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#3-1.大富豪誘拐

【まじらぼ 前回までは】

主人公ソータはファンタジーな異世界に転移。刑事ドラマの知識を駆使して魔法で科学捜査する、科捜研ならぬ魔捜研の主任研究員となる。魔法使いヒロインたちに護民兵ペイジも加わり、殺人事件そして冤罪をかけられた人たちを助けるのだった──



     1



「脱いで」


 魔捜研のラウンジでクロエさんが言った。


「いや、でも…いいのかな?」

「アタシじゃダメ? サミちゃんがいいわけ?」


 ためらうオレにクロエさんが距離を詰めてきた。


 クロエさんはネクロマンサー。青みがかった灰色の肌をしているのだけど、その身体を覆うのは水着か下着かっていうくらい布面積の小さな服。


「いえ、そういうわけでは」


 豊かな胸の谷間から、オレはなんとか目を逸らした。


「ならアタシに任せなさいって。大丈夫、すぐに終わるから」

「じゃあ、お願いします」


 不安に思いながら、オレはシャツのボタンを外した。そこに──


「呼びました?」


 ひょっこりとサミちゃんが顔を出した。 

 青い長い髪。大きな目の癒やし系のかわいい女の子だ。

 16歳と若いけど、優秀な錬金術師である。


「オレのシャツ、袖のとこが破れてさ」

「アタシが縫ってあげることにしたの」


 なんか不安だけど、オレは脱いだシャツをクロエさんに渡した。


「クロエさん、お茶は?」


 ティーセットの乗ったお盆をテーブルに置いてサミちゃんが尋ねる。


「これ縫ってからもらうわ」


 そう言うと、クロエさんはベルトポーチから針と糸を取り出した。


 女子のタシナミってやつか?

 クロエさんがソーイングセットを持ち歩いてるとは思わなかった。


 でも、その針は釣り針みたいに曲がっている。

 ここは異世界。こっちではこれが普通なのだろうか?


 すいすいと針を使うクロエさん。

 リズミカルに、途切れることなく、クロエさんの針が袖のほつれを縫って行く。


 その巧みさに、オレは見とれてしまった。

 妖艶で皮肉屋でいたずらっ子なクロエさん。その新たな一面を見た気がした。


「ソータさん、お茶いかがですか?」

「うん、もらうよ。サミちゃん」


 サミちゃんの淹れてくれたハーブティーをもらう。

 今回はミントティー。レモングラスとかもブレンドされている。


 異世界に飛ばされて、魔法で科学捜査する研究所で働くことになって一ヶ月ほど。

 この世界にもハーブティーにもすっかり慣れてきたなあ。

 と、思っていたけど──


「そう言えば、明日、広場で公開処刑があるんだって」


 郵便受けに、役所から届いた書類と一緒に処刑のお知らせチラシが入っていたのだ。


 罪人の処刑を広場で行うこともそうだけど、それが地元商店街からのお知らせみたいなノリで届くことにオレは驚いた。


「じゃあ、明日お弁当作りますね」

「へ?」


 サミちゃんがにっこり笑って言う。


 サミちゃんはちょっとズレてるとこがある子だけど、どうして公開処刑の話題でお弁当が出て来るんだ?



    2



「アタシも作ってもらおうかな」


 袖をかがりながらクロエさんが言った。


「外で買うと高いですからね」


 この二人は、何の話しをしてるんだ?


「何故に公開処刑でお弁当?」


 わけがわからない。

 もしかして、こちらの言葉を翻訳する〈スパイク〉の不具合か?


「見物に行くんじゃないの?」


 クロエさんがきょとんとしてオレを見た。


「えっ、見物って処刑を?」

「違うんですか?」


 サミちゃんまで不思議そうにオレを見ている。


 オレは、ようやく理解した。


「こっちでは、処刑を見物に行くのが普通なの!? その上、もしかして娯楽の一種とか?」

「娯楽っていうか、お祭りみたいなもの? 見物人目当てに焼き菓子とか串焼きとか飲み物が売られるし」

「そういうの、ちょっとお高いんですよね」


 オレは言葉を失ってしまった。


 この世界には人権がない。

 あやしいヤツは、取りあえず捕まえて拷問、口を割ったら即、処刑。


 その処刑を人々がお祭りみたいに見物にくるなんて!


