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#2-10.第二の容疑者 酒飲みのコール

【まじらぼ 前回までは】

第一の容疑者・船頭のガスの家を調査するソータ、ペイジ、クロエさん。ガスが被害者と口論の元、グリフォン像を発見。その台座の形状は凶器と一致していた。しかしルミノール反応は出なくて──



     1



 ダンカン通りの詰め所に戻ったオレたちは、ガスの家に凶器はなかったと報告した。

 船頭のガスはすぐに釈放された。


「手間掛けたな。気をつけて帰りな」


 シドの旦那に声をかけられたガスは、無言で頭を下げ、詰め所を出て行った。


「お嬢、ちょいと」

「どうしたハッチ、ハンナ?」


 ハッチとハンナ。このドワーフの老夫婦は、ペイジの父親の助手だった。時代劇ふうに言うと下っ引きだ。

 親父さんが追放された後も、ペイジの下っ引きをやっている義理堅い夫婦である。


「サナ──ガイシャの奥さんが、犯行時刻、テージャスの神殿で目撃されてやす」

「奥さんにアリバイがあったのか」


 ほっとすると同時に疑問がわいた。


「奥さんは神殿で何してたんだ?」


 犯行時間は深夜。

 なんでそんな時間に女性がひとりで神殿にいたんだ?


「離婚の申し立てじゃない? テージャスの神殿は縁切り寺だから」

「離婚したい妻が申し立てをして、神殿が正当だと認めたら武装神官が出向いて離婚の手続きをすンだよ」


 クロエさんに続いてペイジが説明する。


「死んだ旦那は、ラッキーグリフォンの蒐集家で、借金してでも買ってたンだ。で、奥さんとはそれでよくケンカしてた。あの日は、とうとう頭にきてテージャスに離婚の申し立てに行ったんだろう」

「だけど、神殿まで来たら迷いが出たんでしょう」


 ペイジに続けてハッチが言う。


「証人はミルトンって流れもの。職にあぶれて神殿の世話になってる男でさ。そいつが夜中、門前で入るかどうか迷っている様子のサナさんを見てやした」

「頭に血ぃ上って神殿まで来たけど、いざその場に来たら頭が冷えたんですよ。夫婦やってりゃ一度や二度はありますよ」


 ハッチ、そしてハンナがうなずきながら言った。


 神殿なのに縁切り寺とか、武装した神官が離婚届持ってきてサインを迫るとか、ツッコミたいところはあるが……とにかく、奥さんにはちゃんとしたアリバイがあったんだ。オレはほっとした。


