#3-0.恐怖の襲撃
まじらぼ 3話(章)のはじまりです。
今回は約5万文字。
よろしくお付き合いのほどを。
その日、服作屋ニューロックの二代目当主ブライズは、王宮での商談を終えて帰宅の途にあった。
時刻は夜から深夜へと移ろうかという頃。
光魔法の白い街灯が照らす石畳の通りを、ブライズを乗せた馬車が行く。
豪奢な黒塗りの馬車である。しかもそれを牽くのは本物の馬だ。
ゴーレム馬の普及から50年以上。今や〈都〉で本物の馬に馬車を牽かせるのは貴族か、よほどの金持ちに限られていた。
ニューロック家は、その、よほどの金持ちの代表であった。
城門を出た馬車は、水路沿いの道をサンブリッジ通りにあるニューロック本店へと向かう。
城門の近くには飲食店はおろか住居もない。
街の中心部はいまだ人々で賑わっているが、この辺りは道行く者すらおらず、別世界のように深閑としていた。
突然、馬がいなないて馬車が急停止した。
「どうかしましたか?」
ブライズが御者に声を掛けた直後、馬車がガタガタと揺さぶられた。
大勢の人間が馬車を取り囲み、揺さぶっているのだ。
激しい揺れに、ブライズは天井にある取っ手にしがみついた。
強盗団か? それとも暴徒か?
しかし馬車を揺さぶる襲撃者たち無言だった。
かけ声も、熱狂した声も上がらず、無言で馬車を揺さぶっている。その沈黙がいっそう不気味だ。
ばきっ! と蝶番が弾ける音がして馬車の扉がはぎ取られた。
はぎ取られた扉の向こうから濃密な土のにおいがする。
闇の中から2本の腕が伸び、車内に入ってきた。
襲撃者の腕がブライズに触れた。その手の冷たさに、ブライズはぞっとなった。
「放せっ! 放せぇええっ!」
振り払い、蹴り飛ばしてブライズは必死に抵抗した。だがそれも長くは続かなかった。
さらに何本もの腕が闇の中から伸びてきたのだ。
冷たい腕、腕、腕がブライズの腕を、足をつかむと彼を馬車から引きずり出した。
そして──
× × ×
翌朝、ニューロックの屋敷に一人の男が訪れた。
応対に出た若い使用人は、この訪問者に違和感を持った。
上衣は上等なものなのに、はいているスラックスはニューロックが販売している庶民向けの安物で、かなりくたびれている。
目深にかぶった帽子で顔はよく見えないが、だらしなく口を開けているように見えた。
「御用ですか?」
尋ねた使用人に、訪問者は二つ折りにした紙を差し出した。
何かのメモ、伝言だろうか。
開いて中を見た使用人は仰天した。
そこには、ニューロックの二代目当主ブライズを誘拐したこと、そして身代金を用意せよと書かれていたのだ。
「お、お前、旦那さまをさらった一味か!」
メモを手にしたまま、使用人は訪問者の胸ぐらをつかんだ。
その直後、訪問者は糸が切れた人形みたいにくずおれた。
倒れた男の帽子を取り、その顔を見た使用人は肝を潰した。
「し、ししし死体だぁ!?」
脅迫状を持って来たのは、顔の一部が腐敗した死体だったのだ。
これが〈都〉屈指の大富豪、ニューロック誘拐事件のはじまりだった。
怪事件からのスタート!
次話より本編スタートですよ。
お楽しみに!
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