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#3-3.臨場、ニューロック屋敷

【まじらぼ 前回までは】

大富豪ニューロックの二代目当主ブライズが誘拐された。誘拐したのはゾンビを犯罪に用いる歩く死人団。ソータたち魔捜研は捜査を開始する──



      1



「うわ……」


 馬車を見てオレはうめいてしまった。


 ニューロックの屋敷。その庭に誘拐されたブライズ氏が乗っていた馬車があった。


 豪華だけど頑丈そうな馬車。その馬車の、片側のドアが引き剥がされている。ブライズ氏を誘拐したゾンビたちがやったのだ。


「ゾンビって力強いの? クロエさん」


 映画なんかだと、数こそ力みたいな感じで、あまり腕力がある感じじゃなかったような。


「生前の身体能力が基本になるから、バラつきはあるけど、ウマかクマくらいのパワーはあるんじゃないかな」

「そんな強いの!?」


 人の形をした猛獣じゃないか。おっかねぇ。


 話している間に、サミちゃんがフォトクリスタルで馬車の内外を撮影してゆく。

 前の事件でも使っていた、プロジェクターにもなる魔法のカメラだ。


 見た目はレモンくらいの大きさの多面体のクリスタル。デフォルトでは水平・垂直360度の空間を撮影する。個別の対象を撮りたい場合は、クリスタル越しに対象をのぞき込み、多面体のどこかをなでるのだ。

 カメラを構えるポーズは似ているけど、シャッター音はしない。機械パーツは一切ないからね。


 ちなみに撮影した映像はクリスタルに直接記録される。この世界ではフィルムカメラより前にデジカメが誕生したというわけだ。


「微物と指紋の採取はじめます」


 サミちゃんは長い青色の髪をペン1本でくるくると頭の後ろでまとめる。ドジっ子だけどこの子は器用なんだよね。


「きゃあっ!」


 と思ったそばからコケた!


「あぶない!」


 とっさに抱きとめる。

 すぐ近くにいてよかった。あやうくサミちゃんの顔が馬車のシートに激突するところだった。

 それにしても……。


 ……女の子ってやわらかい。


 いけない場所をさわっているわけじゃない。

 なのに感動的なやわらかさだ。

 それに髪をアップしたことで普段見えない、彼女の白い首筋が露わになっている。そこにもドキドキしてしまう……。


「ありがとうございます」


 はっ! サミちゃんの声で我に返った。

 胸とかおしりとかをうっかりさわらないよう注意して、彼女が立つのを助ける。


「またコケちゃいました」


 えへへ、と笑うサミちゃん。


 その笑顔に、ちょっと罪悪感。


 それにてしも…オレはかなりドキドキしているのだけど、サミちゃんはなんにも意識していない様子だ。

 それは彼女がピュアだからなんだろうけど……。

 オレを男と見てないような気がして、ちょっとモヤる。


「気をつけてね。証拠品の中にサミちゃんの髪とか入ったら大変だからね」

「は、はいっ! 気をつけます」


 モヤる心を隠す注意の言葉に、サミちゃんはまじめに返事する。

 また、ちょっと罪悪感。


「よろしくね、サミちゃん」


 馬車の証拠採取はサミちゃんに任せ、オレとクロエさん、のじゃ子さんは、ペイジの案内で屋敷の中に入った。



     2



「これがニューロックのお屋敷……」


 屋敷に足を踏み入れたオレは、思わずつぶやいた。


「どうしたのじゃ? ソータ」


 のじゃ子さんがオレを見上げて聞いた。


「なんか想像してたのと違ったなって」


 ──ニューロックは〈都〉で有数の大富豪。


 そう聞いていたから、てっきり屋敷の中は金ピカ、豪華絢爛、贅沢三昧なものだと思っていけど、そんなことはなかった。


 たしかに広いけど、シンプルで落ち着いた雰囲気だ。


「真の金持ちは無駄に飾ったりはせぬのじゃ」


 なるほど。素材とかデザインとかにカネがかかっているってことか。


「ここだ」


 ペイジがドアを開けたその部屋は、イスやテーブルが積まれた物置だった。パーティなんかの時に追加で出すイスとかだろう。


 その部屋のまん中に、シーツがかけられた死体──脅迫状を持って来たゾンビがあった。


「これがメッセンジャーゾンビか」


 クロエさんはそう言うと、シーツをはいだ。


「うわ……」


 顔の半分が腐っている死体に、オレはうめいてしまう。

 そんなオレを見て、クロエさんはニっと笑うとゾンビを検め始めた。


 死体に顔を寄せ、見て、においを嗅ぎ、触って確かめる。

 本職だからだけど、よく平気だよな。


「服装がちぐはぐじゃな」


 同じく、平気な顔をしたのじゃ子さんが言う。


「上衣はかなり上等なもの。じゃが下は労働者がよく着るものじゃ」

「上衣はさらわれたブライズ氏のものだ。奥さんたちが証言した」


 ペイジが言う。

 こいつも平気な顔をしている。この部屋で死体を見ても平気じゃないのはオレだけだ。


「なるほど。脅迫状だけでは誘拐した証しにはならんからな。メッセンジャーゾンビに上衣を着せて届けたわけか」


 のじゃ子さんがうなずく。

 服からこのゾンビだった死体の身元を調べるのは無理か。


「気分悪ぃのか?」


 ペイジがオレの顔色が悪いのを見つけた。


「無理すンな。気分悪ぃなら外出てろよ」


 からかわれるかと思ったら心配された。


「大丈夫だ。オレは主任研究員だからな」


 やせ我慢する。ペイジが相手だと、心配されるほうがシャクだ。


「これは自然死──多分、病気で死んだ死体ね」


 死体から顔を上げ、クロエさんが言った。


「病死? どういうことでい?」


 ペイジが尋ねる。


「この死体は、ゾンビ化するために殺されたんじゃないってこと。多分、病気で死んで葬られた死体を掘り出して利用したのね」

「ゾンビにするために殺されたわけじゃないのか」


 それを聞いて、オレはちょっとほっとした。



ゾンビは作品によって微妙に能力が異なりますよね。

ノロノロ歩くのが一般的ですが全力疾走してくるのもいる。

怪力だったり、身体バラバラにしてもまだ動いてるのもいたり。

噛まれた人間もゾンビになるのは今や定番ですが、ブゥードゥーのゾンビはそんな設定なくて、そもそも死んだ相手を働かせることで侮辱するという、ヒネった復讐だったとか。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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