表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/57

#2-8.光れ! ルミノール液

【まじらぼ 前回までは】

元聖女ペイジとネクロマンサーのクロエさんが顔を合わせた。すわ光と闇の戦い勃発かと思いきや、ふたりは意気投合した様子で──



     1



「それでは、現状確認です」


 サミちゃんも加わり、お互いを紹介し終わったところでオレは言った。


「凶器は重い鈍器のようなものだけど、まだ不明」


 凶器、不明、と黒板に書く。

 何が凶器かわかれば、犯人を見つける手掛かりになるんだけど。


「騎士団の調べはどこまで進んでいるか教えて。ペイジ」


 実際に聞き込みしているのはペイジたち護民兵で、指揮しているのはシドという衛士なんだけど、ここでは騎士団としておく。


「騎士団が容疑者とみているのは三人。殺されたヨナの奥さんのサナ。客のコール。あと船頭のガスってヤツだ」


 ふむふむと、黒板に三人の容疑者の名前を書く。


「容疑者とみている根拠はなんじゃ?」


 のじゃ子さんが尋ねる。


「ガイシャが殺される前、奥さんと大ゲンカしてたンだ。奥さんは何度も、殺してやる! って言ってたと、客や近所の連中が証言している」

「それだけで容疑者か……」


 思わず、つぶやいた。


「殺してやる、くらい、しょっちゅう言うよね」

「はい…ってダメですよ! しょっちゅう言ったら」


 クロエさんに同意しかけ、あわてて否定するサミちゃん。


「客のコールは?」

「こいつは大酒飲みで、酒癖が悪いンだ。あんまりひどいんで、何日か前に出禁にされた」

「それだけで人を殺すかな?」

「酔った勢い、というのもあるかもしれんぞ」


 のじゃ子さんが言う。


 ……そういうものかも知れない。

 リアルでは、刑事ドラマみたいな深い理由とか、隠れた動機なんてないのが普通かもしれない。


「船頭も出禁?」

「ガスについてはよくわからねぇ」


 クロエさんの質問にペイジは肩をすくめた。


「わからない?」

「ヨナとよく言い争ってたのは確かだ。酒を飲むわけでもないのに、しつこく訪ねてきては口論していたらしい」


 奥さん、客のコール、船頭のガス。

 気になるのはガスだけど、これは口論の内容がわからないからだ。あやしいといえばみんなあやしい。


「新しい情報があったら教えてくれ」

「ガッテンだ!」


 笑って言うペイジ。


 この口調…ファンタジーな世界では違和感バリバリだけど、刑事役が仲間になったのは助かるな。


「じゃあ最後。ルミノール液の開発はどうかなサミちゃん?」

「すみません。まるでダメです」


 しょげた顔で言うサミちゃん。


「やはり血液に反応して光るもの、では漠然としすぎているのかの」

「はい」


 のじゃ子さんの言葉に、小さくなるサミちゃん。


「サミちゃんの力が足りないんじゃないよ。オレがルミノールのことを詳しく覚えていればなあ」


 そうなんだよ。オレがもっとしっかりドラマを見て、覚えていたら。自分の記憶力のなさにため息が出た。


「ふむ…では、ソータの記憶を蘇らせてみようか」


 いきなりのじゃ子さんが言った。



     2



 のじゃ子さんが、いつも肩から提げているカバンから取り出したのは鏡だった。

 大きさはA4のノートくらい。


「人の記憶というのは消えはしない。時が経つと、保存された場所にアクセスできなくなるだけじゃ」


 空中に光るルーン文字を描きながらのじゃ子さんが言う。


「忘れる、ではなく思い出せない、ということですか?」

「その通りじゃソータ。これから行う魔法は、お主の記憶を掘り起こすものじゃ」


 のじゃ子さんが魔法を完了させる二重線を引いた。


「ま、また〈スパイク〉がチクチクする…?」

「〈スパイク〉が起動して、お主の脳をこの鏡にリンクしておるのじゃ」


 のじゃ子さんが言う。


 オレの脳波とかが、この鏡に飛んで表示されているのか? まるでWi-FiかBluetoothだな。


「思い出したいことに集中せよ。その記憶がこの鏡に表示される」


 そう言うとのじゃ子さんが鏡をテーブルに置いた。

 魔法がかけられているのか、鏡は支えもなしにテーブルの上に立っている。


「何か出て来ましたよ」

「真っ白い壁に、文字がたくさん書いてあるわね」


 鏡をのぞき込んだサミちゃんとクロエさんが言う。


 これ、ウィキの画面じゃないか! なんでこんなものが……


「……あっ」


