#2-18.時間稼ぎの現場検証
【まじらぼ 前回までは】
下足痕の照合で、酒飲みコールの容疑は晴れた。ほっとしつつも、容疑者が誰もいなくなったことに頭を抱えるソータ。しかし翌日、被害者の妻・サナさんが逮捕されたと連絡が──
1
「サナさんが逮捕された? なんで?」
サナさんは殺されたヨナさんの奥さんだ。
彼女には殺害時にアリバイがあったはずだ。
「事件の夜、サナさんを神殿で見たって証言したヤツがいたろ」
「ミルトン…だっけ?」
仕事にあぶれて、神殿で世話になっているという男だったよな。
「そのミルトンが、あの夜見たのはサナさんじゃなかったって証言を翻したんだ」
「どうして急に…!」
朝食の準備をしていたサミちゃんが声を上げた。
のじゃ子さん、クロエさんもキッチンから出て来て、ラウンジに集まる。
「シーマンの野郎だ」
ペイジが吐き捨てるように言った。
「誰?」
「詰め所で会ったろ? エラぶってた護民兵が」
あいつか。三人組の護民兵、そのリーダー格のヤツ。
「シーマンがミルトンを脅して、証言を取り消させたんだ」
「なんでそんなこと!?」
「手柄のためね」
クロエさんが言う。
「手柄のために犯人をでっち上げるってこと? そんなことあるの? だって殺人は死罪でしょ!」
この国の法律では殺人は死刑だ。
それを知りながら、犯人をでっち上げるのか?
「処刑された人間の四割くらいは無実みたいよ」
淡々と、そしておそろしいことをクロエさんが言った。
「葬儀屋──ネクロマンサーの間じゃ有名な話しよ。処刑された人の死体を処理するのも仕事だからね。で、試しに霊を呼び出して聞いてみると四割くらいは言うのよ。自分は無実だって」
「ほんとうですか?」
「ちゃんと統計とったわけじゃないから、4割っていうのは体感的なものだけどね。アタシも試したら、ちょくちょくいたわよ。自分はやってないって恨み言を言う霊が」
「四割が冤罪って…! そんなことが許されるのか? 霊は無実だって言ってるのに!」
驚きと怒りで声が大きくなる。
ありえないだろ、こんなこと。
「許可無く死者の霊を呼び出すのは違法だからね。それにアタシらネクロマンサーが何言っても、捏造、狂言、カネ目当ての脅迫って言われるのがオチよ」
そうだった。この国ではネクロマンサーは忌み嫌われ、差別されていたんだ。
「それと、冤罪と分かっても、捜査に関わった者を罰する法がないことも理由じゃな」
のじゃ子さんが言う。
「冤罪をやらかしても処罰する法がない。だから罰せられない」
「騎士団──特に護民兵には手柄や手当て目当てに、誰彼構わずしょっ引いて、無理矢理罪を認めさせる輩が多いンんだ」
のじゃ子さんに続いてペイジが言う。
「市民のほうにも問題はあるのじゃ。犯人が早く捕まるなら、冤罪があっても構わない。そう考える者は少なくない。事件が凶悪なほど、その傾向は強いのじゃ」
「その人たちは、自分が間違って逮捕されちゃうかもって考えないんですか?」
サミちゃんが手を上げて尋ねた。
「考えないんじゃろうな。──50年ほど前、通り魔による連続殺人があった。真犯人が捕まるまで4人が冤罪で処刑されたが、特に問題にはならなかった」
オレは、もう、言葉もなかった。
昨日は、こっちの世界もオレらの世界も同じだと思った。
でも、大間違いだった。
──人権がある世界とない世界は、あまりに違う。
治安を守る人間の意識も、人命の重みも、何もかも違う。
まさに異世界だ。
2
「で、どうするのじゃ? ソータ」
「えっ?」
のじゃ子さんの声で我に返った。
「このままじゃサナさんは拷問され、下手人に仕立て上げられちまう! いい考えはねぇか?」
ペイジがオレに詰め寄る。
そうだった。
今はサナさんを助けることを考えないと。
でも、どうやって?
この手のシチュ、ドラマではどうにかして真犯人を見つけるんだけど、オレたちの事件は真犯人どころか有力な容疑者もいない。
今から聞き込みとかして容疑者を見つけるにも時間がない。
時間…時間があれば……。
「……時間を稼ごう」
「「「え?」」」
のじゃ子さんたちの声がハモった。
「現場検証だ。殺害現場をサナさんに確認してもらうんだ。無くなった物、不自然な物、そういうものがないのか、そういうのを調べるんだ」
「なるほど! そいつを名目に取り調べを待ってもらうって寸法だな」
ペイジがうなずく。
「本当なら、事件直後にやることなんだけど。色々あってすっかり忘れてた」
こういうところやはり素人だな、オレたち。
しかし今はそれがチャンスでもある。
「はじめての殺人事件だもんね」
珍しくクロエさんがオレを労るように言ってくれた。
「時間稼ぎでしかないけど。これで一日…うまくすれば数日、サナさんへの取り調べは止められる」
「その間に、真犯人を見つけるんですね」
「そうだ」
サミちゃんにオレはうなずいてみせた。
「では、わしが騎士団に話をつけに行こう」
空中に光るルーン文字を描きながら、のじゃ子さんが言う。
「奥さんを現場に連れて来るよう頼んでください」
「うむ」
うなずいて、のじゃ子さんがフィニッシュの二本線を引いた。床に、光る転移門の魔法陣が現れた。
「おお、そうじゃった」
転移の魔法陣の前で足を止めたのじゃ子さんは、肩掛け鞄から小さな鳥の人形を取り出した。
「前に話していたブツじゃ。持って行け」
と、投げてよこすのをキャッチする。
「これがですか?」
大きさは15センチくらい。頭でっかちなフクロウの人形だった。金色の金属製だからロボットみたいである。見た目に反してとても軽い。足の下に金属のピンみたいなものがついている。
「では後でな」
そう言うと、のじゃ子さんは光る魔法陣の中に消えた。
謎アイテム、金色の眼かフクロウが登場!
モデルは『タイタンの戦い(ハリー・ハウゼン版)』のブーボです。
さて、物語はいよいよクライマックス。
ソータたちは見事冤罪を晴らし、真犯人を見つけられるのか?
乞うご期待!
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