#2-8.光れ! ルミノール液
【まじらぼ 前回までは】
元聖女ペイジとネクロマンサーのクロエさんが顔を合わせた。すわ光と闇の戦い勃発かと思いきや、ふたりは意気投合した様子で──
1
「それでは、現状確認です」
サミちゃんも加わり、お互いを紹介し終わったところでオレは言った。
「凶器は重い鈍器のようなものだけど、まだ不明」
凶器、不明、と黒板に書く。
何が凶器かわかれば、犯人を見つける手掛かりになるんだけど。
「騎士団の調べはどこまで進んでいるか教えて。ペイジ」
実際に聞き込みしているのはペイジたち護民兵で、指揮しているのはシドという衛士なんだけど、ここでは騎士団としておく。
「騎士団が容疑者とみているのは三人。殺されたヨナの奥さんのサナ。客のコール。あと船頭のガスってヤツだ」
ふむふむと、黒板に三人の容疑者の名前を書く。
「容疑者とみている根拠はなんじゃ?」
のじゃ子さんが尋ねる。
「ガイシャが殺される前、奥さんと大ゲンカしてたンだ。奥さんは何度も、殺してやる! って言ってたと、客や近所の連中が証言している」
「それだけで容疑者か……」
思わず、つぶやいた。
「殺してやる、くらい、しょっちゅう言うよね」
「はい…ってダメですよ! しょっちゅう言ったら」
クロエさんに同意しかけ、あわてて否定するサミちゃん。
「客のコールは?」
「こいつは大酒飲みで、酒癖が悪いンだ。あんまりひどいんで、何日か前に出禁にされた」
「それだけで人を殺すかな?」
「酔った勢い、というのもあるかもしれんぞ」
のじゃ子さんが言う。
……そういうものかも知れない。
リアルでは、刑事ドラマみたいな深い理由とか、隠れた動機なんてないのが普通かもしれない。
「船頭も出禁?」
「ガスについてはよくわからねぇ」
クロエさんの質問にペイジは肩をすくめた。
「わからない?」
「ヨナとよく言い争ってたのは確かだ。酒を飲むわけでもないのに、しつこく訪ねてきては口論していたらしい」
奥さん、客のコール、船頭のガス。
気になるのはガスだけど、これは口論の内容がわからないからだ。あやしいといえばみんなあやしい。
「新しい情報があったら教えてくれ」
「ガッテンだ!」
笑って言うペイジ。
この口調…ファンタジーな世界では違和感バリバリだけど、刑事役が仲間になったのは助かるな。
「じゃあ最後。ルミノール液の開発はどうかなサミちゃん?」
「すみません。まるでダメです」
しょげた顔で言うサミちゃん。
「やはり血液に反応して光るもの、では漠然としすぎているのかの」
「はい」
のじゃ子さんの言葉に、小さくなるサミちゃん。
「サミちゃんの力が足りないんじゃないよ。オレがルミノールのことを詳しく覚えていればなあ」
そうなんだよ。オレがもっとしっかりドラマを見て、覚えていたら。自分の記憶力のなさにため息が出た。
「ふむ…では、ソータの記憶を蘇らせてみようか」
いきなりのじゃ子さんが言った。
2
のじゃ子さんが、いつも肩から提げているカバンから取り出したのは鏡だった。
大きさはA4のノートくらい。
「人の記憶というのは消えはしない。時が経つと、保存された場所にアクセスできなくなるだけじゃ」
空中に光るルーン文字を描きながらのじゃ子さんが言う。
「忘れる、ではなく思い出せない、ということですか?」
「その通りじゃソータ。これから行う魔法は、お主の記憶を掘り起こすものじゃ」
のじゃ子さんが魔法を完了させる二重線を引いた。
「ま、また〈スパイク〉がチクチクする…?」
「〈スパイク〉が起動して、お主の脳をこの鏡にリンクしておるのじゃ」
のじゃ子さんが言う。
オレの脳波とかが、この鏡に飛んで表示されているのか? まるでWi-FiかBluetoothだな。
「思い出したいことに集中せよ。その記憶がこの鏡に表示される」
そう言うとのじゃ子さんが鏡をテーブルに置いた。
魔法がかけられているのか、鏡は支えもなしにテーブルの上に立っている。
「何か出て来ましたよ」
「真っ白い壁に、文字がたくさん書いてあるわね」
鏡をのぞき込んだサミちゃんとクロエさんが言う。
これ、ウィキの画面じゃないか! なんでこんなものが……
「……あっ」
いつだったか、刑事ドラマでみたルミノールについてウィキで調べたんだ。これはその時の記憶なのか。
おお、ルミノールの生成方法が鏡に標示されたぞ。微妙に文字が抜けているのは記憶が抜けてるからか。
「これはなんて書いてあるんだい?」
ペイジが言う。
鏡に表示されているのは日本語だ。これは魔法で翻訳されていないのか。
「じゃあ読み上げるから、よく聞いていてね」
「はい、お願いします!」
サミちゃんがメモ帳を用意してうなずいた。
「ええっと──3ニトロフタル酸のトリエチレングリコールにヒドラジン水溶液を加えて加熱、5ニトロフタルヒドラジドにする。ここに亜二チオン酸ナトリウムを加えて加熱、酢酸で中和すると、底にルミノールができるんだ」
顔を上げると、みんなぽかーんってなっていた。
「今のは、何の呪文じゃ?」
大賢者のじゃ子さんでもわからないのか!