「ソータさんの世界では違うんですか?」


 サミちゃんが不思議そうな顔で聞く。


「ああ。違うよ」


 やさしいサミちゃんでさえ、公開処刑はエンタメという価値観である。


「異世界こぇええ……」


 異世界で暮らして一ヶ月ほど。

 慣れたと思ったけど、こういうところにはまだ慣れない。


「はい、できたわよ」


 話している間に、クロエさんの袖かがりが終わった。


「ありがとう」


 微笑むクロエさんに、ちょっとドキドキしてシャツを受け取る。


「縫い目ちょっと不揃いだけど。そこはご愛敬ってことで」

「いえ、キレイにできてますよ」


 少し不揃いだけど、気になるってほどじゃない。むしろ人間味というかあたかみがあって、なんか嬉しいまである。


「クロエさん、裁縫お上手だったんですね」

「プロ並みですよ」

「誉めすぎよ」


 シャツを着ながら言うと、クロエさんは照れたように言った。


「針仕事は死体縫うので慣れてただけだから」

「し、死体?」


 ボタンをとめる手が止まった。


「変わった針だと思ったら、葬儀屋さんで使うものだったんですね」

「そ、遺体をキレイに整える用よ」


 サミちゃんに答えると、クロエさんはハーブティーを口にした。


 クロエさんはネクロマンサー。この世界ではネクロマンサーは葬儀屋をしている。


 つまりこの袖をかがったのは、ご遺体を縫っていた針…!


 ゾゾゾ…と悪寒が走った。


「おう、みな揃っておるな」


 そこにのじゃ子さんが顔を出した。


 見た目は10歳くらいだけど実は500歳以上のドエライ魔法使いだ。

 大賢者の称号を持ち、このラボの所長でもある。


 のじゃ子さんの手には、黒と白の封筒があった。速達のメールバードだ。


「たった今届いた。やっかいな事件が起きたぞ」



     3



「やっかいな事件?」

「また殺人?」


 勢い込むオレとクロエさんに、のじゃ子さんは、


「まあ待て」


 と、オレたちを制してソファに座った。


「まず事件じゃが。服作屋ニューロックの当主ブライズが誘拐された」

「服作屋って?」

「服を作るのと販売、その両方を行うお店です」


 サミちゃんが教えてくれた。

 オレたちの世界のアパレルメーカーみたいなものか?


「ニューロックは服作屋の中でも特異な存在でな。安価な服の大量生産という革命を起こし、それによって〈都〉でも屈指の大富豪となったのじゃ」


 のじゃ子さんの説明によると、20年くらいまで、服は高価な品だったという。糸、布そして縫製すべてが手作業だからだ。


 庶民が服を買うのは年に一度か二度。それも基本、古着だった。

 そのくらい、衣服というのは高価だったのだ。多少の破れやほころびは、継ぎを当て、繕って、長く大事に着ていた。


 ニューロックは、魔法で糸、布の生産から縫製までを自動化、大量生産に成功。値段を1/10以下にしてしまった。


 異世界版の産業革命だ。そしてニューロックは服の量販店というわけか。


「ニューロックって〈都〉で五本の指に入るお金持ちよね。身代金の額も高そうね」


 ワクワクしてクロエさんが言う。


「身代金は42億円。王国はじまって以来の金額じゃ」

「42億ってなんかハンパだな。ていうか円!?」


 思わず、声を上げてしまった。

 異世界の通貨が日本円って聞こえたんだけど?


「驚くことはない。昨夜、お主が寝ている間に〈スパイク〉をアップデートしたのじゃ。こちらの言語、文字をより自然に理解できるようにな」


 ああ、それでか。

 そういや某スタンド漫画でも、舞台はイタリアなのに通貨は日本円で表現されてたっけ。あれみたいなものだな。

 金額が半端なのも日本円に当てはめたからで、こっちでは切りの良い金額かもしれない。


「いやそれより、人が寝てる間にアップデートって」

「思いついたのが夜だったのじゃ。起こすのは気がひけたからの」


 気を遣ってくれたのかもしれないけど、勝手に頭イジられるのはこわいんですけど。

 この幼女な大賢者はマッドサイエンティストみたいなところがある。


「ニューロックならその金額は妥当って感じだけど、そんな大金、持ち運ぶだけでも大変じゃない?」

「金塊でも何百キロという重さになるじゃろうな」


 オレの不安なんかこれっぽっちも気にせず、クロエさんにのじゃ子さんが答える。


「ここがこの誘拐犯が特異な点じゃな。おそらく身代金は死体に運ばせるのじゃろう」

「「「え?」」」


 のじゃ子さんの言葉に、オレ、クロエさん、サミちゃんの声がハモった。


「脅迫状を届けたのは死体──ゾンビじゃった」

「のじゃ子さん、それって……」

「うむ。この事件、ネクロマンサーが絡んでおるぞ」



怪奇なアバンからのラブコメ。

コレが本作のカラーです。


3話(章)は誘拐事件。

ゾンビそして異世界の産業革命?という内容となります。

乞うご期待!


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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