「残る容疑者はコールだけだ。彼の家の調査に行こう!」

「ガッテンだ!」


 不安がなくなったオレとペイジは、足取りも軽く歩き出した。


「これでコールの家でも凶器が出なかったら、笑っちゃうわね」


 後ろでぼそっとクロエさんがつぶやく。


 いや、笑えませんてクロエさん……。



     2



 オレとクロエさんそしてペイジが、第二の容疑者コールが住んでいるユシアの町に到着したのは、そろそろ日が暮れようかという時間だった。


 コールが住むのは低所得者向けの集合住宅だった。


「……団地みたい」


 四角い、シンプルなデザインの4階建ての建物。それがいくつも並んでいる姿は、あっちの世界の団地によく似ている。

 違うのは、1階が商店や倉庫になっていること。あと家賃は上の階ほど安い、ということだった。


 オレたちはまず、一番端にある建物、その1階にある管理人の部屋に向かった。


「お上の御用だ。鍵貸してくんな」


 ペイジがそう言うと、管理人がマスターキーを渡した。


 あまりにあっさり渡したことにオレは驚いた。


 護民兵の黒ベストが身分証がわりらしい。

 それにしても、令状もナシで家宅捜索ができるんだ。


 刑事ドラマでは、礼状ナシで捜索して怒られたり、礼状が下りなくてイライラする状況がよくある。


 視てた時はイライラして、法律って面倒だなって思ってた。

 けど、こうしてホイホイ家宅捜索ができてしまうと、ちょっとこわくなる。


「コールは職と住み処を転々としているヤツで、〈都〉の市民になったのは一昨年。歳も40代くらいだってことしかわからねぇ」


 四角い建物のひとつを見上げてペイジが言う。

 この4階にコールが住む部屋がある。


「家族はいないの?」


 クロエさんが尋ねた。


「独り暮らしだ。親しいヤツもあまりいねぇ。酒癖が悪いって話しだからな」


 答えながら、ペイジは建物に入ってゆく。オレとクロエさんが後に続いた。


「意外とキレイなんだな」


 予想に反して、建物の内も外もキレイだった。

 低所得者向けの集合住宅というから、アメリカの刑事ドラマに出て来るスラムみたいな場所を想像していたのだけど。


「清掃は週に二度。手伝うと賃金がもらえるから、小遣い、飲み代がほしいヤツは進んで手伝うって寸法さ」

「なるほど」


 ペイジによると、この団地はいわゆる国営で、貧民対策の一環として、前の王さまリカルド王が作らせたものだという。

 前王リカルドはいわゆる名君で、国を住みよく豊かにする改革、政策を多く行ったことで「英明王」とも呼ばれている。


 話している内に4階に着いた。


「ふぅ……」


 階段を上りきったところで、クロエさんが息をついた。ちょっと色っぽい。


 この世界には魔法動力のエレベーターはあるけど、ここの建物にはない。たから家賃が安いんだろう。オレも、足がちょっと張っている。


「こっちだ」


 一方、ペイジは平気な様子だった。オレにあれこれ説明しながら階段を上がっていたのに、息も乱してない。さすが岡っ引き、いや護民兵だな。


「護民兵だ。コール、いるか?」


 奥の部屋のドアをドンドン、と乱暴にたたいてペイジが怒鳴る。


 しかし、返事はない。


「やっぱ、いねぇのか」


 つぶやいて、ペイジは管理人から借りておいたマスターキーを取り出した。


 ガチャリ。鍵を開ける音が、やけに大きく耳に響いた。


 鍵を開けると、ペイジは念のためこん棒を抜いて手にした。


「開けるぜ」


 そう言うと、ペイジはゆっくりとドアを開けた。



     3



 薄暗い部屋は無人だった。


 コールが暮らしている部屋は広さが10畳くらい。入ってすぐに小さなキッチンが付いたダイニング兼リビング。奥が狭い寝室という構成だった。


 あっちの世界でオレが暮らしていたアパートより広い。でもこっちの団地はバスとトイレは共同だという。


 家具や物が少ないから、室内はがらんとしていた。部屋のすみにはゴミや酒の空き瓶がいくつも転がっている。


「ヤニくせぇ」


 入ってすぐ、ペイジが顔をしかめた。

 薄暗い部屋の中は、タバコと酒のにおいが充満していた。テーブルの上の小皿にはタバコの吸い殻が山盛りになっている。


「安物ばかりね」


 酒の空き瓶を眺めてクロエさんが言う。


「コロシの凶器は酒瓶って可能性は?」


 ふと思いついてクロエさんに尋ねた。


「大きなものなら。あとは中身がいっぱい入ったものならあり得るわね」


 可能性はあるってことか。


「とっとと探すぜ」


 窓を開けてペイジが言う。新鮮な空気と一緒に、日暮れの赤い光が入って来る。


 オレたちは、凶器になりそうな、重くてカドのあるものを探した。

 見つかったのは空き瓶が二本と、重そうな金属の塊が二つ。


「これは?」

「こいつは金床だ。こっちは鋳造型だ」


 ペイジが説明する。


「へぇ、こんな金床ってあるんだ」


 オレが知ってる金床は、小学校の図工室にあった片方がツノみたいにとんがってるものだった。

 コールの家にあった金床は、ツノがなく四角いシンプルなものだった。大きさも15センチくらいと小さい。


「コールはアクセサリの職人らしいな」


 なるほど。鋳造型は文字通り、溶かした金属を流し込む型か。


 見つかったものを部屋のまん中にある丸テーブルの上に置いた。

 酒瓶、金床、鋳造型の順でルミノールをかけてみる。


「どれも反応ナシか……」


 だけど、どれからもルミノール反応は出なかった。


 酒瓶や金床をひっくり返したり、上も下も前も後ろも見てみるけど、光ってる場所はない。


 コールは犯人じゃないのか? だとしたら──


「おい」


 ペイジが声を上げた。


「光ってるぜ?」

「え?」


 ペイジが指差す先、テーブルの上に青白い、ぼんやりとした光がいくつもあった。


 大きいのは指先ほどで、小さいのはギリギリ目で見えるかどうかっていうほど小さい。

 酒瓶や金床にルミノールを噴射した時、テーブルの上にもかかってしまったのだろう。


 気になったオレは、テーブル全体にルミノールをかけてみた。


「うわっ?」


 テーブルのほぼ全体が光ってる!


 これ、ちょっと手を切ったって量じゃないぞ? テーブルの半分以上が血まみれだ。


「魚かトリでも捌いたのか?」

「あるいは人間とか……!」


 自分で言ってこわくなった。


 オレは飛び退くようにテーブルから離れた。



異世界の住宅事情がチラリと出た今回です。

中世のヨーロッパでは階が上ほど家賃は低かったとか。現代と逆ですね。

家の中に水道はないし、上がるのが大変だからでしょう。

この作品世界では上下水道はありますがエレベーターはないので、やはり上の階は安いです。

といっても4階まで、それも1階は倉庫や馬車の車庫なので実質3階層までですが。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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