#2-6.聖女が岡っ引きになったワケ
【まじらぼ 前回までは】
殺人の犯人にされそうになっていた男フーゴを助けたことで、ソータたち魔捜研は護民兵ペイジの信頼を得る。そしてペイジが聖女として修行していた神殿へと案内される──
1
護民兵の詰め所を出たオレたちは、ペイジに連れられてテージャスの神殿にやって来た。
「そういや神殿に来るのはじめてだな」
ペイジと遭遇したレストランがある通りを少し進んだ先、ちょっとした坂道があってその上にテージャスの神殿はあった。
そこそこ広い広場のその奥。たくさんの石の柱が支える三角屋根の建物。ギリシアとかローマの神殿に似ているけどカラフルだ。基本は白だけど、赤、青、緑に金と様々な色が塗られている。
オレはなんとなく日本の大きな神社を思い出した。
広場に何十人と人がいたからだろう。半分は炊き出しに並ぶ人たちで、残りは参拝(?)に来た人たちらしい。
「なんだアレ?」
神殿の手前に黒猫の像があって、大勢の人がお詣りしている。
まるでダルマみたいな丸い猫だ。先日、のじゃ子さんにもらったお土産の猫ダルマにそっくりだ。
「ケット・シーの象だよ」
ペイジが言う。
「ケット・シーってのは猫の妖怪じゃないのか?」
なんでそんなものが法と正義の神の神殿にあるんだ?
「聖霊あるいは小神といったほうが近いな」
「昔、神殿を建てる場所を探していたテージャスの神官の前にケット・シーが現れ、ここに案内したっていう伝説があンだよ」
のじゃ子さんに続いてペイジが言う。
ああ、お稲荷さんのキツネみたいなものか。
そう思うと、この神殿に親近感がわいてきた。
「お詣りに来るヤツの半分は、このケット・シーの厄除けのお守り目当てだ」
ペイジに言われてみると、ケット・シー像の近くには土産物売り場みたいな場所があって賑わっている。
マジで神社かよ。ますます親近感がわいてしまった。
オレとのじゃ子さんも昼メシを食い損ねたので、フーゴと炊き出しに並び、パンとスープを受け取った。
「意外と美味いな」
スープは色んな野菜がドロドロに溶けたもので、見た目は悪いけどいい香りだ。うま味も豊かで味はコンソメに近いかな。
「野菜の切れ端をクズ肉と一緒に煮込んだものだけどな。テージャス神の奇跡でこの通りさ」
と、ペイジが胸を張る。
「神聖魔法を料理に使っているの?」
「解毒と浄化の魔法の応用じゃな」
のじゃ子さんが解説する。
「ヘタなヤツがやると薄味で水っぽくなるが、これはなかなか見事じゃな」
ケット・シー──猫の妖怪グッズを神殿内で売ったり、スープ作りに神の奇跡を使ったり、ファンタジー世界は神殿も神さまも大らかだな。
そんなことを考えた時だ。
「ジェニー!」
と、女性の声がした。
声の主は白い服を来た30代くらいの女性だった。ここの神官──聖女だろう。
「久しぶりですね。何かあったのですか?」
「どもシュズさん。ご無沙汰してます」
頭をかいてペイジは聖女シュズにあいさつした。
ジェニーって、ペイジのことか?
2
ペイジがオレたちを紹介した後、ここに来た目的を話した。
「こいつはフーゴ。仕事にあぶれているっていうから連れて来たんだ。どっか世話してくれねぇか?」
「そういうことでしたか」
聖女シュズさんは苦笑すると、若い神官を呼んだ。
フーゴはペイジに何度も礼を言って、神官と一緒に事務所へと向かった。
「あなたも司祭さまに挨拶して行きなさい」
「うへぇ…そんじゃ客人の相手を頼むぜ」
赤毛の頭をかきかきペイジは神殿へと向かった。
「ジェニーを助けていただき、感謝します」
「いえ、それより…ジェニーってペイジの名前ですか?」
「ええ」
頷いたシュズさんの顔は、少し悲しそうだった。
「あの子は、あれでも将来を嘱望された聖女だったのですよ」
「マジですか?」
立派な聖女になると期待されていた? あの江戸っ子の岡っ引きペイジが?
「2年前、父親が護民兵の立場を利用して悪事を働いたと告発されたのです。裁きの結果、ジェニーの父親は〈都〉から無期追放の刑となりました」
オレは思わずペイジのほうを見た。彼女はちょうど神殿に入るところで、黒のベストを着た背中はすぐに見えなくなった。
〈都〉から追放と聞くと、大したことないと思うかもしれない。
大間違いだ。
この世界では、住んでいた土地から追い出されるのは大変なことなんだ。
魔捜研の立ち上げの時、オレは法律やらなんやかんやを勉強させられて、それで知ったのだ。
──無期追放は、死刑に次ぐ重い刑罰なんだ。
この世界では、まともな場所に住むにも、仕事に就くにも保証人が必要だ。
追放された人間にはこの保証人がいない。するとどうなるか?
保証人がいない人間は、フーゴみたいに日雇いのハンパ仕事くらいしかない。そこで稼いだカネも木賃宿の代金で大半が消える。
ちなみにフーゴは元農民で、洪水で畑を流され、食えなくなって〈都〉に流れてきたのだった。そういう人間はたくさんいて、炊き出しに集まっているのはそういう人たちだ。
〈都〉でさえ、職にはあぶれるのだ。これが小さな町や村だと仕事なんかありはしない。よほどの才覚がないと、他所者は生きて行けないのだ。
つまり追放刑ってのは、「見えない場所で野垂れ死んでくれ」と期待する刑罰なんだ。
「ジェニーは父親が無実だと信じています。でも、世間はそう見てはいない。だからジェニーは神殿を辞め、父の後を継いで護民兵になったのです。地に落ちた護民兵ペイジの評判を上げるため。そして冤罪で捕まる人を少しでも減らすために」
──冤罪はよくねぇ。下手人を捕まえるのは大事だが冤罪はよくねぇ。
さっきペイジが言ったことを思い出した。
あの時の思い詰めたような顔、真剣な表情は、そういう事情があったからか。
「それで、彼女のオヤジさんは?」
「消息不明です。ジェニーは生きていると信じていますが……」
シュズさんの言葉は途中で消えた。
「あの娘の父親なら、しぶとく生きておる気がするがな」
のじゃ子さんが場の空気を明るくするように言う。ちょうどそこにペイジが戻って来た。
「なんだい? 深刻な顔して、何話してたンだ?」
「えっと……」
元気、脳天気なペイジ。その重い過去を聞いたばかりだから、話しづらいな。
「ペイジとジェニー、どっちで呼んだらいいのかなって」
苦し紛れにそんなことを言ってしまう。
「ンだよ。そんなことか。アタイは正義の味方、護民兵の二代目ペイジだ! ペイジと呼んでくんな!」
歯をむいて笑うペイジ。
「お、おう」
というわけで、これからも彼女をペイジと呼ぶことにした。
岡っ引きといえば銭形平次。
銭形→ゼニ→ジェニー 平次→ペイジ
というわけで、ジェニー・ペイジの名前が決まりました^^
ダンカン通りは神田明神から。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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