そうだった。この世界は魔法が科学の代わりをしている世界だった。
だからニトロフタル酸とかトリエチレングリコールとか、そういう言葉はないんだ。
──科学と魔法、化学と錬金術の間には越えられない壁がある。
それを思い知らせされた。
何か…何か方法はないのか……?
3
「休憩にしましょう! お茶淹れますね」
落ち込み、考え込むオレを見かねて、サミちゃんはお茶を淹れに行った。
しばらくして、甘酸っぱいような香りのお茶が淹れられた。
「真っ赤だ」
ティーカップに注がれたハーブティーは、おどろくほど真っ赤な色をしていた。
「ローズヒップティーです」
サミちゃんが答える。
その名前、ドラマで聞いた気がする。
こっちの世界にコーヒーや紅茶はないけど、ハーブとかは同じものがたくさんあるんだな。
一口飲むと、甘酸っぱい味が口に広がった。
ああ…なんか落ち着く。サミちゃんの優しさが身にしみる。
「血みたいな色だけど味は違うのよね」
クロエさんがネクロマンサーらしいことを言う。
やめてよ。せっかく癒やされているのに。
「そりゃ成分が違うからの。ちなみにこの赤色には肌に良い成分が、香りには緊張緩和、精神回復の効果がある。今のわしらにピッタリじゃな」
のじゃ子さんが解説して、一口、口にした。
……成分?
「そうだ! 成分だ!」
ひらめいたオレは、記憶を映す鏡に意識を集中した。
鏡に、また白い画面──ウィキの画面が表示される。
出てこい…出てこい……よし、出た!
「やっぱりそうだ! ルミノール液が光るのは、血液に含まれる鉄分に反応して光るんだよ」
「血には鉄が入ってんのか?」
「言われてみれば鉄っぽい味がするわね」
ペイジとクロエさんが言う。
「と、いうことは鉄と反応して光る薬を作ればいいんですね!」
言うなり、サミちゃんは研究室に向か──おうとして、階段を転げおちた。
× × ×
──数十分後。
「……できた!」
雨戸とカーテンを閉め、暗くしたラウンジ。
テーブルの上の皿。その皿にある魚のヒレの根本と内臓がぼんやりと光っている。ちなみにこれは晩飯用の魚である。
「サミちゃんすごい! こんな短時間でルミノール液作るなんて!」
「えへへへ」
と、笑うサミちゃんがかわいい。
「で、コイツをどう使うんだ?」
ペイジが尋いた。
「容疑者の家で、凶器と思われるものにかけるんだ。こんなふうに光るものがあれば、それはきっと凶器だ」
「よし!」
ペイジが意気込んだ時だ。
パタパタという羽音と共に、青と白の半透明な小鳥──メールバードが飛び込んで来た。
これは手紙が小鳥の形に変形して宛先まで飛んで行くという、魔法の手紙だ。鳥の形の時は霊体化していて、風の影響は受けないし、壁なんかは通り抜けるんだ。
ポンっ! と小鳥ははじけて手紙に変わり、のじゃ子さんの手元に落ちた。
「衛士のシドからじゃ」
手紙を読んだのじゃ子さんの目が細くなった。
「……犯人が捕まったそうじゃ」
ええっ?
刑事ものでお馴染みのルミノール登場です。
サミちゃんがんばった。
次回から捜査パートがはじまります。
さてどうなるか?
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