 いつだったか、刑事ドラマでみたルミノールについてウィキで調べたんだ。これはその時の記憶なのか。


 おお、ルミノールの生成方法が鏡に標示されたぞ。微妙に文字が抜けているのは記憶が抜けてるからか。


「これはなんて書いてあるんだい?」


 ペイジが言う。


 鏡に表示されているのは日本語だ。これは魔法で翻訳されていないのか。


「じゃあ読み上げるから、よく聞いていてね」

「はい、お願いします!」


 サミちゃんがメモ帳を用意してうなずいた。


「ええっと──3ニトロフタル酸のトリエチレングリコールにヒドラジン水溶液を加えて加熱、5ニトロフタルヒドラジドにする。ここに亜二チオン酸ナトリウムを加えて加熱、酢酸で中和すると、底にルミノールができるんだ」


 顔を上げると、みんなぽかーんってなっていた。


「今のは、何の呪文じゃ?」


 大賢者のじゃ子さんでもわからないのか!


 そうだった。この世界は魔法が科学の代わりをしている世界だった。

 だからニトロフタル酸とかトリエチレングリコールとか、そういう言葉はないんだ。


 ──科学と魔法、化学と錬金術の間には越えられない壁がある。


 それを思い知らせされた。


 何か…何か方法はないのか……?



     3



「休憩にしましょう! お茶淹れますね」


 落ち込み、考え込むオレを見かねて、サミちゃんはお茶を淹れに行った。


 しばらくして、甘酸っぱいような香りのお茶が淹れられた。


「真っ赤だ」


 ティーカップに注がれたハーブティーは、おどろくほど真っ赤な色をしていた。


「ローズヒップティーです」


 サミちゃんが答える。


 その名前、ドラマで聞いた気がする。

 こっちの世界にコーヒーや紅茶はないけど、ハーブとかは同じものがたくさんあるんだな。


 一口飲むと、甘酸っぱい味が口に広がった。


 ああ…なんか落ち着く。サミちゃんの優しさが身にしみる。


「血みたいな色だけど味は違うのよね」


 クロエさんがネクロマンサーらしいことを言う。

 やめてよ。せっかく癒やされているのに。


「そりゃ成分が違うからの。ちなみにこの赤色には肌に良い成分が、香りには緊張緩和、精神回復の効果がある。今のわしらにピッタリじゃな」


 のじゃ子さんが解説して、一口、口にした。


 ……成分?


「そうだ! 成分だ!」


 ひらめいたオレは、記憶を映す鏡に意識を集中した。


 鏡に、また白い画面──ウィキの画面が表示される。


 出てこい…出てこい……よし、出た!


「やっぱりそうだ! ルミノール液が光るのは、血液に含まれる鉄分に反応して光るんだよ」

「血には鉄が入ってんのか?」

「言われてみれば鉄っぽい味がするわね」


 ペイジとクロエさんが言う。


「と、いうことは鉄と反応して光る薬を作ればいいんですね!」


 言うなり、サミちゃんは研究室に向か──おうとして、階段を転げおちた。



     ×   ×   ×



 ──数十分後。


「……できた!」


 雨戸とカーテンを閉め、暗くしたラウンジ。

 テーブルの上の皿。その皿にある魚のヒレの根本と内臓がぼんやりと光っている。ちなみにこれは晩飯用の魚である。


「サミちゃんすごい! こんな短時間でルミノール液作るなんて!」

「えへへへ」


 と、笑うサミちゃんがかわいい。


「で、コイツをどう使うんだ?」


 ペイジが尋いた。


「容疑者の家で、凶器と思われるものにかけるんだ。こんなふうに光るものがあれば、それはきっと凶器だ」

「よし!」


 ペイジが意気込んだ時だ。


 パタパタという羽音と共に、青と白の半透明な小鳥──メールバードが飛び込んで来た。


 これは手紙が小鳥の形に変形して宛先まで飛んで行くという、魔法の手紙だ。鳥の形の時は霊体化していて、風の影響は受けないし、壁なんかは通り抜けるんだ。


 ポンっ! と小鳥ははじけて手紙に変わり、のじゃ子さんの手元に落ちた。


「衛士のシドからじゃ」


 手紙を読んだのじゃ子さんの目が細くなった。


「……犯人が捕まったそうじゃ」


 ええっ?


刑事ものでお馴染みのルミノール登場です。

サミちゃんがんばった。

次回から捜査パートがはじまります。

さてどうなるか?


ここまでお読みいただきありがとうございます。

よろしければブクマ、評価、リアクション、感想、レビューなどをお願いします。

質問やツッコミも大歓迎ですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