#2-4.冤罪をふせげ!
【まじらぼ 前回までは】
刑事・警官に相当する護民兵の少女ペイジと知り合ったソータ。情報交換をしていると、別の護民兵たちが犯人が見つかったと男を連れて来た──
1
「おら、入りやがれ!」
三人の護民兵たちが連行してきたのは、やせた男だった。部屋に入るなり蹴飛ばされ、床に倒れた。年齢は25、6くらいか。貧相な身なりをしている。
「この男が犯人なんですか?」
尋ねると、三人の護民兵が一斉にこっちを見た。
「なんだてめぇは?」
三人ともガタイが良くて人相が悪い。刑事ドラマならギャングとかマフィアの下っ端にいるような顔つきだ。……睨まれるとちょっとこわい。
「魔捜研だってよ。例のコロシを調べに来たそうだ」
オレが答える前に、ペイジが紹介した。
平然としている。同僚だからかな。なんか悔しい。
「そんなことより、そいつが下手人なのかい?」
「名前はフーゴ。流れものだ」
「オレは殺しちゃいない! 本当だ!」
容疑者─フーゴが声を上げた。
「じゃあなんで逃げた?」
「それは…!」
追求されたフーゴは目を逸らした。
あれ?
フーゴの右腕が、だらりとたれたままなことにオレは気づいた。
ケガをしているのだろうか?
「殺されたヨナとてめぇが揉めてたって証言もある」
「あれは…ツケを待ってくれないか頼んでたんだ」
「へぇ、じゃあこのカネはなんだ?」
別の護民兵が、テーブルの上に小袋を放り出した。口のところのヒモがゆるんでいて、放り出されたはずみで数枚の銀貨がこぼれ出た。
「ヨナを殺して、店から奪ったんだろ!」
「す、水路の工事で稼いだんだ」
脂汗をたらしながらフーゴが言う。
脅えている。
殺人は死罪だ。だから脅えているのか。それとも護民兵がおっかないからか。どっちだろう……。
「ウソをつくな!」
「本当だ! 信じてくれ!」
「どうやら痛い目にあいてぇようだな。立たせろ!」
護民兵のリーダー格が言うと、二人がフーゴの両腕をつかんで立たせる。
「痛でででてッ」
フーゴが悲鳴を上げる。
やはり右腕をケガしている。かなりひどいケガみたいだけど、連行される時に殴られたのか?
いや、それよりこの流れ!
自白するまで拷問する気だ!
2
──この世界には人権がない。
オレも何日か前、見慣れないヤツ、というだけで逮捕され、拷問されかかった。
あやしいヤツは片端から連行。拷問して自白したら死刑が当たり前。あとで冤罪だとわかっても誰も責任を取らない。
それがこの世界なんだ。
「まちな!」
ペイジが声を上げた。
「水路の工事だと言ったな? どこだい?」
「ええっと…ポロック通りだ。信じてくれ!」
必死に訴えるフーゴ。
「こう言ってるぜ? まずは工事の親方あたりにウラ取ったほうがいいんじゃねぇか?」
護民兵たちのほうを向いてペイジが言う。彼女も脳筋かと思ったけど、そうでもないのか。
「日雇いの顔なんざ覚えてるかよ」
「痛めつけてゲロさせたほうが早いぜ」
しかし護民兵たちは聞く耳持たなかった。
「ものはコロシだぞ? 間違いがあったらどうすンだ!」
「知ったことか! 下手人を挙げるのがオレらの役目だ!」
ペイジと他の護民兵たちが言い争っている。
──そうだ。
オレはあることを思いつき、それが可能かどうか、のじゃ子さんに尋ねた。
「できるか、じゃと? わしは大賢者じゃぞ」
フンっ! と笑って、のじゃ子さんは薄い胸を張った。
よし! オレは大きく息を吸い込んだ。
「この人が犯人かどうか、確かめてみないか」
ペイジと護民兵たち、それに容疑者のフーゴが一斉にオレを見た。
「マジか?」
疑いの目、目、目…ピンチにあるフーゴも半信半疑だ。
「お願いします」
オレがのじゃ子さんに言った時、彼女はすでに光るルーン文字を空中に描いていた。
「この者は、右腕をひどく痛めておる。おそらく水路の工事でじゃろう」
「あ、ああ、そうだ」
フーゴはかくかくと頷いた。
そこでちょうどのじゃ子さんの魔法が完成した。小さな指でフィニッシュの二本線を描くと、フーゴの右腕がぼんやり光った。
「な、なんだ?」
「怖がらずともよい。お主の腕の痛み具合を視覚化するため、色分けしてあるのじゃ」
フーゴの光る右腕は、赤、黄色、青色の三色に色分けされていた。見た目はサーモグラフィーによく似ている。
「赤い部分が損傷が大きいところじゃ。多少、回復しておるところをみると痛めたのは二、三日前じゃな」
「二日前だ。工事の最終日でムリして石を持ったら、ひどい痛みがして……」
のじゃ子さんの問いにフーゴが答える。
「筋をひどく痛めてるな。これじゃ枕を持ち上げるのもキツいだろ」
色分けされたフーゴの腕を見てペイジが言う。
これ見てそこまでわかるってことは、医療の知識があるのか?
「殺害に使われた凶器は重い、鈍器のようなものだ。この腕じゃとてもムリだ」
言ったあとでちょっと不安になったので、
「──ですよね、のじゃ子さん?」
と、小声で確認する。
「うむ。この者の腕では犯行は不可能じゃ」
のじゃ子さんはきっぱり断言した。
よく「無実なら、毅然とやってないと言えばいい」という人がいますが、それはあまりにものを知らない。
いきなり警官に囲まれ、パトカーの中で「やったのはお前か?」「ほんとはやったんだろ?」と何度も問い詰められるストレスは想像以上にヤバいんです。
心臓はバクバク。不安でおそろしくて、「やりましたと言ったら、ラクになれるんじゃ…」という考えが頭をよぎるのです。
これは経験した人じゃないとわからない。
いきなり体験したことのない非日常に放り込まれ、脳にストレスホルモンがあふれるためらしい。
オレオレ詐欺に引っかかる人も同じ精神状態だといいます。
私の場合、怒鳴られたわけでもないのに「ラクになれるなら、認めてしまおうか」と思っちゃったんですから。怒鳴られたり、ましてや拷問なんかされたら、やってなくても「やりました」って認めるのもムリないんですよ。
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