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#2-14.マウント合戦、異世界にないもの

【まじらぼ 前回までは】

容疑者コールと被害者の妻・サナさんが密会していた? コールを捕らえるため、ソータとペイジは被害者宅を見張ることに──



     1



「……よく考えたら、なんでオレが張り込みに付き合わなきゃならないんだ?」


 張り込み場所の路地に入ってから、オレはそれに気づいた。


 オレは鑑識ポジだ。

 それが気づいたら、犯人追っかけたり、張り込みしたりしている。CSIマイアミは鑑識の人たちが張り込みや銃撃戦とかしてたけどさ。


「人手が足りねぇンだよ。それにヒマしてんだろ?」


 たしかに。


 サミちゃんはルミノール液の改良。クロエさん、のじゃ子さんも分析や文献調査がある。

 魔法使いじゃないオレだけラボで仕事がない。


「ほら、そこだぜ」


 ガイシャと奥さんの家は、事件現場の酒場『歌うクジラ亭』の裏にあった。


 オレとペイジは、家と酒場の裏口、その両方が見える場所──建物と建物の間の隙間に潜り込み、見張った。


 張り込んでから1時間が過ぎた。


 誰もやって来ない。


 …………2時間が過ぎた。


 コールは現れない。通行人が数人、通りかかっただけだ。


「来ないな……」

「もう音を上げんのかよ。ソータはガマンが足りねぇな」

「ガマンっていうか、ヒマっていうか……」


 ほとんど誰も通らない裏通り。

 そこでただ見張っているだけでは緊張感が続かない。ていうか飽きてきた。


「……ソータの世界ってどんなだ?」


 突然、ペイジが聞いてきた。


 なんだコイツも飽きて来たのか。

 でも退屈しのぎにはちょうどいいか。


「アタイらの世界じゃ魔法が発達してない国は遅れてるって言われる。マロウドは魔法がない世界の人間だって相場が決まってるからさ。どんな不便な世界だろうって気になって」


 こっちの世界は魔法文明の世界。

 文明/テクノロジー=魔法だから、魔法がない国は文化、文明のレベルが低いって認識になるわけだ。


 それはともかく、微妙にマウントとってるように感じるのは気のせいか?


 ようし…魔法文明と科学文明、どっちの世界が優れているか勝負してやろうじゃないか!


「オレたちの世界には魔法の代わりに科学がある。魔法と違う法則でテクノロジーと文明を発展させて来たんだ」

「どんなテクノロジーだ?」

「そうだな…馬車の代わりに、石油で動くエンジンって機械が車を動かしている。船も同じだ。あとは電気だな」

「電気? 雷か?」

「ああ、雷の力を生み出したり、溜めたりする技術がある。それで家の照明から、エレベーター、電車を動かしたりしている」

「デンシャってのはなんでい?」


 ペイジが目をぱちくりさせた。


「そっかぁ、こっちの世界には電車ないんだ」

「なんだそのムカつく口調は? いいからどんなモンだか説明しやがれ」


 お、これはオレたちの世界の勝ちか?


 ふふふ…ようし、科学文明のすごさを教えてやろう!



     2



「電車ってのは、鉄のレールを走る大きな箱の車なんだ。一台に何十人と乗れる車を十両、何十両ってつなげて、一度にたくさんの人を運べるんだ。貨物──荷物専用のヤツもあって、そいつは1キロも2キロもの長さにもなるんだ」


 まあ日本の貨物列車はそこまでの長さじゃないけどさ。


 ちなみにキロとかの単位はオレの頭に刺さっている〈スパイク〉でこっちの単位に翻訳され、ペイジに伝わっている。


「なんでい、大したことねぇな」


 な、何だと?


「車をアホみたいに繋げて野を越え山越えて運ぶなんて効率悪いだろ。ていうかレール敷くのにどんだけ鉄使うんだ? 無駄すぎんだろ」

「ぐぬぬ…じゃあ、こっちではどんな大量輸送やってんだよ?」

「テレポートゲートだ」


 テレポートゲートって、前にのじゃ子さんが作り出したヤツ?


