#2-12.追跡、ゾンビー魚!
【まじらぼ 前回までは】
容疑者コールのアパートを調査中に本人が帰宅。逃げだしたコールをペイジが、そしてソータとクロエさんも追いかける──
1
前を走るコールが振り返ってこっちを見た。
指笛でオレたちに気づいんだ。
オレとクロエさんさんの姿を見たコールは、あわてて逃げ出した。
でもその走りはヨタヨタ、ヨロヨロと歩くより少し早い程度だった。
中年だし、不健康な生活してるから息が上がってきたんだろう。それに比べてこっちは若くて活きが良いんだ!
「はぁはぁ……」
と、ドヤりたいところだけど、オレとクロエさんも同じようなものだった。
すでに結構な距離を走っていたから息が上がっていたのだ。早足よりちょっと早いくらいの速度である。
オレもクロエさんもインドア派だからな。
歩くより少し早いコールと、早足よりちょっと早いオレたち。
その差はじりじりと、でも確実に縮まって行く。
あと少し…もう少し…!
そう思った時、進行方向に広い川が見えて来た。
川沿いには屋台みたいな小さな店がたくさん並んでいる。
この辺りはいわゆる下町で、移動・組み立て式の店で品物を売る人たちが集まっている。いわゆる市というやつだ。
「店じまい前だ。安くしとくよぉ!」
「さらってくれたら半値だよ!」
野菜売り、魚売りが声を上げている。
コールの背中まで、あと5、6メートル!
オレたちから逃げようとヨタヨタ走るコール。しかし彼の進行方向に、
「そこまでだ!」
ずざざざーっと足をドリフトさせてペイジが現れ、コールの行く手を塞いだ。
「お上の御用だ! 神妙にしやがれ!」
こん棒を抜いてペイジが叫ぶ。
コールは肩で息しながら、ペイジとオレ&クロエさんを見くらべた。
ヤツにはもう逃げ道ない。と、思ったのだけど──
「あっ!」
コールは、いきなり八百屋と魚屋の間に飛び込んだ。
露店のすぐ後ろは川だ。泳いで逃げる気か?
八百屋と魚屋の間に駆け込んだオレたちが見たのは、小舟を漕ぎ出すコールの姿だった。
「やられた!」
ペイジが地団駄ふんで悔しがる。
川をのぞきこんだけど、ぱっと見、近くにオレたちで動かせそうな小舟はなかった。
「こういう時に使える魔法ありませんか?」
「アタシはネクロマンサーよ。霊も死体もないのにどうしろと?」
お手上げ、と両手を広げるクロエさん。
「ですよね」
と、ため息付いたその時、魚屋に並ぶ魚が目に入った。
赤や青、大小の魚が、魔法で作られた氷の上に乗せられて並んでいる。切り身はなく丸のままの魚ばかりだ。閉店間際ということで全部で10匹ほどである。
「コレ、死体といえば死体だけど」
ぽろっとつぶやいてしまった。
「兄ちゃん! 間違っちゃいねぇが死体はねぇだろう死体は」
「すいません」
魚屋のおじさんにしかられ、オレは謝った。そこに──
「その手があった!」
クロエさんはニンマリと笑みを浮かべた。
妖艶…という言葉がピッタリの笑顔だけど、その目はイタズラっぽい。
……い、イヤな予感がする。
2
クロエさんは腰のポーチから小瓶を取り出し、呪文を唱えはじめた。
「生は仮初めにして肉体は器なり。虚ろなる器に、我、失われし魂魄を注ぐ」
ガラスの小瓶の中に、赤く光る液体が生み出された。
クロエさんがそれを魚屋の魚たちの上にふりまいた。
すると、魚屋に並ぶ魚たちがビチビチと動きはじめた。
ゾンビだ。魚のゾンビだ!
