルミの葉が付着していたことから、ソータとクロエさんはクルミのある墓地を探すことに──
1
クルミの木がある墓地を探すため、オレとクロエさんはラボを出た。
「墓地のことを聞くなら、死の神ナラカンの神殿に行くのがいいわ」
「死の神……」
それを聞いたオレの頭に、デカい鎌を持った黒衣のドクロの姿が浮かんだ。
やはりファンタジーな世界だ。そんな神さまがいるんだ。
「大丈夫よ。そんなコワイ場所じゃないから」
「はぁ」
クロエさんの言うことは時々信用できないからな。
クロエさんの案内で、ラボから歩くこと15分ほど。オレたちは一番近い、死の神ナラカンの神殿に到着した。
「普通だ……」
それがナラカンの神殿を見たオレの感想だった。
デザインは、前に行ったダンカン地区のテージャスの神殿とそっくりだ。三角の屋根をたくさんの円柱が支えている。
違うのは大きさで、テージャスの神殿と比べると敷地も建物も半分くらいだ。あと、敷地内に土産物売り場がない。
神官の人たちの服装も似たようなデザインだった。黒と白の喪服っぽいものだけど、ドクロの紋章とかはついていない。
「ナラカンって墓地の守り神みたいな存在だからね」
そう言うとクロエさんは受付っぽいところで話しを聞きに言った。
クロエさんと一緒に、そのまま待つことしばらく……。
「この地区に、クルミの木を植えている墓地はありませんね」
との返事だった。
「いきなりアタリはないか」
つい、ため息が出た。
「アタリだとしても、他も確認しないとダメじゃない」
「そうでした」
一ヶ所だけとは限らないもんな。
……あれ?
「そうだ。〈都〉にはどのくらい墓地があるの? クロエさん」
今さらだけど気になった。
この〈都〉の人口は100万人くらいって前に聞いた。東京の1/10以下だ。
で、東京都にある墓地はたしか7つか8つだったような?
いや、あれは青山とか多摩とかの大きな墓地、霊園ってヤツだっけ。
お寺とかの墓地はかなりの数があるんじゃないか?
「大きな共同霊園は8つね」
クロエさんが言う。
「それなら今日中に回れるか」
よかった。何十ヶ所もあったら大変だった。
「小さいのは1,500くらいかなぁ?」
「せ、せんごひゃくう?」
思わず、裏返った声が出た。
「これでもだいぶ減ったのよ。国営の大きな霊園が出来たから」
1,500…って!
オレは目の前が真っ暗になった。
全部調べるのにどれだけかかるんだ? 1ヶ月や2ヶ月で終わらないぞ。
オレが立ちつくしていると、
「ホント、ソータっていい顔するわね」
クロエさんがくすくす笑った。
「すべての墓地はナラカンの神殿が統括管理しているから、今みたいに各ブロックの神殿に聞いて回ればいいのよ」
あ、だからクロエさんはここに連れて来たのか。
「ブロックは全部でいくつあるの?」
「23コ」
「よかったぁ……」
一日で回りきれる数じゃないけど1,500よりぜんぜんマシだ。
「最初に言ってくれればいいのに」
安心したのでクロエさんに文句を言う余裕が出来た。
「最初に墓地の数を聞かれたから、答えただけよ」
クロエさんが笑って言う。
その顔、絶対、ワザとだ。このいたずらっ子め。
「次行くわよ」
先に立って歩いて行くクロエさん。
オレは肩をすくめ、その後を追った。
2
次のナラカンの神殿へは舟を使った。
この〈都〉は水路が発達していて、タクシーや軽トラ代わりをしている舟がある。
ラクするためじゃないぞ。早く移動するためだ。
「3,900円になります」
「為替手形でおねがいします」
為替手形というのは、いわゆる小切手だ。今日はこういうこともあるだろうと思い、用意してきた。
船頭に魔捜研の身分証を見せて、金額とサインした為替手形を渡す。
「まいど」
受け取ったほうは、銀行にこの手形を持ち込めば換金してもらえる。そして銀行から魔捜研に為替の写しと請求書が届くという仕組みだ。アナログなクレジットカードみたいなものだね。
舟を下りたオレとクロエさんは、この地区のナラカン神殿へと向かった。
しかし、この地区にもクルミの木がある墓地はなかった。
オレたちはまた舟に乗り、3つ目のナラカンの神殿へと向かった。
ここもハズレだった。
「そろそろお昼だね」
4番目のナラカン神殿に向かっていると腹の虫が鳴った。
「どんなお店がお好み?」
クロエさんが言った。
「この辺りはアタシの縄張りだったの。希望のお店があるなら案内するわよ」
「縄張りって…ああ、葬儀屋の」
クロエさんはネクロマンサー。魔捜研に参加する前は葬儀屋をしていた。その頃は、この地区に住んでいたのか。
あれ?
前からやって来た通行人が、いきなり不愉快な顔になり、道の端に寄った。
あ、まただ。
何人もいる。オレたちを見て、避ける人たちが。
……あ。
クロエさんか。
クロエさんはネクロマンサー。
死体を扱うのが仕事だから、忌み嫌う人がいるんだっけ。
ネクロマンサーは、みな青みがかった灰色の肌をしている。
死霊魔法は体質で、その使い手はみなこういう姿になるという。だからネクロマンサーだと一目でわかってしまう。
クロエさんは慣れているのか平気な顔をしているけど……。
露骨にクロエさんを避ける人たちに、オレはハラが立った。
「そうだ」
いきなりクロエさんが言った。
「知り合いが近くにいるから寄ってみない? 手掛かりがつかめるかも」
「クロエさんの知り合いというと葬儀屋関係?」
「そんなとこ」
ふむ…現場のひとの声を聞くのもいいかもしれない。
別の手掛かりとか、噂とか教えてもらえるかもしれない。
「ていうかクロエさんって友だちいたんだね」
言ってから、しまったと思った。
ネクロマンサーは嫌われ、差別されているんだった。たった今も見たばかりじゃないか。なのにオレは…!
「ネクロマンサーにも友だちくらいいるわよ。少ないけどね」
「いや、クロエさんって性格がアレだから」
あわててフォローにもなってないことを言ってしまうオレ。
「性格がアレって…どういう意味かなぁ?」
「うわっ!」
いきなりヘッドロックされた。
胸! クロエさんの大きな胸が顔に当たっている!
「うりゃうりゃ♪」
「こういうとこ! こういうとこだよ!」
パニックになってオレは騒いでしまう。
通りのまん中で騒ぐオレたちを通行人や店の人たちが呆れた顔で見ている。
うぅ…色んな意味で恥ずかしい思いをしてしまった。
けど…。
微妙な空気にならなくて、オレはほっとしていた。
この世界では、生き物は物質である肉体、半物質の霊体、エネルギー体である魂体からなっている。
死ぬとは魂魄──霊体と魂体が一体になったものは肉体から離れる。霊体は分解、消滅し、魂体は上位世界にゆき世界と一体化する。
そんなわけで死後の世界というのはありません。
墓地は死体を処分する場所であり、故人を偲ぶで場所である。ナラカンはその守り神というわけです。
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