「郊外に大きな広場くらいのゲートがあってさ。一度に馬車を何十台も転移させるってシロモノだ。歩いて百日の道も一瞬だぜ」

「マジでぇ!?」


 そんなものがあるなら列車とか飛行機とか必要ないな。

 見かけないのは、必要ないから存在していないのか。


 どうもこっちの魔法文明のほうがオレたちの世界より上だな。ファンタジーものの異世界ってどこもこうなのか?


「人口は? ソータの国にはどんくらいの人間が住んでるんだ?」


 ふふんって顔でペイジがこっちを見ている。


「……1億2千万人くらいだけど?」


 負け確と覚悟しながらオレは答えた。

 魔法のある世界じゃ食料生産も医療もきっとすごいハズだ。


「い、いちおくぅ!? マジでか?」


 と思ったら、ペイジが仰天していた。


「この国の人口は?」

「2千万くらい…これでも大陸では多いほうなんだぞ!」


 ぐぬぬぬ…という顔でペイジが答える。


 フフフ、いい顔だぜペイジ。

 まさか人口でマウント取れるとは思わなかったな。


「他に、こっちの世界にないものはあんのか?」

「そうだな……」


 ヘタなものではまた負けるかもしれない。

 オレたちの世界にあるもので勝てるものを考えないと。


「こっちの世界とあっちの世界、その一番の違いは……」



     3



「こっちになくてオレたちの世界にあるもの。──それは人権だ」

「ジンケン? こういうのか?」


 グー、チョキ、パーとじゃんけんをしてみせるペイジ。

 なんでファンタジー世界にじゃんけんがあるんだよ? いやそれより人権だ。


「人権っていうのは、人が人らしく生きるために生来持っている権利で……」


 教科書的な答を言おうとしてやめた。これじゃ伝わらない。


「オレの世界──国では、あやしいヤツってだけで捕まって拷問とかされない。裁きの場では証拠の提出と確認が必要だし、裁かれる側も弁護人っていう法律の専門家を応援につけることができるんだ」


 そう。オレがこっちの世界で痛感したこと。それは──


 ──人権がないのはおそろしい。


 ということだった。


 あやしいヤツってだけで牢屋に入れられて、罪を認めるまで拷問。

 冤罪だったとしても責任を取るヤツはいない。いや悪いとさえ思わないんだ。

 人権のあるなしは、生死に関わることなんだ。


「それは平民でもか?」


 ペイジが聞いた。


「そうだ。誰でも、この権利を生まれながらに持っているんだ」

「それはすごいな」


 どうだペイジ! これはオレの世界の勝ちだろう! オレは心の中で叫んだ。


「人権があるなら冤罪はないんだろうな。無実の人間が罰せられることはないんだろう」


 そう言ったペイジの顔を見た途端、オレの勝利の快感はしぼんでしまった。


 そうだった。

 ペイジの親父さんは、無実の罪で追放刑にされたって……。


「残念だけど、オレの世界でも冤罪はあるんだ」

「なんで?」


 怒ったようなペイジの顔。なんでって言われても……。


「捕まえるのも、裁判するのも人間だから…だと思う。間違い、勘違いもあるし、手柄や保身のために冤罪が生み出されることもある」

「そっちの役人も腐っているのがいんだな」


 残念そうに、でもちょっとほっとしたようにペイジは苦笑した。


「こっちの世界の役人も腐っているのか?」

「ああ、貴族、役人、大商人…山ほどいやがる」


 ペイジが重いため息をついた。


「どの世界にも悪いヤツがいる。どっちの世界も同じだな」

「ああ、同じだ」


 オレとペイジは同時に笑った。

 笑えない。でも笑うしかない。


「待った!」


 いきなりペイジが素に戻った。そして低い声で言った。


「誰か来たぜ」


 誰かって…まさかコールか?



張り込みシーンってつまんないんですよね。

動かないし、ただ待っているだけだし。

そこで、知り合ったばかりの二人がもっと知り合うための時間にしてみました。

ラブコメの定番。

いかがでしたでしょうか?


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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