「わぁあああ!?」
「なんだこれ? なんだこれぇ!?」
魚屋のご主人はじめ周りにいた人たちから悲鳴が上がる。
「沈黙の掟はここに破られた。目覚めしものどもよ、我に従え!」
周りの悲鳴なんかおかまいなし、いや、むしろ嬉しそうに笑いながら、クロエさんは舟を漕ぐコールを指差した。
「行け! 捕らえよ!」
ビチビチビチビチ! 大小の魚ゾンビたちが跳びはねて川に飛び込んだ。
沈んだかと思いきや、すぐに水面に背びれを出し、コールの小舟を追いかける。
ゾンビというとヨロヨロゆっくり動くイメージだけど、このゾンビー魚たちはものすごい早さで泳いでいる。
水面を背びれで切り裂いて進むその様は、まるで小さなサメの群れだ。
岸から20メートルくらい離れたところで、ゾンビー魚たちがコールの舟に追いついた。
「かかれぇっ!」
クロエさんが命じ、ゾンビー魚たちが船尾でオールを漕ぐコールに襲いかかった。
「わぁっ? うわわぁっ!?」
川の中から襲いかかってきた魚の群れに、コールが恐怖の叫びを上げる。
そりゃこわいだろう。いきなり川の中から魚の群れが襲いかかり、手足に噛みついたのだから。
すぐにボートの速度が落ちた。
次々と襲いかかって来るゾンビー魚たちを払いのけようと、コールがオールから手を離したからだ。舟を進ませる水流の魔法が途切れ、ボートは惰性で進むだけだ。
「ひぃっ! ひぃいいっ!」
次から次に襲いかかるゾンビー魚に、コールが悲鳴を上げ、舟の上にうずくまる。
オレは、何かの拍子に動画サイトで見たピラニア映画の予告を思い出した。
「アレ、ケガとかしない?」
心配になってクロエさんに聞いた。
「大丈夫よ。ケガさせるような牙のある魚はいないから」
「そうなんだ。良かった」
見た目はこわい状況だけど、ケガしないならいいか。
……まてよ。
「いや良くない! コールがそれに気づいたら逃げられるよ!」
実質ダメージがないとコールが気づいたら、ゾンビー魚の攻撃なんか無視して舟を出すんじゃないか。
今の内になんとかしないと!
3
「舟! 舟はねぇか?」
ペイジが舟を探して声を上げる。
舟があれば、今ならまだ追いつける。その時──
「くっ!」
クロエさんが小さく呻いた。
彼女は人差し指と中指を揃えて立て、それをコールの小舟に向けている。その手が苦しそうに震えていた。
「クロエさん?」
「術の範囲が…そろそろ限界…!」
ゾンビを操る術って効果範囲があったのか?
見ればコールの舟と岸との距離は30メートルくらいになっていた。動力を切っても船はすぐには止まらない。惰性で進むからだ。
見ればコールに飛びかかるゾンビー魚の数が減っていた。10匹はいたのに、今コールを攻撃しているのは5、6匹くらいだ。
「あっ!」
コールが頭をかばいながらオールに手を掛けた。
ゾンビー魚の攻撃に威力がないと気づいたんだ。
たちまちボートが速度を上げて走り出す。ゾンビー魚が2、3匹飛びかかったけど、振り切られた。
クロエさんが大きく息を吐いた。
コールの舟が遠くに去って行く。もう追いかける手段はない。
「惜しかったな」
ペイジがクロエさんの肩をぽんぽんとたたいて労った。
「アタシもまだまだ未熟ね」
なんとか息を整えて笑うクロエさん。そこに──
「ちょっとあんたら!」
太い声がかけられた。
振り向くと魚屋の主人がこわい顔でにらんでいた。
「ウチの魚! 買い取ってくれるんだろな?」
あ、そうだった。魚屋さんの魚、全部ゾンビになって川の中だ。
「まだコントールできるから呼び戻すわね」
クロエさんがちょいちょいと、指で招くようにすると、水面にゾンビー魚たちの背びれが現れた。
「ゾンビになった魚なんか気味悪がって誰も買わねぇよっ!」
「ごもっとも」
魚屋さんに怒鳴れてしまった。その通りなので言い訳できない。
クロエさんが魔法を解除し、ゾンビー魚たちは川の中に沈んだ。
「ソータ、立て替えといて」
「オレが払うの? クロエさん」
「持ち合わせがないのよ。それにあんたのアイデアでしょ」
「えぇ~?」
幸い、閉店間際だということで魚屋さんはかなりオマケしてくれた。あとで魔捜研の経費ということにしよう。
出費以上に、容疑者のコールを逃がしたのはイタかった。
それにしても、コールは何故逃げたんだろう?
やっぱり、やつが犯人なのだろうか?
死んだあとの魚をゾンビ化したら、味はどうなるんでしょうね?
死後硬直が解けたり、乳酸とかなんやらが増えたりで、食感も味も落ちる気がする。
まあ、普通に食べたくないよね^^。
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